鉄の鎖がちぎれる音が地下室に響いた。
闇の中から現れたのは、人型のようでありながら人ではない“怪物”。
全身を黒い靄に包まれ、身体のあちこちから鎖が垂れ下がっていた。
「……これが“管理者”の試練?」
理沙は懐中電灯を怪物に向ける。光を浴びた瞬間、怪物は呻き声をあげて後ずさった。
だが次の瞬間、鎖が生き物のようにうねり、理沙の足首に巻きついた。
「くっ……!」
必死に足を振り払い、懐中電灯を床に叩きつけるように光を強める。
怪物は苦しげにのたうったが、闇の中から声が響いた。
「――無駄だ。お前は選ばれし“犠牲”。抗っても、結末は同じ」
その声は……自分自身の声だった。
理沙の胸に冷たいものが流れ込む。
「私の……声?」
怪物の輪郭が揺らぎ、そこに“もう一人の理沙”の姿が浮かび上がった。
「お前は犠牲を受け入れた。扉を開けるために、自らを差し出した。
なのに今さら抗うなんて――仲間を裏切るのと同じだ」
理沙の手が震えた。
確かに、自分は仲間を救うために残ると決めたはずだ。
その選択を否定することは、あの涙を、あの絆を裏切ることになる。
――本当に戦っていいのか?
――私は、犠牲になるべきじゃないのか?
膝が崩れそうになる。
だがそのとき、胸ポケットから落ちたものがあった。
それは、外に出た里奈が最後に握らせてくれた“ミサンガ”だった。
「……犠牲になったんじゃない」
理沙は震える声でつぶやいた。
「私は……みんなを生かすために残った。
でもそれは、死ぬためじゃない! 生きて、必ず終わらせるため!」
立ち上がり、懐中電灯を怪物の影に突きつける。
光はミサンガの色を反射し、怪物の身体を焼くように突き刺さった。
「うああああああっ!!」
怪物は鎖を振り乱し、地下室全体が揺れた。
理沙は光を握りしめ、叫んだ。
「私は犠牲じゃない! 反逆者よ!!」
轟音とともに、怪物は光に呑まれ、鎖ごと砕け散った。
静寂の中、理沙は膝をつき、荒い息を吐く。
――だが、終わりではない。
崩れた地下室の奥に、さらに深い闇へと続く階段が口を開けていた。
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