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stpl 紫赤 様
誤字脱字注意
日本語おかしい
ステージの照明が落ちる瞬間、俺はいつも同じ席を探してしまう。
客席の中段、通路側。
黒縁メガネに、控えめな服装。周囲より少し姿勢が良くて、ペンライトを胸の前で大事そうに握っている――俺の“推し”。
……いや、正確には「ファンの一人」だ。
そう言い聞かせてもう三年になる。
(今日も来てる)
喉の奥が熱くなるのを、歌に変えて吐き出す。
俺はアイドルだ。余裕があるふりも、完璧な笑顔も仕事のうち。
それでも、彼が目を細めて俺を見るたび、胸の奥が柔らかく締め付けられる。
可愛い。
泣きそうな顔で笑うところとか、俺が高音を伸ばすたびに小さく息を呑むところとか。
終演後、楽屋に戻る途中でスタッフに呼び止められた。
「今日の舞台挨拶のゲスト、控室こっちです」
そうして案内された部屋で、俺は息を止めた。
――メガネを外した彼が、そこにいた。
「あ……」
声を上げたのは、向こうのほうだった。
俺を見るなり、耳まで赤くなって、慌てて頭を下げる。
「は、初めまして。俳優をしている、こえです……!」
(……え、俳優?)
一気に情報が渋滞する。
でも、それ以上に――近い。距離が。
「よろしく。俺は……知ってるよね」
軽く笑って手を差し出すと、彼は一瞬迷ってから、そっと握ってきた。
指先が震えてる。
(ああ、ダメだ。可愛すぎ)
その後の会話は、正直あまり覚えていない。
仕事の話をして、共演者として食事に行く流れになって、気づけば俺のマンションにいた。
「ここ……いいんですか」
「大丈夫。俺、ちゃんと大人だし」
冗談めかして言うと、彼は困ったように笑った。
その表情が、ステージで見るよりずっと無防備で――
気づいたら、触れていた。
「……っ」
頬に触れると、びくっと肩が跳ねる。
逃げないのを確認してから、ゆっくり、時間をかける。
「怖かったら言って。無理はさせない」
「……こ、怖くないです」
震える声。
でも、嘘じゃない。
キスは浅く、何度も。
慣れてないのが分かるから、急がない。
服の上から撫でて、体温を確かめるみたいに。
「……すごい。近い……」
「何が?」
「テレビより……」
言い終わる前に、また顔が赤くなる。
俺は思わず笑って、額を合わせた。
前戯は丁寧に。
触れるたび、彼は小さく声を漏らして、時々涙目になる。
それがまた、庇護欲を煽る。
「泣き虫だね」
「……だって……」
抱きしめて、背中を撫でる。
ちゃんと安心させてから、ゆっくり深く繋がる。
行為の最中も、俺はずっと声をかけ続けた。
大丈夫か、痛くないか、気持ちいいか。
彼は何度も頷いて、俺の服を掴む。
終わったあと、彼は俺の胸に顔を埋めて、静かに呼吸していた。
「……あの」
「ん?」
「今日……夢みたいで……」
頭を撫でると、くすぐったそうに笑う。
俺は何も言わなかった。
まさか彼が、俺の長年の“推し”だなんて。
そして俺が、彼の推しだなんて――知らないままでいい。
(しばらくは)
眠りに落ちた彼を抱きながら、俺は思う。
ステージの上で歌うときも、
こうして誰かを大事に抱くときも。
――俺は、オタクなんだなって。