テラーノベル
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「え、もう別れたの?」
「別れた」
PM6:00。バイト先である居酒屋は、平日の夜、まったりとしている。というわけで、あたしの報告場所にはうってつけであった。
「早くない?二ヶ月?」
「もうすぐ三ヶ月でした」
「ま、別れたら合わなかっただけってことで、次行けばよろしいんじゃないですかー?」
「芽依はあっさりし過ぎだよー……」
「終わった恋引き摺る時間もったいないでしょ。で?また振られたの?」
レジ前のスタッフスペースはあっという間に取調室に早変わり。芽依の長いまつ毛が囲う目に見つめられ、結んだ髪をいじいじと指で触った。
「……あい。振られました」
「理由は?」
「ほとりは俺の事好きじゃないよねって言われた」
「またそのパターンか。で?ほとちゃん、馬鹿正直に〝そうで〜す〟って言っちゃったのね?」
「その通りです……」
「おバカ!そういう時って、うそでも〝そんなことないよ?〟って、あざとく言うのが男と女の暗黙のルールってやつでしょうが」
「でもね?嘘ついてまで付き合うほど、わたしはあの人に、付き合ってもらう価値があるのかなぁって思ったら……嘘、付けないじゃん?」
「そうかしら。ま、いいんじゃない?ほとりだったらすぐ新しい彼氏出来るでしょ」
もう証人尋問を終えたのか、容疑者のあたし、|柴崎《しばさき》ほとり はすぐに解放された。芽依はというと、予想が的中したのに納得してないもよう。
いや、付き合っている時はそれなりに楽しかったし、別れればそれなりに悲しんだのです。
でも、それだけ。あたしの恋愛はいつも単純であっさりとしている。
告白されて付き合うくせに、毎回振られるっていうのが、あたしの恋愛のテンプレートと化している。
長くて三ヶ月。早くて一週間。あたしの恋愛賞味期限はなかなかどうして短いらしい。
SNSでもよく見かける記念日投稿。カップルで一年を祝うって、べつに高望みじゃないはずなのに、どうしてあたしには難しいのか。
「そもそも、ほとりは恋愛向いてないと思うなー」
芽依は可愛い表情で、くるんとした茶髪のパーマヘアを指で遊ばせている。雑誌の切り抜きみたいな見た目をしておいて、酷い言いようだ。
「ド直球に言わないでよー…。割と傷ついてるんだよ?これでも」
「何言ってんの?ほとりは恋って言うより、自分のことめっちゃ好きな彼氏が欲しいだけでしょ〜?」
「うっ……」
「愛されたいからって理由で彼氏を作るの良いけど、愛は結局量り売りなんだからね〜?無償の愛なんて無いのよ〜?返す時に利息たっぷり要求する男いるから、気をつけなよね」
流石、居酒屋とキャバクラを掛け持ちしている芽依の言葉は沁みる。
白山小梅
白山小梅
12
あたしは芽依のこんなところが好きだ。短所も臆せず、ズバズバと言ってくれるの。
「だよね、そろそろ自分から好きな人見つけなきゃ……」
この人のこと、好きになりたいなって、思うだけなのに、いつも消化不良の恋ばかり拾ってしまう。
「そうだ。じゃあ、合コン行こ!彼氏にフラれたんだったら、超タイムリーじゃん!行こうよー」
あっけらかんとした声に「合コン?」と聞き返す。ちょうど、芽依が幹事をする合コンが明後日あるらしい。返事を躊躇っていれば一緒にいた|廣瀬《ひろせ》さんが口を開いた。
「また合コン?芽依ちゃんはちょっと、合コン行き過ぎじゃないですか?」
「|廣瀬さん《部外者》ちょっと黙っててくれませんか?」
スタッフ一可愛いと称される芽依に相手にされもしない廣瀬さんは、キッチンスタッフだ。
同い年で学生バイトのあたしと芽依とは違い、廣瀬さんは四つ上で、正社員である。つまり、芽依は目上の人をばっさりと切り捨てたってわけだ。
どっちの肩を持つべきか。流れてくる疎らな伝票を並べつつも短く考え、” 次こそは! “という悪い呪文が案外早くも点滅した。
「その合コン、行く!」
「だいかんげーい」
芽依の人差し指を両手で掴み、ぶんぶんと振る。
「……でも、急に参加して大丈夫なの?殺伐とした人数問題に支障はでない?」
「だいじょ〜ぶ。向こうも人数ふやして貰えれば済むことでしょ。T大との合コンだし、イケメン揃えてって言ったし?数増えた方が狙撃の的中率も上がるじゃん〜?」
「ねえ、いつスナイパーの話になったの?」
「だってうちら、サバンナのハンターでしょ?良いお肉を求めて、常に獲物を狙わなきゃダメじゃん?」
掴んでいた人差し指を静かに離す。可愛い見た目をしてた彼女は、肩の上に猛獣を飼っているようだ。
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