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『さてと……妾も帰るとしようかのぉ』
台座が紅色に輝くと、ニックは可愛らしい姿から元の姿に戻り、台座の上で大きく羽ばたきながらエラリス達を眺めていた。
『また何かあったら呼ぶと良い』
そう言葉を残すと、眩い光と共にニックは消えていってしまった。
『わ……私も帰ろう……かな……』
『うぬ。そうだな』
ニックに釣られ、ライナとモラティも光と共に姿を消す。
そんな中、この海からフィニス達を運ぶ為に残っているリヴァレーと、自分や魔女の出生を知って少なからず動揺をしているゼフィリアだけが、未だ台座の上から動かずに座っている。
『帰らないのか?』
『……帰るわよ』
『魔女は星と人間の選択の結果だ。ステラ様が悪いわけじゃない。それに、ボクらだってやる事が変わるわけではないだろ?』
『分かってるわよ!』
『せっかく慰めてやったのに酷い態度だ』
『はいはいありがとうございましたー。……まぁ私も帰るわね。みんなも無理しないでね!』
台座から立ち上がるゼフィリア。そのまま軽く飛び上がり、宙を舞うと同時に発生した小さな光の中へ消えていってしまった。
「とりあえず……出ようか」
「んだな」
精霊達の会話が落ち着き、エラリスとフィニスが出口へ向かって歩き出す。台座から飛び降りたリヴァレーも、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらフィニスの後を追いかけ、肩に飛び乗っていった。
「ニックさんとライナさんをなでなでしたかった……」
「ま、まぁ……次読んだ時に頼んだらいいんじゃないか……?」
とぼとぼと肩を落として歩いていくアルテアと、その後ろを歩くルシオ。
「……」
もう一度、祭壇と何も刻まれていない真っ白な石板に目を通すニティア。ふぅと小さなため息をついた後、踵を返し、フィニス達の後を追っていった。
⸻
「なぁ、ちょっとここで休んでいかないか?」
狭い通路を抜けた先で立ち止まり、皆に声をかけるフィニス。
「ん?」
バリルシウス達との戦闘跡が残っている空間で、全員がフィニスの声で立ち止まった。
「今後どうするかとか含めて話したいのと……ぶっちゃけ……急な話が多すぎて疲れた……」
苦笑いをしながらその場で腰を下ろすフィニス。肩に乗っていたリヴァレーも、胡座をかいたフィニス足にすっぽり入り込み、身体を丸める。
『お前らだって魔族と戦って体力的に万全ってわけでもないんだろ?ボクだって今すぐまた大きくなるのはしんどいからな。フィニスに賛成だ』
丸めた体に顔を埋めるリヴァレー。実際に戦闘したフィニスやルシオはもちろん、呪いに対抗する為に全力で魔力を出し続けていたニティア。呪いの解析のため、全身の神経を研ぎ澄ませていたアルテア。祭壇で5体の精霊とステラを呼び出したエラリス。
立て続けに起きていたイベントのせいで、全員が忘れていたが、今になって全身に押し寄せる疲労に、全員がその場で崩れるように腰を下ろしていた。
リヴァレーを膝上においたまま後ろに倒れ込むフィニス。
人間への憎しみより生まれた魔女の呪い。それにより憎しみに蝕まれてゆく魔女達。繰り返される負の連鎖。突如現れた白髪の魔女。自分の恩人。ジャヌスの仇。人々に降りかかる魔女の災厄。
色々な情報が頭の中をぐるぐると駆け回り、フィニスの頭はすでにオーバーヒートしていた。
「白髪の魔女……あいつの目的は一体なんなんだ……」
まとまらない思考を巡らせながら目を瞑ったフィニスは、そのまま深い眠りへと落ちていった。
⸻
「ま、魔族だ!魔族が来たぞ!!」
「黒い魔女!?なんでこんなところに!!は、はやく王都へ!!」
「今更間に合うわけないだろ!!子供と女を連れて逃げろ!!」
突如、村人達のけたたましい叫び声が暗闇の中響き渡る。隣で寝ていた両親が飛び起きて2つのランタンに火を灯し、そのうちの一つを手に持って父親は部屋の外へと駆け出していった。
カーン!カーン!カーン!
非常を知らせる鐘が鳴り響く。
初めての出来事に、ベッドの上で身を縮めて震えることしかできない幼いフィニスに、隣にいた母親がそっと抱き寄せた。
「大丈夫よ。あなたの事は何があっても守るから」
母親の温もりから感じる微かな震え。フィニスも無言で母親に抱きつく。
父親がすぐに部屋に戻ってきた。
「もうすぐそばまで来ている……お前達だけでも逃げろ」
その言葉に母親が抱き寄せていたフィニスの身体を離す。
「私の身体では一緒に逃げきれません……それに……魔族を引き連れた魔女が来ているとなると……子供の足でも……」
「くっ……」
そっとフィニスを抱える母親。
「ほんと……大きくなったわよね。抱っこするのも一苦労……」
フィニスを抱き抱えたまま、寝室の奥にある部屋へゆっくりと歩いていく。
「大丈夫よ。お父さんとお母さんがいいって言うまで……ここに隠れていてね」
「……」
瞳に涙を溜めながら、それでも優しい笑顔でフィニスを押し入れの中へそっと入れる母親。
後ろの父親も、困ったような顔をしながら優しく笑っていた。
「フィニス……愛してるぞ」
母親の後ろから、ゴツゴツとした硬い手。とても熱く、安心する手で頭を撫でられるフィニス。
「私も……愛してる……」
優しい手でフィニスの頬に手を当てる母親。
「待って……父さん!母さん!」
2人の手がフィニスから離れる。
「いかないでよ!!」
ゆっくりと閉められる押し入れの扉。
「父……さん……母……」
暗闇に包まれたフィニス。突然の出来事に、何が何だかわからない。ただ、幼いフィニスにできる事は、母親に言われた通り。この場に隠れている事だけ。
声を押し殺しながら必死に涙を堪えようとするも、自然と涙が頬を伝ってくる。袖で涙を拭おうとしたその時、宙を舞うような浮遊感を感じたフィニス。
次の瞬間……
ドゴーン!!
強い衝撃と共に意識を失っていた。
⸻
「うっ……」
瞼越しでも分かる程の強い光を感じたフィニス。朦朧とする意識の中、先ほどまでの光景を朧げに思い出す。きっと悪い夢だったんだ。そう思い、重たい瞼をそのままにしていたフィニス。
バーン!!
先ほど夢で聴いた音とはまた別の音と共に、吹き飛ばされんばかりの衝撃を感じたフィニス。
「う……う……」
何かに圧迫されているのだろうか……指一本動かせない身体。そして足元から徐々に熱を帯びてくるような感覚。
先ほどより弱まっているとはいえ、瞼の裏に感じている光を感じたフィニスが、ゆっくりと目を開ける。
目の前には……燃え盛る村。原型を留めぬほど崩壊している家。そして……倒れている村人達。
そんな中、揺らめく炎で赤く照らされた白髪の女性が1人。ぼーっとした様子で立っていた。
女性がフィニスの視線に気づき、目が合う。
みるみる表情が変わり、苦しそうな顔になったかと思いきや、次の瞬間には険しい顔へと変わり、フィニスに向けて手をかざす。
手を翳した女性を中心とし、周囲の空気の流れが変わっていく。
フィニスが一度瞬きをした次の瞬間……
身体を突き刺すような冷たい空気が吹き荒れ、再びフィニスは意識を失ってしまった。
コメント
1件
うわあ……第116話、めっちゃ重かったね🥀 フィニスの過去が夢って形で一気に来た感じ。幼いフィニスが押し入れに隠されて、両親が笑顔で扉閉めるところ、ほんとに胸が詰まったよ……「愛してる」って言葉が切なすぎる。 で、白髪の魔女がまた出てきて、しかもフィニスに手をかざす展開。次どうなるんだろ…この作品、伏線の張り方が本当にやばい。まだまだ謎が深まってく感じがたまらない🌙