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「……ス」
「……ィニス」
「フィニス」
ぼんやりした世界の中、遠くで自分を呼ぶ声が聞こえたフィニスが、ゆっくりと瞼を開ける。
「だいぶうなされてたけど……大丈夫?」
目の前にいる黒い紫色の髪をした少女が、心配そうにフィニスの顔を覗き込んでいた。
「ニ……ティア?」
少女の顔を見て、無意識に少女の名前を呼ぶフィニス。
「まだ寝ぼけてるみたいね」
「俺……どれくらい寝てた?」
「ん〜……小一時間ってところかな?今みんなで話をしてて、ちょうど話がまとまってきたから起こしに来たのよ」
まだぼーっとしている頭を動かしながら、辺りを見回すと、ルシオとエラリス。そしてアルテアの3人が話し合いをしていた。
「そっか……悪かったな寝ちゃって」
フィニスがゆっくりと立ち上がる。
「……あれ?」
足元に視線を落とすフィニス。
「さっきからどうしたのよ」
ここに来て休んだ時、確か足元にはリヴァレーがいたような……そう思い再びルシオ達の方に視線を送ると、アルテアの足元で丸まっているリヴァレーがいた。
「いや、なんでもない」
そう言うと、フィニスは力一杯大きなあくびをして身体を伸ばしながら、みんなの元へ歩いていく。
「悪い……いつのまにか寝ちゃってたみたいだ」
「お、起きたか。寝てる間に悪かったけど、この後どうするかみんなで話し合ってたんだ」
フィニスの後ろをついて歩いてくるニティア。全員が揃い、再び円を囲うようにして腰を下ろす。
「昔王都で武具の護送をしたの覚えてるか?」
王都のギルドで受けた依頼はさほど多く無い。当然フィニスも覚えていた。
「帰りに紅炎龍と対峙したやつだろ?それがどうした?」
「紅炎龍と戦った事あるんだ。相変わらずやばい経験してるね」
フィニスの言葉にエラリスが少しだけ驚いたような表情で口を開く。それを聞き、苦笑いをしながらルシオが答えた。
「そうそう。あの時の港町へ行こうかなと思ってな」
その言葉に首を傾げるフィニス。
「なんでまた?」
膝下で丸くなっているリヴァレーを撫でながら、アルテアが少しだけ困ったような表情をした。
「一度ヴォルガムへ戻ろうと言う話になりまして……アクリムへ戻ってからヴォルガムへ向かうとなると、やはり時間がかかってしまいます」
視線を膝下のリヴァレーへ移すアルテア。
「歩いていく陸路より、この子で海路経由で直接ヴォルガム領の港町へ行く方が早いんじゃ無いかって事になったのよ」
横からニティアが口を挟み、リヴァレーを撫でようとゆっくりとアルテアの膝下に手を伸ばす。
『シャー!!』
触れる直前で目を開け、身体を起こしたリヴァレーがニティアに威嚇をしていた。
撫でることができずに少しだけしょんぼりするニティア。
『精霊使いの荒い奴らだ』
そう言いながら、ひょこひょことフィニスの元へ駆け寄り、頭の上に乗っかってくるリヴァレー。
「ま、そう言うことだ」
そんな様子を見ていたルシオがくすりと笑い、フィニスもそれに呆れるような笑顔で返事をしていた。
「なるほどね。それじゃ早速行きますか」
もう一度大きく伸びをし、腕で目を擦る。
「?」
腕が濡れている。
この時になって初めて、自分が夢を見ている間に泣いていた事に気づくフィニス。
どんな夢を見ていたか思い出そうとするも、すでに記憶のはるか奥底へと沈み、何一つ思い出すことができなかった。
コメント
1件
第117話、読み終えました。仲間たちがヴォルガムへ戻るルートを話し合う中で、紅炎龍の話がさりげなく出てきて、過去と現在が重なる感じが良かったです。特に気になったのは、フィニスが無意識に泣いていたことにあとから気づく描写。「どんな夢か思い出せない」という伏線っぽさ、それでいて誰もそのことに触れない日常の空気感に、ぐっと来ました。リヴァレーがフィニスの頭上でくつろぐ一方、ニティアには威嚇する姿も可愛くて、精霊との距離感に個性が出ていて好きです。次の港町へ、またどんな旅が待っているのか楽しみ。