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「これとか良いんじゃない?」
「派手すぎない……? あ、いやでも、皇族だし……それぐらいでも」
結局悩んだ末に、実用的な常につけられるものがいいのではないかと言う話しになり、アクセサリーショップに来ていた。
リュシオルが選んでくれたのは、小さな宝石のついたネックレスだった。宝石はリースの瞳の色をしており、チェーンの所も金色でリースにぴったりだと思ったが、それなら私が欲しいとも思った。推しに似たものを買いたいと思う癖は未だ健在であった。
だが、リースがネックレスをつけているところが想像できず、私はリュシオルの意見を蹴った。
「なら、カフスボタンは?」
「カフスボタン?」
「えぇ、ほら、袖につける装飾品の事よ。これなんかは、普段つけていても問題ないし、シンプルだけど綺麗なデザインしているじゃない」
「確かに! それに、これリースの瞳みたいで綺麗~」
「また、それ? 飽きないわねえ」
「だって、だって!」
と、子供のようにはしゃげば、リュシオルは呆れたように肩をすくめていた。
彼女の言ったとおり、カフスボタンなら普段使い出来るし、ジャラジャラともしないしリースにぴったりなのではないかと思った。これなら、喜んでくれそう! と思ったが、リースに似合うのであって、遥輝が喜ぶかどうかと言う点について忘れていたのだ。私は、また振り出しに戻ってしまったのではないかと思ったが、これ以上に良いものが見つかりそうになかったし、私も実際これをもらったら嬉しいと思って、思い切って買うことにした。だが、値段を見て腰を抜かしてしまった。
「ひっ……これ、幾つ0つくの?あわわ……」
「それぐらい出せるわよ。エトワール様なら」
「で、でも、アクセサリー……に、こんな値段出せない!」
「なら、推しのフィギュアは?」
「何万とも出せます! 一番クジなら、ラストワン賞まで引きます」
そう言いきれば、リュシオルは深いため息を吐いて、私の頭を撫でてきた。
でも、本当に高いと思った。だって、いくら聖女でもお金にだって限界はあるし、私だったらこんなのにお金を出せないと思った。オシャレとかしてこなかったから、オシャレをしている人ってこんなに普段お金がかかっているんだなあとしみじみ思った。なら、オタクは如何なの? といわれたらそれまでなのだが。きっと、オタクじゃない人にとってオタクのお金の使い方は理解できないのだろう。価値観がそもそもに違うのだから。
そんなことを考えつつ、もう一度0を数え直すが、幾つあるんだと目が回りそうになった。でも、せっかくの、一年に一回のリースの誕生日だしこれぐらい奮発しても良いんじゃないかと思った。と言うか、推しの誕生日なのだから貢ぐべきなのだ。
「でも……ううぅ」
「ほら、これが良いんでしょ。会計済ませてくるから」
「は、はぁい……」
またリュシオルは私の反応を見て、ため息をつきながら店員さんを呼んでカフスボタンの会計をと店のカウンターへと行ってしまった。私はその間、する事もなく店内をうろうろとしていたが、一つのガラスケースの前で足が止った。引き寄せられるかのように、私はそのガラスケースに釘付けになった。
ガラスケースに入っていたのは、金色の指輪だった。店内の照明を受けて眩いほどに光っている。それは、まるでリースの髪のようで、ここでもまた彼の顔が浮かんできて、自然と私はそのガラスケースに触れいてた。本当は指紋とか手汗とかつくからダメなんだろうけど、私はそれに触れて時間を忘れて眺めていた。
「エトワール様何見てるの?」
「ひぎゃあぁあああああああ!」
会計から戻ってきたリュシオルにいきなり声をかけられた私は、この世のものとは思えない奇声を発し飛び跳ねてしまった。リュシオルは怪しげに私を見つめ、私は冷や汗を流していた。
そして、私は誤魔化すように笑うと、気持ち悪いわよ。とぴしゃりと言われて、私のテンションは一気に急降下した。
後ろから話しかけられるのは慣れていないというか、そもそもに話しかけられること自体少なかったから耐性がないのだ。
そんな風に未だ、子鹿のようにぷるぷると震えていると、リュシオルは私が見ていたものに気づいたのかまたにまぁ~としたような表情を私に向けて、肘で私をつついてきた。
「エトワール様指輪なんか見てな~にを想像していたのよ」
「な、何って! ただ、綺麗だなあって!」
「結婚指輪を?」
「どどどどどど、どうしてそうなるの!?」
と、私が怒って返せば、リュシオルはさらっと私が見ていた指輪がペアリングでということを口にした。
それを聞いて、私の顔は一気に赤くなった。
勿論、そういうものだって知って見ていたわけでは無いが、それに惹かれたって云うことは私の中でそういう思いがあるのでは? と思ってしまったのだ。無意識のうちにでた言葉はその人の本心だと言われているように、無意識にそれに惹かれたっていうことはそれもまた、そういうことなのだろう。だが、ペアリングであるだけで結婚指輪とは限らない。
(いや、ペアリング渡されたら、まずそう思っちゃうけどね!?)
男性に、指輪なんて渡されて、それがペアリングなんて言われたらきっとそういうことに違いないと、女性は勘違いするだろう。というか、そういう意味で男性も渡しているんじゃないかと思う。もう、これは完全なる偏見だけど。
そんな風に顔を赤くしていればさらにリュシオルの追撃が飛んでくる。
「リース殿下とのペアリング? それも、買っちゃう?」
「か、かかかかか、買わないわよ! というか、リースの指の大きさ分からないし!」
「なら、取り敢えず貴方のだけでもはかっておきましょうよ」
「どうしてそうなるの!?」
「どうしてって、ふふ……」
「怖い、怖い、怖い! その笑い何!?」
何かを企んでいるようなリュシオルの顔を見て私は悪寒を感じた。これは、完全に悪いことを企んでいる顔だと本能的に危険だと察知できた。
逃げようとすれば、腕を掴まれてしまい、ずるずると引きずられていく。抵抗しようにも力が敵わず、私はなすがままにされてしまった。
そのまま、レジカウンターへ連れて行かれ、店員さんにあれこれと説明をされながら、指の大きさを測ることになって、ペアリングの話まで丁寧にされて、いずれここに買いに来て下さいとも言われてしまった。名前も刻めるらしくて、リュシオルは何故か私よりテンションが高かった。そのテンションについていけない私は、もう笑うしかなかった。
帰り道、荷物持ちはリュシオルにまかせて私は小石を蹴りながら歩いていた。小石は靴にぶつかるたび、四方八方に飛んでいって中々思うように前に進まなかった。
「もう、リュシオルのせいで疲れたー」
「私のせいにしないでよ。でも、エトワール様の指の大きさ知れてよかったわ」
「だから何で!?」
「何でって、リース殿下に教えてあげられるもの」
「はあ!?」
何を言い出すんだと、私は立ち止まりリュシオルを見た。リュシオルもまた、立ち止まって私を見つめる。
何で私の指の大きさをリースに教える必要があるんだと問うている内に、彼女が言いたいことが理解できてしまい、私は彼女の肩を掴んで揺さぶった。
「ダメ、絶対教えないで!」
「何でよ」
「だって、だって、教えたらきっと買うから、彼奴、買っちゃうから!」
「良いじゃない。推しからのプレゼント欲しいでしょ?」
「そういう意味じゃないの!やだ、やだ!」
私は駄々っ子のように首を横に振りながら否定した。
別にリースが指輪を買って私に渡してくれることが嫌なわけではない。むしろ、推しから貰えるものは何でも嬉しい。けど、推しのお金を使うのはちょっと違う気がして、申し訳なくて。と言うのも勿論理由にあったが、リースの中身の、遥輝が調子に乗りそうで、また酷い妄想をしそうだからだ。
私の指のサイズなんて知ったら、そんな話なんてしたらきっと仕事をほっぽって指輪を買いに行くに違いない。だから、それは何としてでも止めなければならないと思った。
彼は、私の為ならお金も何もかも惜しまない人だったから。それが、嬉しくなかったわけではないが……
「素直に喜べば良いじゃない」
「むりむりむり! そりゃ、推しから貰えるものは全部欲しいし、ありがたいし、神棚に飾りたいけど、そうじゃないの!遥輝だよ? 元彼だよ? もしペアリング何て買って、つけだして、結婚しようとか言ってきたら私、私……」
「結婚しちゃえば良いだけの話じゃない」
「付合ってもないのに? 別れたのに!?」
と、私が言ってやれば、まだその事を言っているのかとリュシオルは冷たい目を向けてきた。
彼女に何を言っても、もう通じないと私は諦め肩を落とした。リュシオルは私と遥輝の間を持ってくれていたけど、たまに遥輝を応援する方に力を入れるから、私としては複雑な気持ちだった。いや、面白がっているだけかもしれないけれど。
「明日は、リース殿下の誕生日でもあるし朝霧君の誕生日でもあるじゃない。そろそろ答え、出してあげたら?」
「答えって……だから、別に好きとかそう言うんじゃ」
私はその後の言葉が続かなかった。
リュシオルが言っているのは攻略のことなのか、それとも四年間ほったらかしにした遥輝に対しての思いなのか……どちらせよ、私は答えが出なかった。
出すつもりでここまで来たが、矢っ張り答えは出ないままだった。
一緒にいて楽しかった、悪い気はしなかった。でも恋愛感情が会ったのかどうかは分からない。恋なんてしたことがないから。
私が蹴った小石は水路へと落ちて見えなくなってしまった。
(答え……か。遥輝は、今何を思ってるんだろう……)
別れた恋人を未だ思っている彼の心情は分からない。私を好きな理由だって、結局はぐらかされて隠されているままだし。
彼にとって私って何だったんだろうか。
私の何処が好きだったんだろうか。
私は、重い足取りで明日のパーティーに向けて聖女殿ヘと帰ることにした。