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「さて、張り切って準備するわよ!」
リュシオルのかけ声で、部屋にいたメイド達は一致団結といった感じに声を上げた。
私はそんな皆を見て、頬を引きつらせるしかなかった。
リースの誕生日当日。
トワイライトも聖女殿で着替える予定だったのだが、何故だか先に皇宮の方に連れて行かれてあちらのメイド達が彼女をコーディネートするとかなんとかで、対抗心を燃やしたのか聖女殿で働いているメイド達はいつも以上に張り切っていた。
「トワイライト様に負けないぐらい可愛くしましょう!」
「そうです、そして殿下を振向かせましょう! ね! エトワール様!」
「エトワール様の姿を見たらきっと殿下は……」
などと、普段は大人しいメイド達が口々にそんなことを言うので、私は参ってしまっていた。
どうして、ここのメイド達は皆私がリースと付合うとかそういう話をするのだろうか。もしかして、リュシオルが吹き込んでいるのではないかと私は彼女を疑いたくなった。それに、トワイライトが現われたのにもかかわらず、リースと私をくっつけようとしているところを見るとかなりガチらしい。
何がそんなに良いのだか。
「ちょっと、皆落ち着いて。その、そんな派手じゃなくて良いから。ね、ね?」
「何を言っているんですかエトワール様!」
「そうですよ、エトワール様! 今日は殿下の誕生日なんですから!」
「いや、だからね……その、誕生日だから私が目だったらダメじゃない。主役はあくまでリースだし、皆が期待しているのはトワイライトじゃない」
そう、今日の主役はリースなのだ。
だから、私が目立ってはいけないし、むしろ、私なんかよりももっと可愛い子が着飾った方が良いと思う。リースは格好いいから、彼を狙っているご令嬢もいるだろうし、何より期待しているのはきっとトワイライトだろう。私は正式には呼ばれていないわけだし、彼女が皇宮に連れて行かれたのを見て、ああきっとそういうことなんだろうなって私は思ってしまった。
どうしてここまで差別を受けるのか。まあ、今に始まったことじゃないから目を瞑るとしても……
(ここの人達は私に親切にしてくれるし、優しいし、大好きなんだけど、どうして私とリースなのかなあ……)
ほんとそこが疑問で仕方がないのである。
確かに、エトワールほどの容姿なら着飾るのが楽しくて仕方がないかも知れない。私もこんなに美人な子がいたらそりゃ可愛い服着てもらいたいと思う。まあ、お金は出さないけれど。
でも、それにしても彼女たちがトワイライトではなく私を選ぶ、私の為に力を注いでくれる理由が分からない。嬉しくないと言えば嘘になるが。
「さあ、まずドレス選びからよ!」
と、リュシオルの一声で私のファッションショーが始まった。
私は半ば強制的に部屋に連れてかれて、そこであれこれと色々と着せ替え人形にさせられた。メイド達は、あれでもない、これでもない言いながら、これはどうですか? とか、これとかエトワール様にお似合いです。とか言うので、私は取り敢えず頷くしかなく、それでもメイド達は自分たちが気に入らないのか次から次へとドレスを持ってきたのだ。もう、私はこの時点で疲れ切っていたのだが、まだ終わらなかった。エトワールの瞳のような夕焼け色のグレデーションになったドレスやら、ワインレッドの胸元が開いたドレス、青みを帯びた黒のマーメイドラインのドレスなど次々に着替えさせられて、私はもうぐったりとしていた。
もう、何でも良いよ……
と、心の中で呟いた時だった。一人のメイドがおずっとこれはどうでしょうか。ととあるドレスを持ってきたのだ。それは、普段来ている聖女専用に作ってもらった服に似ている色のドレスで、派手ではなく装飾品も落ち着いていて、白を基調とし、そこに黄色のリボンやオレンジの花などがあしらわれていた。
メイド達は、少し地味なのでは? と顔を合わせていたが、そのメイドがこぼした言葉で満場一致した。
「これ、実は皇太子殿下がエトワール様にとプレゼントされたもので」
「それよ!」
と、皆顔を明るくし、リュシオルもそれで決まりだと言わんばかりに手を打った。
私は、そんなことがあったなんて知らなかったから、唖然としてしまった。私も、ドレスを見せてもらったときいいなと思ったし、一瞬これなら着てみたいと思ったが、まさかそれがリースからの贈り物だったとは知らずに、私はそれならちょっとと遠慮しようと思ったが、メイドやリュシオルの圧に負けて首を縦に振ることしか出来なかった。拒否権はないようだった。
というか、そもそもこれまでにもたくさんのドレスをリースは定期的に送り付けてきていたようだったが、私は動きやすいという理由で聖女専用の服しか着ていなかったため、ドレスを着る機会はなかった。埃を被ったままにするのは勿体ないと、たまに着せてはもらっていたが、それをリースに見せたことは一度もなかった。
それを、今日、彼の誕生日に着ていき、見せるということがどれだけ恥ずかしいというか、きっとリースは何か言ってくるだろうと思って憂鬱な気持ちにさえなった。
でも、これで決まった以上、私はもう口出しできない。
「それにしても、相変わらず殿下の趣味は良いですよね」
「これまで、全然女性の気配がしなくて、好きじゃないと思っていたんですが」
「エトワール様が現われてから、もうエトワール様にぞっこんで」
などと、メイド達は恋バナをする乙女のようにキャッキャッとはしゃいでいて、一体誰がパーティーに参加するのか分からなくなってきた。
そして、数人がかりでドレスを着せてもらい、私が着替え終わると、メイド達が一斉に拍手をして、私を褒め称えた。鏡に映った自分の姿は、疑いたくなるような美人で、矢っ張りエトワールには白が映えると思った。髪色が銀髪なのもあるけれど、アクセントにあしらわれたオレンジの花は相変わらずに綺麗だった。
「もう、この時点で美しすぎます。エトワール様!」
「これなら、殿下もいちころですね!」
「あ、あはは……」
メイド達の拍手は鳴り止まなかった。
いや、まだ完成じゃないのに……と思いつつも、私は素直に嬉しかったのでありがとうと微笑んだ。
それから、私は髪を結い上げて貰い、化粧やら何やらをされて、完成した私の姿を再度見て、自分で見ても見惚れてしまうほどに美しく仕上がっていた。
流石にここまで仕上げられたら、リースにお披露目しないわけにもいかないだろう。私は、リースに会うのが気まずかったが、リースに会いたいという気持ちもあって複雑な心境だった。
(凄い、綺麗だよ。エトワール……)
本当の彼女だったらどう思っただろうか。もっと派手な衣装を好んだろうか。そもそも、ゲームでの彼女は無理矢理リースの誕生日に出席していたし、きっとメイド達にも恐れられていた。だから、こうして私が皆に温かく接されてリースの誕生日に送り出してもらえると言うことは奇跡なのではないかと思った。
初めは、悪役のエトワールに転生したことを嘆いて、自分はバッドエンドしかない悪役だっていっていたけれど、きっと今の私はその道から少しはずれているのではないかと思う。
勿論、何もしていないのに容姿で差別はされているが。
「エトワール様、本当におきれいです」
「そ、そう……かな」
「はい! お美しいです!」
「あ、ありがと」
矢っ張り純粋に褒められるとなんだか、照れ臭いなあ。
私は、メイド達にお礼を言うと、外で待機していたアルバがノックをして入ってきた。そうして、私の姿を見るなり崩れ落ちて泣き出した。
「エトワール様ぁああ~~~」
「ちょ、ちょっと、アルバ」
私は慌てて駆け寄って、アルバを抱き留めて、背中をさすってあげた。その間も、アルバはすすり泣くようにう、う……と嗚咽を漏らしているのか、感動しているのかは知らないが、兎に角泣いていた。
「エトワール様、おきれいです、綺麗すぎます。目が潰れます」
「わ、分かったから、ちょっと、一旦落ち着こうね。アルバ」
アルバは、どうやら私のドレス姿を見て感動して泣いているようだった。そんな気はしていたが、いざ目の前で泣かれるとどう対応して良いものか分からない。取り敢えずは、背中をさすってあげたが、あまり動くとせっかくセットしてもらった髪の毛が崩れそうだったため、アルバは大丈夫です。と全然大丈夫そうじゃない声をあげて立ち上がった。
立ち上がったアルバは、いつも以上にしっかりとした服を着ていてまさに騎士といった感じだった。強い女性、美人という印象だった彼女だが、こう正装していると男に見えるというか、見間違えるというか……
「アルバも凄く格好いいよ」
「う、う……ありがとうございます。エトワール様。エトワール様の騎士として恥ずかしくないようにと気合いを入れました」
「うん、凄く似合ってる」
「ありがとうございます」
私は、素直に感想を述べるとアルバが嬉しそうな顔をしてくれたので良かったと思った。まあ、あのまま泣き続けられても困るし。
そう思いながら、そろそろ時間だと私は部屋に置かれている大きな古時計を見て、パーティーの時間が迫っていることに気付いた。
私は、アルバに向かって手を出した。彼女は一瞬目を丸くしたが、瞬時に私の行動の意図を理解し敬礼した後に私の手を取り頭を垂れた。
「アルバ、エスコートお願いできる?」
「はい、勿論でございます。エトワール様。この、アルバ・シハーブ、エトワール様の騎士として精一杯務めさせていただきます」
アルバが、あまりにも畏まった態度だったので、私は思わず笑ってしまった。でも、それが普通なんだろうし、格好いいアルバが見えて私も少し嬉しかった。
それにつられてか、彼女も笑顔になり、私達はパーティー会場へと向かった。
パーティー会場は、皇宮にある大広間で行われるようで、そこに行くまでに何人もの貴族と思われる人々とすれ違ったが、やはり皆振り返り、私を見てきた。
しかし、一瞬にしてその顔は曇りこそこそと何かを話し始める。
(分かってたことじゃない、平常心平常心)
今日は、護衛のアルバと、侍女としてリュシオルがついてきてくれている。こんなに心強いことはないと私は言い聞かせて階段を上がっていく。その途中で、後ろから聖女さま。と声が聞え、私は振返った。そこには、見慣れたピンク頭が二つあって、私を見上げていた。