冷たいような、温かいような、涼しいような寒いような暖かいような暑いような。
私の瞼は、まだ目が覚めるのを拒否している。このままでいい。このまま、心地よい気分で何時間でも眠ろう。死ぬまで。寝たまま、死ねるまで。
「おい、起きろ」
それはモヤのかかった頭に鋭く降り掛かってきた。嫌だ、起きるもんか。
「起きろと言っているんだ。人間はどこまでも面倒なのか?」
先程まで布団の中に包まっているような心地良さだったと言うのに、今度は部屋のフローリングの上にいるようだった。冷たくて硬い。こんなところで寝れるものか。
「何」
「やっと起きたな。こっちは態々君らが使う”日本語”とやらで話してやってるんだぞ」
はあ?と重い頭を起こして周りを見渡すと、そこは日本と思えない場所だった。かといって外国ではない。どこまでも続く暖かく浅い海だった。太陽の光が反射して水面が煌めく。こんな景色は私の想像の中のウユニ塩湖くらいしか知らない。それにしたって変だ。
「如何せん時間が無いんだ。君のために綺麗な景色にしているが、本当はもっと酷いからな。それを保つのに魔力が大量に必要なんだよ」
魔力?時間が無い?まるでファンタジーの世界のようだ。
「えっと、ここはどこ?」
「いいか。質問は1回のみ。そして質問は僕の話が全て終わってからだ」
話が通じない。人の話はちゃんと聞けと教えられなかったのか?
「まず。僕らは君らの存在を認知できるようになった。君らが文章を読んでいるのか曲を聞いているのか、手段は知らないが。どうやら僕達を一つ上の次元から見ているみたいだな。僕らから見た本や絵が二次元のことであるように、君らにとっても僕らは二次元のことでしかないみたいだな」
「何を………」
「僕らの世界は既に崩壊した。かく言う僕も身体を維持できなくてね。元の状態に戻ったよ。それで、君らには僕のため──将来的には僕らのため、情報を集めてきてもらいたいんだよ。大丈夫、ただ見るだけでいい。君らに干渉は出来ないからね。鑑賞して干渉せず」
目の前にいる彼女?彼?はそこまで一息で言い切った。冗談じゃない。人間じゃない!!そもそもケモ耳が見える。この時点で人間ではなかった。
「まあ、君の許可は必要ない。ただ映画のように見るだけ。そんな簡単なことが出来ないわけないだろう?たまに意識を正気に戻さないと取り込まれるけどね。そうなった場合取り返しがつかない。もしそうなったら他の人間を呼ぶよ。さあ、行った行った。映画を見るなら席に座らないと。見る映画は僕が選んだものだけどね」
「待って、質問は──」
そう言いかけたところで、私の意識は途切れた。
コメント
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みんなも主人公ちゃんと一緒にifの世界を見てみよう!