気づいたら、僕はまたあのトイレにいた。
3つ目の個室の前。「やめろ。離れろ。」そう頭で命令しているのに、体は勝手に動いて、僕の手はドアを3回ノックする。
コンコンコン
「花子さん、遊びましょ」
「はぁ〜い〜」
「うわっ、?!?!!」
僕は飛び起きた。机と椅子を激しくガタガタッと鳴らして立ち上がる。
周りの皆が驚いた顔で僕を見ている。
ここまで状況を把握するのに、3秒ほど(体感30秒)かかった。
沈黙を破ったのは授業をしている担任の西田
「横田君、どうしたのかなぁ? 」
子供をあやすような口調でそう言う。
が、誰も笑わない。
西田の相手を小馬鹿にするような態度が、僕ら生徒達はたまらなく嫌いだからだ。
こういうふうに、生徒を叱る時にいちいち嫌味や小言をネチネチと混ぜてくる。そのせいで説教はタラタラと長くなり、1分で済む説教が10分にも20分にもなるのだ。(授業中に寝てた僕がどうこう言える立場じゃないけど)
僕はこれ以上西田に何も言わせないように、「すいません」と言いながらしずしずと椅子に座り直す。
ななめに目線をそらすと、 北野と目が合った。目が合って、彼女が一瞬微笑んだように見えた。がすぐに視線をそらされる。
恥ずかしさ、倍増。
くそ、、「花子さん」の呪いがもう来たか、、。
いや、これは「花子さん」の呪いじゃない。
「美少年」の呪いだ!
僕はペンを持った手にギュッと力を込める。
北野に笑われるのも、僕が夜眠れないのも、眠れないことで日中の勉強のパフォーマンスが著しく低くなるのも(元からなんて言わせない)、全部全部あいつのせいだ!!
授業のチャイムがなって、西田が出ていった後も、僕は行き場のない苛立ちを抑えられなかった。
それにしても、、くぅ、名前聞いときゃ良かった、、。
そしたら何組かも分かったかもしれないのに、、
と、
「横田君」
「えっ、わ、!」
目の前に北野がいた。
驚きと同時に胸の高まりでテンパって、間抜けな声が出る。
「さっき、大丈夫だった?最近ずっと眠そう」
「あ、え、?僕?あーいやいや全然!平気!ありがとう!」
「ほんと?そっか。良かった」
「うん!ははっ、、」
「あのね、頼み事があるの。」
「ん?僕?」
「今日ね、第2美術室に来て欲しくて」
「え、」
え、呼び出し、?
北野が、僕を、?
跳ね上がる心臓。
嘘。
まさか、こ、こくは、、
「いい、?」
「え、あ、うん!もちろん!」
北野は僕の返事を聞いてにっこり微笑むと、そのまま教室を出ていってしまった。
「嘘、、嘘嘘、え、」
これは、、、
その後の記憶は無い。
気づいたら放課後だった。
それくらい僕は浮かれている。
帰りの準備をしていると、横田はいそいそと出ていってしまった。
僕は少し時間を空けてから行くことにする。
高鳴る心臓はもう爆発寸前。
スキップできそうな程の軽やかさで僕は渡り廊下を進み、南館へ。
美術室の扉を開けた。
と、同時に開く美術準備室の扉。
そこから出てきたのは北野ではなく、、あの美少年だった。
「あ、!お前この前はよくも、!」よりも先に「お前なんでよりによって今、!」の感情が勝る。北野がこいつの存在を知ったら、、と思うだけで恐ろしい
それなのに美少年は呑気に
「おー!来た来た〜」
なんて手を振ってくる。
待ち合わせしてないだろお前と!
「なんだよ、、今日は先約があるから相手できないよ」
「先約?誰?」
「言わない」
この前のことでよく分かった。やっぱり僕にとってイケメンは敵だ。絡むと厄介なことしかない。こいつが北野のことを知って狙われても困る。
「なんだよー俺も約束してたじゃん」
「はぁ、?いつだよ」
「さっきしただろ。西田の授業が終わった後。てか横田くん、ほんっと面白かった。授業中にあんな目覚め方できる人なかなかいないよ 」
ケラケラと笑っている。
え?なんでその事知ってるんだ?
それに、
授業終わった後に約束したろ?って、、僕はこいつと会ってないのに。
「え、どういうこと?僕達あの公園の日から会ってないよね?」
「え、毎日会ってるじゃん」
「会ってないよ。」
「会ってるよ。第一俺ら同じクラスじゃん。、って、あ、そっか。横田に言ってなかったか」
「は、?」
同じクラスって、クラスメイトの顔くらい覚えてる。こんな奴いない。それに、毎日会ってるなんて、、
一体誰と勘違いしてるんだ?
「君、名前は?」
「北野」
「下は?」
「優希。北野優希 」
「、え」
ちょっと待って。北野優希は僕のクラスの女の子の名前だ。
同姓同名ってこと?あの北野優希と。
頭の中ではてなマークが浮かぶ。
ぽかんとした僕を見て美少年は笑って、まず手元にあったウィッグを被ってから、ブレザーとスカートを身体に当てた。
その姿を見て僕は言葉を失った。
僕の好きな、クラスメイトの北野優希だからだ。
「びっくりした?」
と、声は男、見た目は女の子の北野(あぁややこしい、)でウインク。
固まって動けない僕。
頭の中では大忙しで状況整理をしている。が、どうしても追いつかない。
そんな僕に美少年、、いや、北野は淡々と説明する。
「いやー、やっぱりカツラってさ、ずっとつけてると頭皮痛いんだよね。声もさ、一応女の子っぽく高くしてんだけど結構コツいるんだよー、それにさ、、」
「え、待って待って待って、!?!、え、何、北野優希って、、え、?あんたってこと、?!」
「うん。そんなびっくりした?」
びっくりどころの騒ぎじゃない。
危うく失禁する所だった。
いや、待て。
今僕が1番気になること、、それは、、
「ねぇ、」
「ん?」
「その、、つまり、結局君は、どっちなの、?」
「どっちって?」
「その、、女の子の北野が本物なの?それとも、、今の姿が、本物、?」
「一応こっちが本物。 」
「つまり、、北野って、お、おと、」
「うん。男。」
ガーーーーーン
漫画で言うと、僕の背後にはでかでかとこの文字が並んでいることだろう。
僕は膝から崩れ落ちた。
同時に、僕の恋は儚く散った。
どうせなら、僕は罵倒されて振られるみたいな展開が良かった。
まさか好きな相手が女装した男で失恋なんて、、
誰が想像できただろうか、?(いや、誰も想像できない)