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温かいご飯、優しい家族、たわいも無い会話、殺しも拷問も無い日常。
「…オレもこんな…普通の家庭で生まれてたら良かったのに」
くじら島での生活はとても温かくて、居心地が良かった。夜空を見上げながら、呟く。瞬きをした一瞬、空に何かが煌めいた。
(?…今一瞬光ったような)
普通の日常、と言うのは自分にとって憧れだった。
(まぁ、こんなこと今更考えたって…仕方ないよな)
✼••┈┈┈┈┈┈••✼✼••┈┈┈┈┈┈••✼
「ふぁぁ〜…ん…、ゴン…?」
朝、目を覚ますと隣のベッドで眠っていたはずのゴンがいないことに気づいた。
(どこ行ったんだ?アイツ…まぁいいや、その内…戻ってくる…だろ)
睡魔に負け、二度寝をしようと目を閉じた時、頬をつねられる痛みで目が覚めた。
「痛っでででで!!」
「二度寝をするな、キルア。時計を見ろ、もう殆ど昼じゃないか」
目の前には、髪を結び呆れた顔をしたクラピカが立っていた。
「っはぁ!?クラピカッ…何でここにいんの!?」
てゆーか、1人前にThe母親みたいな格好してるし
「何でも何も…放っておいたら昼まで寝ているお前を態々起こしに来てやったんだ」
「いや、そういう話じゃなくってさぁ…ここゴンの家だろ?つーか、何その格好…」
「見ての通り、エプロンだ」
「名称は聞いてねぇよ、…何なんだこれ…夢…?」
「寝ぼけているのならもう一度つねってやろう」
「いやもう良いって!」
「ふふっ…冗談はさておき、早く顔を洗って着替えろ、朝食が冷めてしまうだろう」
「朝食…?クラピカが作ったの…?」
「私の料理が食べたくないのか?」
「いやあ、そんな訳じゃ」
ミトさんの手伝いをしているのか?
ゴンはもう支度を済ませて先に食べているぞ、と言うとクラピカは階段を降りていった。
(……来てんなら連絡くらいくれりゃいいのに…)
□
「おっ、やっと起きたか〜キルア。おせーぞ」
「!?なんっで、レオリオまでいんだよ!」
「あ?なんでって…失礼な奴だな…ったく」
「君は家族として認められていなかったようだな」
「んだと!?ゴラァ!」
「家族!?」
「あっははっ!もーキルア、父さんに向かってひど〜い!」
「ゴン?え、今…なんて」
「…?」
「……」
目の前のカオスな状況に恐怖を感じた。
「ち、ちょっともう1回顔洗ってくる!!」
□
「……はぁ…はぁ…」
(何だこれ、どういうことなんだ?…にしても冗談で言ってる感じもなかったし…これじゃまるで…)
「ねぇキルア…?大丈夫〜?」
「ゴン…」
「なぁ、オレ達四人って…どういう関係だっけ…」
「……家族でしょ?オレ達は。」
「ミトさんは!?」
「ミトさんって……誰のこと?」
「!!」
「オレ達ずっと、…ずっと前からそうだったっけ…」
「あははっ、当たり前じゃん!どうしたの、今日本当に変だよ?」
「………いや」
「大丈夫?熱は……無いみたいだけど、悩みがあるなら何でも言ってよ。オレ達は兄弟なんだからさ」
「……」
(…そうか、家族ってことはゴンはオレの弟ってこと、なのか…?)
「………なんでもない。ありがとな、ゴン……変な夢見てたみたいだ」
□
「ネクタイが曲がっている。全く、身嗜みくらいしっかりしたらどうだ?」
「へいへい、ありがとよ」
「おーすげぇ夫婦って感じ…」
「当たり前でしょ、キルア。父さんと母さんは夫婦なんだから」
「そーだったな」
「聞こえているぞ二人とも。茶化すな」
先程まで感じていた違和感は消え、なぜだか不思議とこの空間に安堵感を感じるようになっていた。
(…まさか本当に…オレ達はずっと…4人で…?)
(この生活は嫌じゃない。寧ろ幸せだし、望んでた“普通の生活”が手に入ったんじゃねーか…)
「んじゃ、仕事行ってくるわ」
「行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい、お父さん!」
「…ねー、クラ…母さんは仕事行かねぇの?」
「私は家のこととお前達の世話が仕事だから行かないんだ」
「あー、専業主婦ね」
「?キルア、せんぎょーしゅふって何…?」
「家事と育児に専念する母親のことだよ」
「キルア…よくそんな言葉を知っているな、お前はきっと将来有望だ」
「いや、別に普通だろ…!」
頭を撫でられるなんて、久しぶりだった。
(…暖かい)
だけど、こんなしょうもないことで褒められるのは初めてだった。
その後、ゴンと近くの公園へ遊びに行った。遊び疲れて帰る頃にはすっかり日も暮れていた。
「あー楽しかったね♪明日は何しようか?」
「……そうだな…」
「…どうしたの?キルア」
「ゴン…オレ達明日も、4人で…一緒に過ごせるんだよな」
「またそれー?明日も、明後日も、この先もずーっと一緒だよ」
「…そっか」
「ねぇ、今日はどうしてそんなに寂しそうな顔するの…?」
「なんか…明日になったら、この日常が無くなる様な気がしてさ」
「……」
「キルア、手出して」
「ん?こうか…?」
そう言うとゴンはそっと手を繋いだ。
「この方がそばに居るって感じがして安心できるでしょ?心配しなくたって、明日は嫌でも来るよ」
「……そうだな…ありがとな。ゴン」
例え夢でも、今日のことは一生忘れない。
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「……」
「……ルア、」
「キルアってば…!」
「………」
目を覚ますと、昨日の穏やかな笑顔とは打って変わり、ゴンが瞳を潤ませながら見つめていた。
「あ、れ…ゴン…?」
「良かったっ〜!キルア、家に着いたら急に倒れちゃって、丸1日目が覚めなかったんだよ」
「丸1日…」
「原因も分からなかったからもう目が覚めないんじゃないかって思って…怖かったよぉ…」
温かいベッドに、額には冷たいタオルが乗せてあった。
「悪ぃ、心配かけたな」
「身体、どこも悪くない?」
「おー全然平気。」
「本当に?良かったけど、無茶はしないでね」
あれは夢ではなく、もしかすると“存在したかもしれない世界“だったのかもしれない。時間の流れも、意識も感覚も、全てがはっきりとしていた。
クラピカに撫でられた時の温かさ、ゴンと繋いでいた手の感触が微かに残っているような気がした。