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ごきげんよう、暇をしているシャーリィ=アーキハクトです。
ルイと部屋で過ごしていると、急にセレスティンが来客を連れてきました。
「すぐに準備をするので待っていてください!」
「ちょっと待ってくれ!直ぐに出るから!」
私とルイは大急ぎで着替えます。何をしていたのかって?退屈だったので、男女が行う最も一般的な運動です。明言は控えさせていただきますが。
慌てて身なりを整えた私達は、セレスティンを部屋に招きました。
「お取り込みの最中、申し訳ございません」
「構いません、セレスティン。何かありましたか?」
セレスティンは万が一にも露見することを避けるため、此処には近寄らないようにしているはずですが。
「お忍びではございますが、私が対応せねばならない案件と判断しご案内させていただきました。どうぞ」
セレスティンの後ろから現れたのは、とんがり帽子を被った……あら。
「……ごきげんよう、シャーリィ」
「これはサリアさん、ごきげんよう」
『海狼の牙』代表のサリアさんでした。
「……噂を聞いて皆が驚いているから、様子を見に来たわ」
相変わらずダウナー系です。レイミ曰くですが。
「サリアさんも信じましたか?」
「……信じる筈がないでしょう。魔力を探知できる相手にあの手の嘘は意味がないわよ」
ああ、確かに。レイミは水晶による連絡すら断っていたので慌てていたのでしょう。
「相手が魔法を使えなくて幸いでした」
「……滅多に居ないから安心しなさい。それよりも、随分と好き勝手にやらせてるわね…?」
「昨日と一昨日の件ですか?お騒がせをしております」
『海狼の牙』には影響が出ないように配慮はしていますが、どうしてもね。
「……また強奪を計画しているみたいよ。それを手土産に、私へのご機嫌伺いをするつもりみたいね」
「おや、そうなのですか?」
意外と動きが早い。もう少し慎重にやるかと思っていましたが。
「……二日間で奪われた物資の金額は、決して安くは無い筈よ」
「必要経費だと割り切っています」
二日間での損失は金貨三十枚くらいですか。うちの金庫には星金貨が千枚くらいあるので些細なものです。
「……私は交渉に応じるつもりよ。受け取った物資は返した方がいいかしら?」
「不要です、そのまま『海狼の牙』で有効に活用してください」
「……分かったわ。うちの幹部達には貴女の無事を伝えておく。コッソリね」
「お願いします、サリアさん。皆さんにもご心配をお掛けしたとお伝えください」
「……いいわよ。それと……昼間からお盛んね」
最後に投下された爆弾に、私とルイが赤面したのは言うまでもありません。
その日の夜、三者連合は三度目の襲撃を決行。これまでの最大規模である五十人からなる攻撃隊を見た『暁』警備兵達は戦わずに第四桟橋へと逃れた。
「腰抜けがーっ!」
「このまま第四桟橋も奪っちまうか!?」
「いや、彼処には戦車とか言う鉄の化け物がある!ぶっ壊す用意なんてしてねぇから、無理に攻めなくてもいいだろ」
「よぉし!残された物資を全部奪い取るぞ!」
「「「おおおーーっっ!!」」」
それを見て攻撃隊は気炎を挙げ、第四桟橋周辺に集積されていた物資を根こそぎ奪い取った。
その莫大な物資を見て、さしものリンドバーグも『暁』に異変が起きていることを認めざるを得なかった。
「今回はアンタの見立てが間違ってたな、爺さん」
莫大な成果を前に笑みを隠せないシダ。それを苦々しく思いながらも、渋々認めざるを得ないリンドバーグ。
「確かにこの成果を見れば……ヤン、金額的にはどの程度かね?」
「性格にはまだ把握していませんが、ざっと見ても金貨三百枚は固いと思いますよ」
「まさに大金じゃねぇか!『暁』の奴等も大損だろうな!」
ここで三者連合はひとつの誤りを犯す。それは、誰一人『暁』の正確な経済規模を把握していなかった点である。確かに三日間にわたる強奪で奪われた物資は膨大で、金貨七百枚。日本円にすれば七千万円の損失となる。
だが一度の交易で星金貨数十枚、つまり数十億の売り上げを叩き出す彼等にとっては、致命傷足り得ないのだ。
「これだけの戦果です。皆で山分けをするとしても、金貨百枚分だけは分けてくれませんか?『海狼の牙』との交渉ならその程度は用意しなければいけませんから」
「なんだ、アガリの三割を貢ぐつもりか?」
ヤンの提案にシダは不愉快そうに答える。根本的に誰かの下につくことが出来ないのがこの男の難点なのだ。
「貢ぐのではありませんよ、シダさん。これは将来に対する投資だと考えてください。『海狼の牙』の後ろ楯を手に入れれば、私達はより高みへと向かうことが出来ます。私は裏社会の事情に詳しくはありませんが、表の世界でも『海狼の牙』の影響力は無視できませんから」
「投資ねぇ」
「そんなに嫌なら、シダ・ファミリーからは資金を出さなくて構わんよ。我々の取り分から用意しようじゃないか」
「なっ!誰もやらねぇとは言って無いだろうが!」
代表三人の争いを尻目に、配下達は大戦果を前にどんちゃん騒ぎを繰り広げていた。
その結果、『暁』情報部が張り巡らせた網にあっさりと引っ掛かることとなる。
そして、それを傍目に見て苦々しく思う者も居た。
「ふざけやがって!あんなに派手に騒いだら嗅ぎ付けられるだろうが!これじゃ隠してやってる意味が無ぇ!」
とある事務所にてテーブルを叩き怒りを露にするのはスキンヘッドの頭、身体中に傷跡を持つ大男リューガ。
シェルドハーフェン最大の傭兵集団『血塗られた戦旗』を率いる男であり、『傭兵王』の異名を持つ猛者である。彼らは『闇鴉』からの支援を受けながら力を蓄え、更に目眩ましとして三者連合を匿い支援を行っていた。
「噂じゃ、『暁』のお嬢ちゃんは死んだって話じゃねぇか?」
それに答えるのは黒髪を短髪に纏め、鍛え上げられた上半身に真っ黒なコートを羽織った青年。
『スネーク・アイ』の異名を持つ殺し屋ジェームズ。『血塗られた戦旗』の幹部を勤めている。
「あの噂か。てめえは信じるのか?ジェームズ」
「俺には関係の無い話だからな、興味はない。聖奈の奴が退屈でゴネてる。そろそろ我慢も限界だぞ?」
肩を竦めながら答えるジェームズは、自身と行動を共にする少女について言及する。
「一年我慢させたからな……俺としては、もう一年準備をしたかったんだが」
「別に構わねぇよ?その時あいつは見境なくアンタにも剣を向けるだろうがな」
「ちっ……とんでもねぇガキを拾いやがって。もう少しだけ我慢するように伝えろ。そうすれば思う存分働いて貰うとな」
「そこらの貴族様を殺るより難しい仕事だな。我慢させるが、持って一ヶ月だ。それまでに腹を括ってくれよ?ボス」
そう言うとジェームズは立ち上がり、ドアへと向かう。
「ああ……分かってるさ。俺達が成り上がるには、これしか無ぇんだからな……大丈夫、『カイザーバンク』と『闇鴉』の後ろ楯がある……だから大丈夫だ」
自分に言い聞かせるようなリューガの言葉を聞き、ジェームズは背を向けたまま鼻で笑うのだった。