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カナダ
「にい、兄さん!見て見て!」
夕暮れの公園で、カナダが白い綿毛を大事そうに握っていた。俺は泥だらけになったジーパンを気にせず、大きな木の下に寝転がって空を見ていた。カナダはそんな俺の隣にちょこんと座り、嬉しそうに笑う。
カナダ
「この綿毛、飛んでいかないように、優しく握ってるんだ!兄さんもやってみる?」
アメリカ
「…いいよ。僕は、いい」
昔の俺は、今みたいにいつも笑ってはいなかった。
カナダみたいに純粋で、優しい「僕」が、そこにいた。
家に帰れば、父さんがまたダークマターを作っていて、カナダと二人で「やばい!逃げろ!」って言いながら笑いあった。家族の温かさに包まれて、僕の世界は穏やかで、何も心配することがなかった。
あの頃の僕は、自分を偽る必要なんてなかった。
中学に入って、僕の世界は少しずつ色を失っていった。 始まりは、本当に些細なことだった。 昼休み、クラスの端っこで一人、本を読んでいた僕に、クラスの中心にいるようなヤツが声をかけてきた。
モブ「おい、アメリカ。お前いつも一人で何してんだよ?」
僕はびくっと肩を震わせ、本から顔を上げた。
アメリカ 「あ、えっと…本、読んでた…」
モブ「つまんねーやつ。もっとさ、みんなと喋ったりしろよ」
笑って誤魔化そうとした。そうすれば、きっとまたみんなと仲良くできると思ったから。
アメリカ「あはは…ごめん。そう…だね」
そう言ってヘラヘラ笑う僕を見て、アイツらはもっと面白がった。
次の日には、僕が大事にしていた父さんからもらった本が、ロッカーから消えていた。
その次の日には、上履きがどこかへ消えていた。 笑ってごまかす日々が続いた。
でも、いつからか、僕の周りから人がいなくなっていた。 今まで友達だと思っていた奴らも、みんな僕から距離を置いた。廊下ですれ違っても、見ないフリをする。クラスで話しかけようとすると、まるで僕がいないかのように、他の奴と話し始める。
’’見えない壁’’が、僕とみんなの間にできてしまった。
そして、雨の降る放課後。 僕は校舎の裏に呼び出された。 周りには誰もいなかった。雨の音だけが、やけに煩く響いていた。
モブ「なあ、お前、最近マジでつまんねーんだよ」
アメリカ「はは…ごめん、ごめん…」
震える声で、僕はいつものように笑おうとした。でも、うまく笑えなかった。
モブ「何だよその顔!その顔がムカつくんだよ!なんでお前はいつもそんな顔してんだよ!」
アイツらの言葉が、胸に突き刺さる。 雨が頬を伝って、涙の味がした。けど今は雨と涙の違いとかどうでもよかった。
モブ「だっせえの…!そんな顔してるから周りから人がいなくなるんだろ!」
アイツらの言葉が、僕の心に深く深く突き刺さった。 もう、耐えられなかった。
その日から、僕は決めたんだ。 もう二度と、そんな顔はしない。 明るく、面白く、誰からも好かれる「俺」になろう。 そうすれば、もう誰にも嫌われない。 そうすればきっと、あの頃の幸せな日常が、手に入る。
そうやって、「僕」は死んで、「俺」が生まれた。
コメント
3件
うわまって、好きすぎる……w(( 良すぎるぅ~~~!!🫶🏻︎💕︎︎