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孫「とうまじいちゃん、なにか面白い話をして」
冬馬「面白い話か、面白いかどうかはわからんが昔話をするとしようか。これはわしが社会に出たばかりの新人だった時の話。」
その日は、残業で帰るのが遅くなっていた。
時間が遅く、仕方なく晩御飯をコンビニに買いに行いった。
帰ろうとコンビニを出ようとすると滝のように雨が降り出してきた。
バックの中から折りたたみ傘を取り出して、帰っていた。
河川敷を歩いていた時、視界に下を俯き傘もささずに歩いている女性を見かけて声を掛けた。
佐藤冬馬「お姉さん、こんな雨の中傘はどうしたの?」
しかし、その時の女性は何も反応しなかった。
佐藤冬馬「そんなに濡れていたら風邪引くから、1度うちに雨宿りに寄りな。」
そういい、女性を家へ招いた。
家に戻り、色々話を聞いた。
佐藤冬馬「なんでこんな時間に外を傘も無しに歩いてたの?」
しばらくして重く閉ざしていた口を開いた。
藤宮咲良「私の名前は、藤宮咲良(ふじみや さくら)と言います。今は○○大学の3年生です。親に【今すぐ大学を変えろ】と言われて反抗して家出をしました。」
佐藤冬馬「○○大学といったら、あの近くの?」
藤宮咲良「はい、親は家業を継がせるために、経済学部の方に行かせたかったそうですが、私は薬剤師を目指して、理系の道に進んでそれでいつも親と喧嘩ばかりで…」
佐藤冬馬「これからどこかに頼るつてはあるの?」
藤宮咲良「お恥ずかしながら、そこまでは頭に無く…ここにしばらく置かせていただくことは出来ませんか。」
佐藤冬馬「いや、でもこんなボロアパートに成人男性と2人っきりっていうのも、危機管理はちゃんとしなきゃ…藤宮さん可愛いんだし…」
藤宮咲良「だめ…ですか?」
そう涙目で言われた。
佐藤冬馬「うっ…仕方ないなぁ…」
藤宮咲良「これからは、私の事咲良って呼んでください、私も冬馬さんと呼ばせて頂きますね。家事も私がします」
佐藤冬馬「敬語は使わなくて良いよ、多分同い歳だし」
藤宮咲良「これから宜しくね、冬馬」
それからは、楽しい時間が続いた。
家に帰れば温かいご飯が既に出来て、話し相手もおり、嫌な事があれば聞いてくれる。
気が付けば、咲良のことが好きになっていた。
咲良の講義が無い日に有給を申請し、咲良を遊園地に誘った。
辺りも暗くなり、最後に観覧車に乗り1番高いところで伝えた。
佐藤冬馬「咲良、これからは同居人としてでは無く彼氏として一緒に過ごして行きたいです。付き合って下さい。」
暫くの沈黙の後
藤宮咲良「こちらこそ」
佐藤冬馬「やったぁ、しばらく黙ってたからダメかと思ったよ。」
藤宮咲良「ふふ、緊張した?」
そういう彼女の顔には小悪魔みたいな笑みを感じた。
咲良が同居人から彼女になったからと言って特に変わったことは無かった。
ただ、いつも通りの楽しい時間が過ぎていた。
あの日までは、残業で少し遅くなったが、家に帰ると部屋は暗くなっており、鍵はポストに入っていた。
テーブルには、置き手紙があり、こう書かれていた。
【住まわせてくれてありがとう、もうこれでお別れだよ。楽しい時間をくれてありがとう。そして、騙しちゃってごめんなさい。大好きだよ。咲良より追伸、お父さんの電話番号だよ。○○○-××××-××××、会いたかったら初めて出会った河川敷に架けられた橋で待ってる。】
その手紙を読んで、急いで向かった。
1度説教をするつもりで、その時はあの日を思い出す様な土砂降りだった。
傘をささずにただ急いで走った。
そして、橋に着いた時には人だかりが出来ていた。
近くの人に聞くと、女性が橋から飛び降りた。
今は雨のせいで川の流れが早くなっており危険なことを聞いた。
その時は、目の前が真っ暗になった。
もし、残業が無ければ、もし、もっと早く駆け付けるのが早かったら
後悔の念に押し潰されていた。
そして、家に帰り、手紙に書いてあった番号に電話をかけた。
その時の内容は覚えていない。
ただ、あまりのショックに翌日会社を休んだことは覚えている。
彼女の葬式に参加した日。
再び涙と後悔が溢れてきた。
声を出して泣いていると、背中を優しく撫でてくれた。
振り返ると、彼女そっくりな人が撫でてくれていた。
聞けば一卵性の双子の姉だと言う。
佐藤冬馬「すみません…あの、お名前を伺っても」
藤宮紗良「私、咲良の姉の藤宮紗良(ふじみや さら)です。妹を住まわせて頂き感謝しております。咲良は、寂しがり屋でそれでも最後に冬馬さんと一緒に暮らせて楽しかったと思います。」
佐藤冬馬「彼女は、咲良は、何故あの日に消えたりしたのでしょう。」
藤宮紗良「実は、咲良は持病があるのです。それで、余命宣告を受けていたのです。咲良が家出をした日にそれは、お医者さんから言われていたのです。あの子はそれがショックで家出してしまったのです。だけど、余命より長く生きられたのは貴方のおかげかもしれません。妹の事を嫌いにならないであげてください」
その話を聞いて、余計涙が溢れ出てきた。
佐藤冬馬「もっと、早く言ってくれよ…」
数日が経ち家に入ろうとすると、声を掛けられた。
藤宮紗良「お仕事お疲れ様です。今日は私が料理しますから、休んでください。」
佐藤冬馬「なんで…」
藤宮紗良「あの子に頼まれたんです。もし、私に何かあったら冬馬さんの事をお願いされたんです。すぐ無理するし、だらしないし、家事も出来ないし、ポンコツだけど、私の大切な人だからって」
それから、紗良と恋愛関係になるのは時間がかからなかった。
佐藤紗良「あら、おじいさん、あの子の話?」
祖父(佐藤冬馬)「あぁ、今みたいに雨が降っていると思い出すなぁ。」
そういう冬馬の頬には一筋の涙がこぼれる。