サンフィアの精霊試し撃ちを間近で眺めていたが、どうやら呪文を唱えることで精霊を具現化する力のようだった。威力の程は中々なもので、あなどれないものを感じた。ミルシェたちが近くにいたら精霊にあてられていたのは間違いない。
「……ふん、これで満足か?」
「おっ! アーチ状の門のようなものが見えるな。ルティが言ってたとおりだ」
「貴様にも精霊の力があると聞いている。だが、我とは使い勝手が違うのだろう? せいぜい我の足を引っ張らないようにすることだな! フフフッ!」
そう言うと、ルティたちを待たずにさっさと進んでしまった。今までにない程の自信をつけたようだ。精霊の力を得たことで、違う世界が見えるようになったのだろう。
塞がれていた岩壁を剥がしただけに過ぎないが、使いこなすまでは時間がかかりそうな気もする。何にしても初めて使った精霊の力がよほど嬉しかったはず。
「アック、アックー! もう中に進んでも大丈夫なのだ?」
「ああ、問題無いぞ!」
「ウニャッ!」
勝手に進んでしまったサンフィアは城のどこかで会えるとして、今はルティに道案内をしてもらうことにする。
「おおぉー! 誰がどう見たって入口ですっ! アック様、どうです? 本当でしたでしょう?」
「本当だったな」
「えっへん!!」
嘘を言ったでも無いことが証明されたのか、ルティが胸を張って歩き出す。穴を開けたのはサンフィアだが、それは良しとしておこう。
「フフフッ、さすがはアックさまですわね」
「うん? 何でおれが?」
「あのエルフにせよルティにしても、おだてて調子に乗らせたではありませんか。アックさまだからこその特性だと言っても過言ではありませんわ」
「特性って言われてもな」
「その調子で小娘たちの力を引き出してくださいませ」
やはりと言うべきか、ミルシェの言葉の方が俄然やる気が起きる。イデアベルクから連れて来たのは間違いでは無かった。
「アック、行かないのだ?」
「すぐに行くよ。フィーサたちが寂しがっているだろうしな」
「ウニャ、シーニャも楽しみなのだ」
ルティの案内でおれたちは城の倉庫らしき部屋に入った。遺跡からの入口とは別に、城への入口が奥の方に見えているのが分かる。
「それにしても、自然に崩落したとは思えない感じがしますわね」
「……焼けついた臭いが漂っているのだ」
「遺跡から来られる場所にあるということは、ザームの連中か魔導士が来ていてもおかしくはない。そうなるとここで何かと戦ったかもしれないな」
周りを見ると、ここにはかつて使われていたであろう調度品の数々が所々で転がっていた。原型を留めていないが、石鉢や木鉢が多く見られる。
ここでは植物か何かを育てていたのだろうか?
「……確かに、微かですけど魔力を感じますわね。それに、廃城にしてもそこまで古臭さは感じられない気もしますわ」
「その辺はここにたどり着いたルティが詳しいはずだ」
ルティは奥の方に見える扉の前でおれたちを待っている。サンフィアが勝手に進んで行ったせいか、落ち着いた自分をアピールしているようだ。
「さぁさぁ、どんどん行きますよー!」
「待った。ルティは先にここに来ていたんだよな? 敵か何かと戦ったか?」
「はぇ? 敵は全くいなかったですよ? ここは地下なんですけど、上の階には大きくて広いお部屋がいくつもありましてー! きっとそこにフィーサやアヴィオルがいると思いますです」
敵がいないというのは妙な話だ。それなら倉庫の魔力はどこから来たというのか。それに僅かだが戦った跡が残されている。フィーサたちによる戦闘でそうなったとしか考えられない。
「ウニャニャ!? ア、アック……アックの剣が震えているのだ!」
「――ん? 剣が何だって?」
「本当ですわね……あたしの目にも、その剣が動いているように見えますわ」
「ミルシェにもそう見えているのか。どれどれ……」
魔剣ルストには専用の鞘が無い。しかしいつも手に持っている訳にもいかないので、腰袋の並びにぶら下げるようにしていた。そうすれば多少の不安定さはありつつも万が一落としたところですぐに分かるし、目につく。
――のだが、彼女たちが言うような震えは起きていない。
「動いているのだ! 本当なのだ!!」
「んんん?」
おれからは何ともなっていないように見える。そうかといって、シーニャたちが嘘を言っているでも無さそうだが。
「アック様~! フィーサとアヴィたちが近くにいるみたいですよ~!」
シーニャとミルシェが首を傾げている中、扉付近からルティの声が聞こえてきた。フィーサたちとの再会が近いらしい。
「案外早くに再会出来そうだな。分かった! すぐそっちに行く!」
魔剣の異変はおれからは見えていない。一体どういうことなのか、とにかくフィーサたちと再会してから調べるしか無さそうだ。
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