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「…なんだこれ」
「…やっぱり」
宇高に指定された店の前に立ち尽くす二人。
その店の看板には『ラウンジ harts』と記されていた。
「キャバクラ?……最高じゃねーかァァァ!!!しかもここ結構有名なとこじゃん!!」
「ちょっと待ってください!!やっぱりちょっと…」
何故か渋る右近。
「つべこべ言うなよ!女子がいっぱいいるんだぞ?得しかねえだろうがァァァ!!入るぞ!」
「え!?ちょっと冬獅さん!!」
店の中に入ると既に店のオーナーが待っていた。
「お世話になっております。冬獅様ですね?お待ちしておりました。話は聞いております」
にこやかに出迎えるオーナー。
「ほらやっぱりこうなった…」
頭を抱える右近。
「え?誰コイツ?」
「名乗り遅れました。私、長束左京と申します。不束ながらここのオーナー代理をさせていただいております」
「あれ、長束って…」
隣を見る。
「うちの、兄です…」
「いつも弟がお世話になっております」
にこやかに答える左京。
「あ~…どうも…」と言いつつどさくさ紛れて店の隅に右近を連れて行く冬獅。コソコソ何か話している。
「だから来たくなかったんですよ!」
とつぶやく右近。
「え、ちょ、おま…兄ちゃん何歳?」
「俺と4歳差だから…今年で22ですね」
「22!?22でこんなでけぇ店のオーナーしてんの!?」
「代理ですけどね。元々兄とここのオーナー知り合いらしくて…数年前の店が大赤字で借金まみれの時にしばらく海外旅行に行くって言って店番を任されたらしいです。その後全部一人で立て直して借金もすべて返済し終えてます。」
「いやそのオーナー絶対逃げたよ!!国外逃亡してるよ!!お前の兄ちゃん代理じゃなくてもう普通のオーナー!!てか兄ちゃん経営力半端ないって!!…あとさ、思ったんだけど初めて会ったとき言ってた道場は?(用心棒馴れ初め編参照)」
「あっ、それなら」
いきなり顔を出す左京。
「びっ….くりしたぁぁ!!」
「すみません、ちょっと聞こえてきたもので。『ビバ☆NATUKA道場』のことですよね?」
「なにそのネーミング…」
「兄さん、そんな名前だったの…?長束道場とかじゃなかったの?」
弟でさえも知らなかった(というか兄により勝手に改名されていた)道場の名前。
「その道場は一応やってはいるんですけど何も手をつけていないですね」
「えぇ!?代々受け継がれてきたんじゃないの!?」
「大丈夫です。子孫になんとかさせるので。それでは開店時間に間に合いませんのでそろそろ行きましょうか」
「おい右近、お前の兄ちゃん人が良すぎる代わりに頭のねじ全部外されてぶっ壊れた?って感じなんだけど…」
「つべこべ言わずに早く来てくださいほら、右近も」
にこやかだが明らかに圧をかけられている。そしていつのまにか二人の襟首を掴んでいる。
「いや、前言撤回!こえーよやっぱ!!」
オーナーに(無理やり)連れられ、引きずられながら裏へと入っていく二人。
数十分後。
「ちょっと….なんすか…コレ…」
「なに、って…聞いてません?」
女物の着物に化粧。何故か冬獅と右近は女装していた。(右近はカツラも込み)
「聞いてないです帰ります」
帰ろうとする冬獅。それを止める右近。
「冬獅さん…!ここでギャラもらわないと生活ヤバいですよ!ほら鏡!!冬獅さん背低いし顔立ちも中性的だからいけますって!!」
右近が差し出した鏡を覗き込む冬獅。そこには結構可愛い顔をした女の子が映っていた。
「えっ、結構可愛…ちょ、まて。お前、今俺のことどさくさ紛れて侮辱しなかったか?背が低いって??え??」
裏でやいのやいのしている二人に近づく人影が。
「つべこべ言わずに働きなよ」
振り返ると容姿端麗でどこか顔なじみのある長髪の女性が立っていた。
「….お前、もしかして、昌?」
「昌じゃなくて、昌子」
黒っぽい着物。頭に巻いた包帯。ほとんど昌一郎に一致する。(長髪はカツラ)
「うそォォォ!?!?ハカの下りから全然登場しないなって思ってたらすでにここにいたの!?!?」
「まあ…それに、ほら後ろ」
昌一郎が二人の後ろを指さす。
立っていたのはクールビューティー系の女性と中性的な顔立ちの女性。どちらも超が付くほどの美人だ。
「お前らがやって俺がのんびりしてたら総長の名が廃るからな」
低い声音。見たことある顔立ち。
「もしかしなくても宇高さんですよね?」
首を縦に振る女性――宇高。
「まあちょっと女装の事はおいといて…隣の方は?」
宇高の隣の女性を見る右近。
「お前らはもう知ってると思うが――八咫烏副総長の稲塚だ」
「稲塚栄太いいます~一応こんなんでも八咫烏ナンバー2やで。よろしゅうおたのもうしますぅ~ってな!!あっ、名前から察してると思うけど俺、男やからな!!まあべっぴんすぎて見間違ごうたわぁってんなら全然ええけどぉ!あっ、松上さん、森さんお久しぶりっす!!!」
この稲塚という男も冬獅達の知り合いのようだ。
と稲塚の自己紹介(?)が終わったところで宇高が口を開いた。
「今回は捜査を依頼したわけなんだが――まあ、実をいうと、ここのオーナーに店の人手が足りないとの依頼を受けてな。市民の要望に応えるというのが警察の本望。ということで、捜査ではなくお前らには今日から一週間この店で働いてもらう。無論、俺たちもだ」
ドン!と効果音を付けたくなるほどきっぱり言い放つ宇高。
「は…?金は..?」と呆然とする冬獅。妙に張り切っている昌太郎。相変わらずニコニコしている左京。稲塚(書くことがなかった)。顔はまだしも性格とかがちょっとアレな連中どもだ。
「いや、無理じゃね…?」という右近の諦めたような呟きが宙に消えていった。