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洪水に見舞われた。自宅。
水が引くまでは少し高台にある公民館で毛布と非常食生活。
ここで母は、お腹の子のため万が一に備えて入院することになり、残ったのは、洪水被害を受けた近所の人々と、祖父母と兄とわたし。
わたしはここで2歳の誕生日を迎えることとなったが、もちろん被災中でありお祝いどころではない。
そもそもお祝いしてくれていたのだろうか?
「なんで私がこんな子の面倒を見なくちゃいけないんだい。」祖母が祖父に怒鳴っている。
「仕方がないだろ。生き残ったんだから、わさわざあいつが見に行く必要なんてなかったんだ。」祖父は応える。
もうすぐ4歳になる兄は指を加えてサッカーボールのわたしのことで揉めていることは理解していた。
(なるほど、このサッカーボールはお父さんが危険な目にあって拾いにいったのだ。だからお祖父ちゃんとお祖母ちゃんはこのサッカーボールは要らないものなんだ。)
「えーっと、被害にあわれた皆様、まだ雨は続きますので、こちらの会議室の机と椅子を片付けましたので、こちらにもお越しください。まだ停電しております。空調が使えませんので、しばらく我慢されてください。予報では今夜には雨は止み、明日の昼には水も引くとの連絡は来ております。」
公民館職員の声に小さい声で話し合っていた被災者さんたちの声も一度とまるが、すぐに解決しないということから、ため息や惰性の声があふれる。
半ば仕方なしという雰囲気の漂う中、玄関のソファーなどある場所からみんながやれやれと立ち上がる。
「あ~もぅ、これ重いわ。ちょっとは代わってよ。」祖母の声だ。
「なんでわしがそんなやっかいもんをかつがないかんのんじゃ。」祖父の声。
「お祖父ちゃんさぁ、とうくんはやっかいもんなの?やっかいもんってなぁに?」兄が首を傾げる。
「やっかいもんってのはなぁ、要らないものっちゅうことじゃ、うちにはおまえしかいらんからな。お前が一番じゃ、二番三番はいらん。」
とあたまをなでている。
「あんた、子どもにへんこと言わんよ。これでも生きてるんだから、死なせたら大変よ。」
祖母は面倒そうにいった。
「わかっとるわ、あの馬鹿がわざわざいくけん、こげんやって動くのにも邪魔じゃわ。」
祖父も合わせている。
「だいたい、あげんか、店の小銭ば盗み取るような嫁から生まれとっちゃけんが、よか子は出来んってわかっとった。だけんがら、そう(長兄)だけはしっかり家長としてわしがそだててやらんとでけん。なぁ、そう、お前はうちのたからやけんが、なんかあったらすぐにわしにいうんじゃぞ。」
「うん、お祖父ちゃん。ねぇ、おかあさんは?」
「お母さんはしばらく病院じゃ、でも心配せんでよか、お前にはおじいちゃんがついとるけんね。」
「お母さんは病気なの?」
「病気やなか、たーだ、病院に、はいっただけたい。どげんなかつに金ばっかつこてからね。金ばつかうなら、そうにつかったほうがよっぽどましや、わしの店から出た金ばこげんやって無駄に使いやがって、ろくな嫁じゃなか。っと、いいか、そう、お前はお父さんやお母さんになんかいわれたら全部じいちゃんに言うんやぞ。よかね?またおもちゃかいにいかなんね。来月はお前も4歳になるけん誕生日ケーキもかわなんね。全部片付いたらお祝いたい。」
「うん。僕も4歳。おにいちゃんだ。」
「お前はお兄ちゃんの前に跡取り息子ちゅうことばわすれたらでけんぞ。そかか?」
「はぁい。」
そして日が暮れるころに母を病院に送った父が公民館に戻ってきた。
続く