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海月
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◇
俺は連れ去られたママ上を救出するため、爺やを引き連れムカム島唯一のギルド【ムカムファイターズ】へと入った。
酒場を兼ねているギルドでは、冒険者たちが酒を飲みながら、陽気に馬鹿笑いしていた。
一直線でカウンターへ向かうと、やる気なさげな職員に声をかける。
「緊急で依頼を頼みたい」
「こりゃあグランツ家のおぼっちゃん。外で見るのは久しぶりですな」
「そんな話はいらない。義母が賊によって連れ去られた。賊の規模は不明、多分5人か多くても10人くらいだと思う。腕のたつ冒険者を20、いや50人雇いたい。金ならある」
「そいつは大変ですなぁ~」
ギルド職員はこちらの真剣さをわざと無視しているのか、緩慢な動きで依頼書の作成を始める。
「では報酬をいくらに設定いたします?」
「相場がわからない。このような依頼は大体どれくらいが報酬になる?」
「そうですな、賊の規模にもよりますが、まぁ一人当たり大体150銀貨ってところでしょうな」
「なら一人1000出す」
「ほ~これは大口の依頼だ。依頼締切は何時にします?」
「30分後だ。それ以上は待てない」
職員はギルドのスタンプをペタンと押して依頼書を作り終えると、よっこらせと椅子から立ち上がって、クエストボードに依頼を貼り付ける。
他の依頼書を見ても報酬がしょっぱいものばかりで、どう見ても俺の依頼は破格レベルで美味しい。
だが、酒を飲んでいる冒険者たちは見向きもせず、なんならテーブルから立ち上がってすら来ない。
「なんでだよ、仕事しろよお前ら……」
飲んだくれてる連中に苛立ちすら込み上げてくる。
気づいてないのか? いや、まさか俺がギルドに入った時、全員から視線を感じた。気づいてないはずがない。
俺は両手を広げて声をあげる。
「皆、聞いてくれ! 母が賊に捕まって困っている! 今すぐ助けに行きたい。腕に自信があるものは協力してくれ! 報酬は一人1000銀貨! 救出に成功したら更に500上乗せしても構わない!」
これでどうだ、1500銀貨といえば半年は働かなくても暮らせる額だ。(※1銀貨約千円。報酬額にして約150万円)
鍛冶屋でも最上級の武器が買える。それをたった一回の依頼で貰えるんだ。美味しいとしか言いようがないだろう。
だが、冒険者たちは俺の声が聞こえてないとしか思えないレベルで無視している。
「わかった2000、いやみみっちいことは言わない3000出すぞ!」
藁にもすがる思いで報酬を釣り上げていくが、それでも誰も動かない。
「なんでなんだよ……。なんで誰も受けてくれないんだ」
3000銀貨を50人に配るって言ってるんだぞ。
俺はそこで気づく、多分受けてくれないのは報酬の問題じゃないと。
すると顔を赤くした酒臭い男がこちらに近づいてくる。恐らく傭兵だが、目は座っており千鳥足だ。
「よぉ兄ちゃん、さっきから喚いてっけど、お前グランツ家のぼんぼんだろ?」
「あぁ、だから報酬は心配しなくていい。絶対に払う」
「いやいや、そういうこっちゃねぇんだよ。悪名高きグランツ王に、協力する奴なんかいねぇってことを言いに来たんだ。庶民にはなんでもかんでも税を課すくせに、テメェらは賄賂だなんだで潤ってる。なんでオレたちが、そんな悪党を助けなきゃいけないんだ?」
グランツ王家の嫌われっぷりが半端じゃない。
「君等が王族を恨む気持ちはわかるが、どうかお願いしたい。報酬も言い値で構わない」
俺は恥も外聞も捨て、深く頭を下げる。
「嫌だね、税金0にするなら考えてやってもいいぜ。無能ボンクラ王子のくせに、あんな豪邸に住みやがって。金さえ払えば貧乏人がなんでも従うと思ってんだろ?」
「おいおいジョセフ、そんなに煽ると怖い怖いメッサー王に殺されちまうぜ?」
「ウハハハハ、こんな島に流されてきたバカ王子にメッサー王が動くわけないだろ。第一と第二の王子は帝都にいるのに、こいつは田舎の島。それが答えだろ」
その通り、俺は所詮兄のスペア以外の価値がない。見捨てられた王族。酔っぱらいにバカにされて怒ることもできない。
「わかったら帰りな。今のママは諦めて、新しいママでも買ったらどうだ? 近くの娼館になら、お前のママになってくれる女が山程いるぞ」
「金くれるならオレ様もママになってやっていいぜ」
もう一人酔った男が、足をくねらせて女性の仕草をしてみせる。
周囲からド、ワハハハと笑いが巻き上がる。
その中にはギルドの職員も混ざっていた。
「ラウル様、こ奴らは心まで貧しくなってしまっているのです。我々の言葉は理解できませぬ」
「なんだジジイ? テメェオレらのことを下に見てんのかよ!」
ジョセフと呼ばれていた男は、酔った勢いで手にしたジョッキを爺やに叩きつける。
俺がそこに割って入ると、ジョッキが額で砕け、血が一雫流れ落ちる。
「ラウル様! おのれ貴様、グランツ王家に手を出すとは!」
爺やは腰に挿したレイピアを抜く。
「ち、違ぇよ、そいつが勝手に割り込んできて、そんなつもりは」
ざわざわと冒険者たちが周囲に集まってくる。
「お、おい、さすがに流血沙汰はまずいぞ……」
「悪王の息子だぞ」
「オレ知らね」
「お、お前らだって面白がって見てただろ! くそっオレのせいじゃねぇよ!」
ジョセフが逆ギレしかかると、俺の腰に挿した聖剣から黒い霧のようなものが漏れ出る。霧は徐々に大きな四足歩行の獣の形を成していく。
数秒ほどして、霧は漆黒の毛並みをした狼へと変化する。
ギルドの天井に体がつきそうなくらいの巨体で、目を赤く光らせた狼は「グルルルル」と唸りを上げる。
俺は直感的にこの狼が、ナハトが変化した姿だと気づく。
「ひっ!? なんだこの怪物、どっから出てきたんだ!?」
「ナハト、攻撃しちゃダメだよ」
「グルルルル、ガアアアアアアッ!」
ナハトが牙だらけの口を開いて咆哮すると、ジョセフは腰が抜けじょばじょばと失禁する。
「は、はひ、はひ」
「それ以上ダメだよ」
『グルルルルル(無理やり従わせちゃえばよくない? 今すぐ賊を追いかけないと、お前ら皆食べちゃうぞって)』
「恐怖による支配は、新しい憎しみが生まれるだけだからダメ」
俺はこの場をおさめるために声をはり上げる。
「依頼は取り下げる。食事の邪魔をして悪かった! 爺や行こう」
俺達はギルドの外へと出る。
「ラ、ラウル様、大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっと切れただけだ。血も止まってる」
「あの狼は一体なんだったのでしょう?」
「ナハト、一瞬だけ元に戻って」
そう言うと、彼女は黒狼からムチムチボインなサキュバスになって見せる。
彼女はイタズラっぽい笑みを浮かべて、こちらに手を振る。
「やぁ僕はナハト。彼の契約者さ」
「な、なんですラウル様、この乳の悪魔は!?」
「ごめん爺や、混乱するかなと思って言わなかったんだけど、俺が引っこ抜いたこの剣に彼女が封印されてたんだ」
「な、なんと」
爺やは口をパクパクさせて驚いている。
「一応悪魔だけど無害だから」
「そうそう、ちょっとラウルにエロいことするだけで、僕無害だから。むしろ手助けもしちゃう」
その舌を出して、親指と人差し指で円を作るのやめてほしい。
「ラ、ラウル様危険ですぞ! 夜魔は男の精気を吸い取ってミイラにしてしまうこともあるのです! 直ちに教会に頼んで、悪魔祓いの僧侶を派遣してもらいましょう!」
「そんなことしないよ~。彼僕の契約者だって言ったじゃん、むしろ永久に生きてもらうつもりだし」
今怖いこと言ったな、この悪魔。
「話聞いてた、おじーちゃん?」
「ええい、破廉恥な悪魔め、ラウル様をたぶらかすとは許せぬ! 僧侶など必要ない、この爺やが成敗してみせますぞ!」
「とか言う割に、僕が喘ぎ声だしたら、聖剣の周りずっとグルグルまわってたじゃん?」
確かナハトの奴、聖剣に封印されてたとき、遊びで喘ぎ声出してたって言ってたな。
その報告も確か爺やから聞いた。
「爺や?」
「そ、そんなことしておりません!」
「嘘ばっかり、このお爺さん聖剣抜こうとして腰痛めたことあるんだよ」
「爺や? 俺爺やのそういう実はエロジジイな話聞きたくないよ?」
「お、おのれ悪魔め! 嘘ばかりでラウル様をたぶらかしおって!」
さて嘘をついてるのはナハトでしょうか、爺やでしょうか?
俺は爺やだと思う。
「ナハト、君がいるとややこしいから剣に戻って。あと爺やおちょくるのやめて」
「は~い」
ナハトはニヒヒヒと笑いながら、黒い霧になって剣に吸い込まれていく。
「ラウル様、この爺や決してそんな事しておりませんから信じて下さい!」
「いや、庭に突き刺さった剣から、喘ぎ声聞こえてきたら誰でも近づくって。とにかくギルドで人が集まらなかった以上、俺達だけで救出するしかない」
一応無駄とはわかっているがリガルド城に応援の手紙を送った。しかし部隊が来るのに絶対一週間はかかる。
その頃にはママ上は、もうどこか遠くに連れて行かれているだろう。
やはり救出は俺達でやるしかない。
デブにジジイにサキュバスっていうイカれたメンツだけど大丈夫かな。
コメント
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うわ、ギルドの空気が重すぎて読んでてこっちまで胃が痛くなった……。王家の悪名のせいで報酬吊り上げても誰も動かないの、絶望的すぎる。でもその中で割って入ってジョッキを頭で受けたラウル、行動力はガチだしマジでカッコよかったわ。ナハトの黒狼姿も迫力あってシビれるんだけど、あのあと爺やを軽くイジるノリがギャップで好き。デブ・ジジイ・サキュバスというイカれたパーティーでこれからどう救出するのか、次の展開が楽しみすぎる🔥