「楓果ちゃん…俺、どうしたらいいんだろ…」
うーん、と唸りながら彼女は腕を組み、ゆっくりと目を閉じた。恋バナ中真っ最中だった。彼女は影にあるベンチに1人座り込み、僕は暑がりながらも直射日光の下で忙しなくブランコを漕いでいた。
「思いを伝えてもいいと思う」
「え?なんて??」
僕はブランコを漕ぐのを止めない。それを眺める一人は何かを思いついたようにたまらず息を大きく吸い込んだ。
「思い伝えなよお!!拓斗くんわあ!!道浦のことが好きでたまらないですうってええっ!!!」
「うるっせえ!!周りに聞こえるだろお!!近所迷惑だろ!!」
「じゃあベンチ座れよお!!遠いわ!!」
ひっそりとある広い公園で僕たちは話し合う。ブランコと鉄棒、滑り台とカラフルなジャングルジム。そして僕のグレーの自転車1つ。どれもこれも日の光に照らされ暑がっている。
「ごめんな。またお前のこと呼び出して。」
「なんの。なんの。なんのこれしき。君の恋煩い見るの好きだから問題ないよ。」
彼女はわざとらしく、そして軽く言ってみせた。ハンカチで顔につく汗を軽く拭っている。ふと、さっきまでなかった不安が脳裏に浮かぶ。実は、気を遣われていたらどうしようかと。そんなことを考え出すとたまらず気持ちが苦しくなってきた。彼女は僕の悩みを唯一知る友人であり恩人だ。
「…嫌じゃない?俺の同性同士の…話…気持ち悪かったら気持ち悪がっていいんだぜ。」
へらっと笑って重い台詞を誤魔化してみせた。誤魔化しは大事だ。きまずくなったら元も子もないからな。しかし、彼女は何かを察したのか真剣な眼差しで僕を見る。
「嫌だったら来ないよ。この恋バナは君にとって重要な問題だろう?相談でも助けでも求めてくれれば時間さえあればいつでも駆けつける自信があるよ。マルチ商法は助けないけどね。」
僕はこの言葉を聞くために毎度安心を求めてしまっていた。いつも確認してしまう。彼女だってこんな台詞聞き飽きただろうにずっと寄り添ってくれるんだ。
「伝えなよ…思い….あー、うーんでもなぁ」
どこかぎこちなぁく彼女は言葉を濁し始めた。首を傾け、なんて渋い表情してやがる。それに影響され僕もつい頭を抱える。うーーーん。これはお馴染みのやり取りだった。一進一退。この会話に答えは求めなかった。一緒になって解決策を探すのが楽しかった。1人で抱え込むよりもずっと…。思いは伝えるべきなのか?今の関係でも十分なんじゃないのか?これ以上の関係を求めることなんて贅沢なんじゃないのか?告白するのはデメリットが大きい…などとお互い思考を巡らす仲だった。
「どうして楓果ちゃんまでそんなにも迷うんだよお。伝えるべきと伝えないべきの差が激しいよ。なあ、何がそんなに引っかかってるんだ?」
「うぅーん。(あいつはどこか胡散臭くて苦手だなんて言えない…!絶妙に言えない…)うーん。へへへっww」
「誤魔化すなw…知ってるよ。楓果ちゃん、苦手なんだろ。道浦のこと。」
「!」
彼女は一瞬固まった。しかしすぐに諦めた。なんだ知っていたのか、と。
「うぅーん…うん。ニガテですね。」
ごめんね。と申し訳なさそうに話していた。
「告白しにいくのを肯定しきれない理由としてあるのがさ、例えば、私が父親だとしたら、私の娘がいけ好かない男と付き合い始めるだなんて反対だっ!という、視点。」
「どこ目線だよ。」
「どこかもどかしいんだよ。あの人と付き合うのかあっ…て。でもね!拓斗くん。これだけは伝えさせて…」
汗で湿った僕の右肩に軽く手を置いた。
「私は彼のこと…道浦くんのことはよく知らない。だから彼の良いところを私よりずっと知ってる君は私の意見より自分の抱いている感情に耳を向けて。君は今大きな決断をしようとしている。恋心は罪深いよ…わかる。私は二次元相手にしかしたことないけど…。もし、盛大な振られ方をされたとしても、恋が叶わなかったとしても…」
僕の目を真っ直ぐに見据え、
「私がいる!友達としてね!大丈夫!辛い対応をされたらその時は私がうざい程慰めてあげるから!大丈夫!前だけを見ていればいい。自己中に将来を想い描けばいい!何も怖いことなんてないよ。」
不思議だった。どうしてこんなにも寄り添ってくれるのか。心強かった。彼女の大袈裟な台詞にはどこか安心感をもたらせてくれる。本当に心の底からの台詞なのだろう。
「どうして俺のことそんなにも応援してくれるの」
君との思い出は忘れられない。あの日から、夏の暑さにはどこか楽しい記憶が懐かしさとして今もあり続ける。
「友達だからだよ。大層なことじゃない。」
どうして道浦と付き合っていた。楓果ちゃん。僕が道浦のこと好きだって知っていただろう。今までどんな気持ちで僕と関わっていたんだ。よく本人の前であんなことを平然とできたものだよな。お前の黒さは底知れないものだったらしい。裏切者。僕を騙していたな。思わず怒りがこみ上げていた。しかし、それ以上に、それ以上に悲しかった。心が腐る。変な匂いが身体から漏れていないか心配になるほどに。
…それに、僕が告白して道浦に振られてから随分たつじゃないか。どうして勝手に腹立たしくなっているんだ。僕は一体1人で何に対して怒ってるんだ。熱をもった頭が緩やかに冷静さを取り戻し始める。別に彼女は気が変わって道浦を好きになったんだろう。それだけだ。それだけのことなんだ。しかし、拭いきれないもどかしさがまだ胸の奥に突っかかる。どうして楓果ちゃんまでもが付き合ったことを僕に教えてくれなかったんだ…僕はそんなにも君にとってどうでもいい人間だったのか?
短時間で変化し続ける感情と噂話は当てにならなかった。道浦…お前も僕に教えてくれたっていいじゃないか。
僕は衝動的に道浦本人に2人は付き合っているのか聞いてしまった。隠しているのには事情がある筈だ…。主に僕が原因だろう。わざわざ聞かなくてもいいものを聞いてしまった。聞かずにはいられなかった。
「なあ、道浦!お前彼女出来てんの!えっ?どうして俺に教えてくれないかな〜」
コメント
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執筆お疲れ様です✨ 恋バナが始まって、良い感じで着地するのかな…?と読んで行ったのですが…なんということでしょう……👀👀 少なからず彼もショックを受けていて、何故だかこっちが申し訳ない気持ちでいっぱいです……😭😭😭