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「千紗さん」
「なにっ!?」
「頑張れ」
からかいの延長だと思ってキッと晴留を睨んだ千紗だったけれど、至極真剣な顔をして告げられて、千紗は少しだけ表情を引き締めた。
「……ありがとう」
「どう、いたしまして……?」
お礼を言うのも、それを受けるのも、なんだか妙なやり取りだなと当人たちも気付いたらしい。
二人で顔を見合わせて笑いあう。
良介が「タクシーすぐ来るって~」と報告してきたのと、晴永の車が店前に滑り込んできて、「瑠璃香」と声を掛けるのとがほぼ同時だった。
ハザードを焚いて道路脇へ寄せられた車から晴永が傘を手に降りてくる。
傘をさしかけて瑠璃香を助手席へ乗せてから、傘を晴留に返しながら千紗を見遣った。
「藤井田さんは……」
「実家住まいよ?」
「ってことは……」
「帰ったらすぐ、両親に気持ちを話すつもり」
「そっか……。頑張れ」
期せずして、つい先ほど晴留が言ったのと同じセリフを千紗に投げかけたことを、晴永は気づいていない。
そんな晴永に、千紗が一瞬だけ瞳を見開いてから、「顔だけじゃなくて言うことまでそっくり」とつぶやいて……。
晴永は意味が分からずキョトンとした。
「どういう意味だ?」
「気にしないで?」
「……?」
「こっちの話。……それはさておき……新沼さんの方こそ頑張ってね?」
「……?」
「だって……うちよりそっちのおじい様の方が、手強そうだから」
「ああ、知ってる……」
晴永はそこで一拍置くと、助手席から心配そうにこちらを見つめている瑠璃香に笑って見せた。
そうして表情を引き締めて、
「けど、絶対説得してみせるから」
逃げるつもりはないのだと、瑠璃香の顔を見て宣言する。
「私も……」
晴永の言葉を受けて千紗がつぶやくなり、良介が彼女の肩を抱いた。
「一緒に頑張ろうね、チィ」
「うん」
もう決めたのだ。
誰一人として逃げない。
守りたいもののために。
自分で選んだ未来のために。
全員が――それぞれの戦場へ向かうことを。
***
十分ほど後。
タクシーは藤井田家の門前へ到着した。
しとしとと降り続く雨の向こうに、見慣れた屋敷が見える。
(怖い……)
両親は分からず屋ではない。
でも……家同士の利権が絡んだ問題となれば、話は別かもしれない。
千紗は我知らず、鞄を持つ手に力を込めてしまう。
「チィ?」
「……あっ、雨が酷いなって思ってただけよっ!?」
良介にだけはその怯えを気取られたくなくて、空模様に責任転嫁をした千紗が、ここまでの運賃を財布から取り出す。
「これ……」
そうしてそれを押し付けるように良介へ手渡そうとしたら、スッと片手をあげて制された。
「運転手さーん。僕もここで降ります。清算、お願いできますか?」
良介は千紗の差し出したお金を彼女へ差し戻すなり、自分の財布から運転手へ五千円札を差し出した。
コメント
2件
あ、良介、タクシー降りたね♥
えーーーっ!?第100話おめでとうございます!!🎉✨ 今回のエピ、千紗と晴留&晴永兄弟の「頑張れ」が被るシーン、自然すぎてニヤニヤしちゃったよ〜!!「言うことまでそっくり」って千紗に気付かれるのも含めて、兄弟っぽくて良すぎる😭💕 それに良介がタクシー代も払って一緒に降りるって…もうね、全部背負う覚悟感じてエモすぎるんだが??「誰一人逃げない」って決意でそれぞれの戦場に向かう感じ、胸熱すぎて震えた…!!次も全力で応援するね⋆⸜💖⸝⋆
鷹槻れん

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