テラーノベル
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「はい、二千二百円ですので……おつりは」
「あ、おつりはいいです」
「え?」
「……本当は僕だけもう少し乗るつもりだったの、途中下車しちゃうので……。乗ってた場合の見なし運賃だと思ってください」
「それは……なんか……気を遣わせてしまってすみません」
「いえいえ。安全に送り届けてくださり、ありがとうございましたぁ~」
良介はにっこり笑って運転手に礼を言うと、当然のようにシートベルトを外した。
そして、開け放たれた扉からひょいと車外へ降りてしまう。
千紗は、シートに座ったまま、茫然とその背中を見つめた。
「おーい。なにぼんやりしてるのー? チィも降りなきゃー」
車外からヒョコッと顔をのぞかせた良介に促されて、千紗はようやく我に返る。
「あ、うん……」
わけが分からないまま車を降りると、良介が隣でほぅっと息を吐いた。
「チィのお家、いつ見ても大きいねー」
その言葉で、千紗は今さらのようにハッとする。
「ちょっ、良介! なんであなたまで降りてるのよ!」
「えー? そんなのチィが心配だからに決まってるじゃん」
「……っ!」
その言葉に、家を見上げて怖気づいていたことを見抜かれていたのだと悟り、千紗は自分の不甲斐なさにギュッと手指に力を込めた。
「……け、けどさっき、良介、車の中から私を見送るって言ってたじゃない」
(大丈夫。いつも通りに返せてる)
そう思いながら良介を見上げたら、
「へへっ。予定変更ぉ~♪」
悪びれもせず微笑み掛けられて、千紗はふっと肩の力を抜いた。
「いっ、家には……入れないわよっ!?」
「んー? 大丈夫。今はまだ入らないよ」
意味深な言い方をして、のほほんと笑う良介に、千紗はキョトンとする。
「おとなしく外で待ってますワン、ご主人様」
「なんで犬?」
「何となくー。冗談はさておき、終わったら連絡して?」
「……何時になるか分からないしっ」
話し合いが難航したら、どのくらい良介を待ちぼうけさせるか見当がつかない。
そう言いつのろうとした千紗だったのだけれど――。
「何時になってもいいよ? だって……もしチィが泣かされたら、慰める係が必要でしょ?」
あまりにも自然に言われて、思わず言葉を失った。
「ほら、僕はチィの彼氏だからねー」
ドーンとこぉーい! と付け加えながら胸の辺りをポンポン叩いて見せる良介に、千紗はうるっときてしまう。
それを誤魔化すように、
「なによそれ! 私、撃沈確定なの?」
強い口調で咎めたら、
「まさか! うまくいったときも抱きしめさせて? その時は……そうだなぁ、彼氏の特権的な?」
そう畳みかけられて、何も言えなくなった。
「……バカ」
結局長い沈黙の後、ポツンと口を出た言葉は可愛げのないものだった。
でも……。
良介の言葉のおかげで、千紗は不思議と肩の力を抜くことが出来た。
***
門扉を見上げる。
覚悟を決めたはずなのに、やはり緊張する。
コメント
2件
良介ぇぇぇ♥
うわぁ……良介、本当にいい彼氏だね🥺💕 車から降りて「心配だから」って言うところ、そして「泣かされたら慰める係」って言葉にグッときたよ。千紗の緊張をほぐそうとして、でも重くなりすぎない距離感が絶妙で……「今はまだ入らない」って意味深な言い方も、彼の優しさとちょっとしたずるさが混ざってて好きだな。家の前で待ってるって言う良介の存在が、千紗の背中を押してる感じが伝わってきて、胸が温かくなった🥺💕
鷹槻れん

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