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(俺に会いたいって、明智の名前を出していったいどこのどいつだ?)


この四年間ひっしに調べたというのに手がかりもなく、足取りもつかめなかったというのに、どうして今になって明智を知る人物が訪ねてきたのだろうか。まあ、理由はどうでもいい。チャンスだと、俺は待たせている人物のもとに向かった。

後輩に「ここです」とその人物を待たせている部屋に案内され、俺は息を大きく吸う。全く誰かも予想が出来ないが、後輩によると二十代ぐらいの女性らしい。本当に全く聞き覚えも、記憶にもないためわからなかった。合コンには参加していたが、二0代前半となるとまた話は違ってくる。

俺は、扉をノックしたのち、部屋の中に入った。

白い長テーブルにパイプいすが置いてあるだけの簡易的な部屋。そこに彼女はいた。


「……安護?」


成長しているものの、その面影はしっかりと残っており、すぐにその人物が誰だかわかってしまった。


安護綾子――、

明智が探偵をしているときに依頼に来ていた少女がそこにいた。四年たっているといいうことは、大学生か就職しているということだろう。少しラフ目な格好をしているためどちらかはわからなかったが、目つきの悪さや、その黒々とした髪は何一つ変わっていなかった。


(何でこいつが?)


疑問が頭の中を埋め尽くす。全く想像もしていなかった人物で、また四年ぶりの再会ということもあって少し気が動転している。だが、それを悟られまいと俺は咳払いをする。

綾子と目が合い、相変わらずの睨んでいるのかもともとそうなのかわからない目を向けられている。彼女も四年ぶりだったが俺のことを覚えていてくれているようだった。といっても、互いに一度しか顔を合わせていない相手でありよく記憶に残っていたものだと思った。俺も記憶力はいいほうではなかったが、彼女の姿は忘れたことはなかった。


「お前が、俺に会いたいって訪ねてきたやつか?」


どう切り出せばいいかわからないといった顔で綾子が見てきた為、俺から話の切り口を作ってやる。大柄な態度で第一声がこれで申し訳ないと思いつつも、俺は目の前のパイプ椅子に腰かける。

話があると訪ねてきたんだ。理由はしっかり聞くつもりだ。

明智や神津の仇を打つことが出来るかもしれない。そんな淡い期待もあった。まだ、会いたいということしか言われていないのに、これから言われる内容が大方予想がついていた。

そんな気がするのだ。

綾子は、少しだけむっと口を尖らせた。俺の態度が気に食わなかったんだろうと思うが、彼女も気を落ち着かせるためか深く息を吸ってはいていた。それから、俺をじっと見る。


「ああ、そうだ。とある人物から『高嶺澪』刑事を訪ねるといいといわれたからな」


と、どこか男勝りな口調で綾子は言う。

俺は別に有名でもないし、顔が知れているわけでもない。ただ一介の刑事に過ぎないのだ。他にもたくさん存在する刑事ではなく俺を名指ししたのはどういうことか。明智のことを知っているという点に関しては俺が一番だろうが、それを綾子が知っているとは限らない。では、誰の情報か。


「誰に言われたんだ?」

「それは、分からない」

「分からないってどういうことだよ」


綾子は首を横に振った。それは、隠し事をしているという感じでもなく、嘘をついているという感じでもなかったため、これ以上責めるわけにはいかないと思った。ほとんどいえば、初対面のような関係であるからだ。それも、明智を通しての関係。

彼奴が死んだともこんな縁が繋がっていると思うと、彼奴が生きていたっていう証拠にもなって頬がほころんでしまう。


「……本当にわからないんだ。ただ明智探偵の『警察時代の上司』と名乗っていた」


そう付け加えるように綾子は言った。

その言葉から導き出されるに、綾子が正体がわからないといった点も含め公安の人間なのだろうと思った。だが、わざわざそんな奴が一般人の綾子に接触するだろうか。協力者にならないのなら接点が出来ないはずだ。だが、綾子が公安の協力者という感じにも見えない。

となると、その上司と名乗ったやつの個人的な頼みだろうか。

明智が公安時代どうだったかは何もわからないままだった。だが、一度だけ苦手な奴がいる、とこぼしたことがあったため、多分そいつのことだろう。明智は嫌っていたようだが、その上司は明智のことを思っているようだった。公安と一警察官では全く違うし、関わることもあまりなく、どちらかというといがみ合っているような存在だ。だからこそ、こっちはこっち、公安は公安と分けている。まあ、それが今回どういうことかつながってしまったわけだが。


(そんなことはどうでもいい、ただその上司が俺を名指しした意味が分からない)


もっと優秀な奴がいたはずだとか、俺を名指しする理由もどうやって明智の交友関係を調べたかもわからない。ただ、何もわからず話が進んでいたのは気に食わなかった。

俺は、とりあえず考えることは後回しにし、結局何で訪ねてきたかを聞くことにした。


「まあ、お前がどういった経緯で俺にたどり着いたかは分からねぇけど、それで? 俺に明智の何を聞きたいんだよ」


そう聞けば綾子は違うという風に首を振り、すっと背筋を伸ばした。


「アタシが今日、高嶺刑事を訪ねた理由は、明智探偵を殺した犯人を伝えに来たからだ」


そうはっきりといった綾子の目は嘘をついている風には見えなかった。


(今、何つった?)


綾子の真剣でまっすぐな目を見ていると、疑いようもない事実で、真実を伝えに来たというのがわかったが、俺は理解が追い付かず口を開くしかなかった。

明智を殺した犯人を知っている。それを俺に伝えに来た。

要約するとそうだった。

だが、いくつもの疑問と不振点が上がってき、早速キャパオーバーになりそうだった。いいや、なっている。


「高嶺刑事?」


綾子は黙ってしまった俺のことを心配したのか呆れたのか、俺の顔を覗き込んで言葉を待っているようだった。特大の情報を持ってきた彼女に聞きたいことは沢山あったが、まず、なぜそれを彼女が知っているかだ。


(明智の上司ってやつがわざわざ教えたのか? なら知っていて、なぜ捕まらない?)


理由は簡単で、明智を殺した犯人、つまり爆弾魔のバックにいるのが海外のマフィアだからだろう。だとしても、公安であれば足取りをつかみ捕まえることが不可能ではないはずだ。可能性があるのであれば動いてほしい、そう思いながらも、国家犯罪ではない為動くこともないかと諦めもあった。俺の母ちゃんの時も何かを知っていたみたいだが、結局何も教えてくれなかったわけで、公安とは秘密主義で重い腰を上げない存在なのだと思い知らされた。

なら、今回の場合はどういうことだろうか。

綾子を通じて明智の情報を教える? そうしてあっちに何のメリットがあるのだろうか。


「何で、お前が知っている? つか、それを何で俺に」

「協力を仰ぎたいから……違うか、一番あの事件を追っている高嶺刑事の力になりたいから、といったほうが正しいか」


綾子は悩んだのちにそう答えた。

その言葉を聞いてますますわからなくなった。綾子が今どういう立場でどんな生活をしているかわからないが、なぜ俺なのか。四年前からあの事件を追っているのは事実であり、それを公安がこそこそ調べやがって、綾子に言ったのであれば理解ができる。だが、なぜ彼女なのだろうか。


「それは、公安からの協力……彼奴らの協力者で、当事者であり明智のことを知っているから俺を訪ねてきたと」


そう聞けば、綾子は首を傾げた。


「いいや、すまない。アタシにはその警察の仕組みというか組織のことがよくわからないんだ。公安がどうとか、そういうことではなく……確かにアタシがあった男はそういう雰囲気だったが、そういう理由でここに来たんじゃない」


と、綾子ははっきりといった。

俺の小さな脳では、到底理解できる内容ではなかった。明智であれば彼女の言いたいことも、真意も、行動理由もすべて推理して言葉が足りないところを勝手に頭で補っていただろう。だが俺は明智ほど優秀ではない。

足りない頭で考えつつ、どうにか答えを出そうとしたが結局時間の無駄だった。


「お前の言っていることがわからない」

「アタシも、何故貴方のような人を訪ねなければならなかったのか理解できない」

「ディスってんのか!?」


遠回しにディスられたような、頭が悪いとでも言われたような気がして、俺は思わずかみついてしまった。綾子はそれを見て小さなため息をついた。そりゃ、明智と比べりゃどうしようもない人間かもしれねぇし、明智と面識のある綾子からしたら俺なんて取るに足りないような存在だろう。俺の力になりたいではなく、私の力になってほしいといわれたほうがしっくりくる。それでも、受け身に徹しているのは理由があるのだろう。


「はあ……明智探偵であればすぐに気づいてくれるだろうに」

「……」

「先ほどの言葉は撤回しよう」

「撤回しきれないがな」


綾子は俺が機嫌が悪くなったことを察したのか、取り敢えずといった感じに頭を下げた。それで怒りが収まるわけもなかったが、年下の女相手にかっかしてても仕方がないと、ここは大人になることにする。いや、大人だが。

綾子は俺よりも年が下のはずなのに妙に落ち着いており、物事をはっきり見定めているといった感じだった。その姿が姉ちゃんに重なり、苦手なタイプだと思う。


「話は戻すが、アタシは明智探偵を殺した犯人を知っている」

「どーして、お前がそれを知ってんだよ。つか、何で今なんだ?四年前に分かっていたら、もっと早く捕まえられたかもしれねぇだろうが」


ついさっき知ったというのであれば、仕方がない。だが、綾子の雰囲気からしてそうではないことは明確だった。だからこそ、怒りが蓄積される。

綾子はすまないというように頭を下げた。しかし、こいつにも譲れないものがあるのだろう。そんな感じがする。


「四年前に分かっていたら……ああ、そうだ。いいや、もっと前から知っていた。ジュエリーランドの爆発も、電車も、ビルも、飛行機も……全部そいつの仕業だと知っていた」


衝撃的な告白をする綾子に開いた口が塞がらなかった。

それから、綾子は、思い出したように鞄の中から一枚の写真を取り出し俺に渡した。スッとテーブルの上を滑って写真が俺のもとに届く。俺はそれをめくって写真に写った人物を見て目を見開いた。


「……その様子だと会ったことがあるらしいな」

「は……あ?」


綾子の言葉通り、その写真の人物には見覚えがあった。名前までは知らないし、言葉を一度交わしただけだった。記憶に残っていないとも思っていた。だが、その写真を見てぶわっと血が駆け巡るような感覚に陥った。


「明智探偵を、ならんで神津探偵を殺した爆弾魔は――私の友人だ」


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