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「彼女、爆弾魔は私の級友……もしかしたら彼女は今でも私のことを友人だと思っているかもしれない。だが、私は彼女がどこで何をしているのか全く分からない」


そう淡々と告げた綾子に少し寒気がした。

ただ情報をつらつらと述べているだけのようで、もし彼女が言った通りこれまで捌剣市で起こった爆破事件が写真に写っている少女が起こしたものであれば、たくさんの被害者が出ているというのに。ただ被害者の数字を述べているだけのような綾子は人の心があるのかと疑いたくなってしまった。


(爆弾魔の友人っつうなら、人の心がねぇのかもしれねぇな)


全く最低な言い方で綾子のことをまとめて、俺はもう一度写真に目を移した。

あの日、神津が死んだあの日ジュエリーランドで出会った少女。綾子と年が同じであれば今は成人しているだろうが、あの日、俺を引き留めた少女がそのまま写真に写っていたのだ。あれは偶然だったのか、それとも仕組まれたことだったのか。今となってはその真相は闇の中だが、綾子はそれを知っていたということになる。


「じゃあ、あの日、お前は彼奴と一緒にいたっていうのかよ」

「……四年前、いや五年前か。いいや、あの時は一緒じゃなかった。それに、仲がいいというわけではない。むしろ、私は嫌悪していた」


と、綾子は爆弾魔の協力者ではなかったことを自首する。

その言葉がもはや、嘘か本当かは分からない。だが、知っていて綾子は警察に言わなかったということになる。ならば、もう協力者と言っていいのではないだろうか。


「なぜ知っていて何も言わなかった」

「信じたくなかった……と言えればいいが、気づいてもいた。彼女の行動理由も、馬鹿げた遊戯も全て」

「遊戯だと!? 人が亡くなっているのにか!?」


本当に、機械のような女だと思った。なぜ平然としていられるのか、平気とそんなことを言うのか、理解に苦しんだ。俺とは全く違うと、身体が拒絶している。

しかし、ふと顔を上げて綾子を見れば、苦しそうにゆがんだ顔をしているのが見えてしまった。深く後悔しているとでもいうような顔に俺はハッとする。綾子の事情も何も知らない。知ろうともしずに、俺は決めつけてしまった。


「……悪い、今のは完全に俺が悪かった」


四年前と変わっていない。感情に任せて怒りをぶつけたところで、そいつに響くかもわからない。吐き出したところで一時的になるだけだと。

何度も深呼吸を繰り返す。この癖だけはどうにも直らなかった。蛇足も、余計なことを言うことも。努力しても、すぐに口が出た。

初対面にも近い相手だ。落ち着かなければと。


「高嶺刑事」

「気にするな……っつっても、食って掛かったのはこっちだし、お互い様だ」


何もお互いさまではないが、ベクトルも違うし。と思いながら、俺は綾子を落ち着かせるために微笑んだ。ぎこちない笑みに、綾子は怪訝そうに笑った。


「それで、お前のダチが爆弾魔ってのは本当なのか?」

「ああ……彼女が事件を起こした理由もアタシに関わるものだからな」


と、綾子は言うと目を伏せた。

やはり想像がつかない。

綾子から発せられる言葉は全て意外なもので、次に何が飛び出してくるかわかったもんじゃなかった。だから、食い入るように聞いていた。


「お前が指示したとか?」

「とんでもない。そんなことする理由もないし、していたとしたら自首をしている」


綾子は、俺の言葉に過剰に反応した。それは共犯だからという感じのものではなく、ただたんに無実を証明しようとしているだけのようだった。疑うのも話を聞いてからだと自分に言い聞かせる。

綾子は俺の一言で機嫌を悪くしたらしく、もともと悪い目つきをさらに鋭くさせた。


「少しは、アタシの話を聞いてほしい。勝手に想像で悪者にしないでほしい」

「わ、悪かった……」


年下の女に尻に敷かれるとは気分が悪かったが、ごもっともなことで、俺は言い返す気力もなかった。綾子ははぁ……と大きなため息をついたのち、机の上で手を重ねて話をつづけた。


「彼女、名前は高賀藤子っていう……高校時代の友人で、私と出会う前からマフィアとつながっていたらしい。私から彼女に話しかけることはなかったし、そもそも目を付けられたっていうのが正しいか」


と、綾子は過去を振り返るように言う。

友人、と言っている割には他人のように言う綾子に違和感を覚えた。


(他人というよりむしろ……)


「そして、彼女が事件を起こした理由だが、私のため、らしい」

「らしいって、お前が指示したんじゃないなら何なんだよ」

「常人じゃ理解できないし、私も理解できない。でも、彼女は言ったんだ。『綾子の大切な人を殺せば、綾子は自分のことを見てくれる』と」


狂ってるだろ? と自称気味に言う綾子。

俺もその理由に絶句し、言葉を失った。

そんな狂った理由で、明智や神津は殺されたというのか。

怒りだったか、呆れだったか、何だか分からないが握ったこぶしはわなわなと震え、どこかにぶつけなければならないほどに強く握られていた。


「私は、そんな馬鹿な理由で事件を起こした藤子を許すことはできないし、昔の私は、私に興味がなくなればいいと避けていたが、彼女がそれをやめることはなかった。私が目を背けていた内に、取り返しのつかないことになっていた。目を背けていた過去の自分が許せない……だから、私は明智探偵の仇を、彼女と向き合うために高嶺刑事とこの事件を、爆弾魔を捕まえたいんだ――お願いします」


狂った犯行理由に、狂った愛情――

目の前で、きっと初めて人に頭を下げた、真剣に頼った綾子を見ていると力になりたい、力を貸してほしいという思いになった。彼女が四年以上、下手すると七年以上も抱えてきたものを思うと、動かないわけにもいかなかった。

やるせなさや、後悔。それは俺も今現在でも背負っているものだ。だからこそ、同じだと自分と重なってしまう。だが、一般人を巻き込むのはどうかとブレーキもかかってしまう。


「高嶺刑事、頼む。私を――」

「考えさせてくれねぇか?」


綾子は断られるとは思っていなかったようで、口を開いたまま固まってしまっていた。流れ的に、俺も承諾する感じだったし、それは否定しない。それに、そういう方向で行こうとも思っている。だが、その前に一つ確認しなければならないことがあった。


「お前にとって、明智はどういう存在だったんだ?」

「それは、先ほどの答えと論点がずれている。何故、アタシの頼みを聞いてくれない?」

「それは後から答えてやるから、まず俺の質問に答えろ。協力するのはこっち側だ」


少し強く言い過ぎた気がしたが、これぐらいしか綾子を黙らせられなかった。彼女は不服ながらに、前のめりになり立ち上がってしまっていた為、腰を下ろす。苛立ったように、自らの手の甲に爪を食いこませていた。だが、その爪は決して長いとは言えない。定期的に切っているようにも思えた。


「お前、今何をしている?」

「質問が多いぞ、高嶺刑事。何をって、職業のことか? アタシは、看護師になった、この春から。ずっと、目標でなりたかったものだったから」


と、自分の夢と職業に誇りを持ったような言い方をする綾子は、本当に目指してきたんだろうなというのが一目でわかった。ずっと努力してきたという言い方で、俺も何だか羨ましく思う。


「それとこれとは、別で……話を戻すが、私にとって明智探偵は恩人なんだ。母からの最期のプレゼントであるマモ……猫をいつも探して必ず贈り返してくれる、それも一度や二度じゃない」


俺は綾子の言葉に相槌を打つ。

そんなこと言われなくても、明智から聞いているのだ。一応は、明智と綾子の関係を知っているつもりだった。綾子は、そのことを父親に暴露されて、怒っていたとも明智から聞いた。確かに、恩人と言われれば恩人だが。


「アタシと関わったがために、殺されてしまった。だから、罪悪感があるんだ」

「お前のダチは、お前の周りの人間を排除しようとしてたのか?」

「ああ、簡単に言うとそうだな。だから、母も……父は死ななかったものの、職場で爆破被害にあっている。これ以上家族を周りの人を巻き込まないためには、私が彼奴を止めるしかないと思ったんだ。そう決断するのが遅かった」


と、綾子は言って目を伏せた。

深い後悔は永遠に付きまとうものだと、俺は知っている。だからこそ覚悟を決めて前を向こうとしている綾子の背中を押したいと思った。

もう、懺悔も理由も十分だろう。


「分かった、その頼み聞いてやる」

「本当か?」

「だが、この事件は管轄外だ。表立って調査はできない。それに、本来であれば公安の仕事になるだろうし、俺達は独自調査、秘密裏に調査しねぇといけねぇ。それでもいいか?」

「あ、ああ」


綾子は、戸惑いながらもうなずいた。

俺もすべてを把握しているわけじゃないが、この事件を俺達一課に持ってこられたところで動けはしないだろう。だから、俺が独自に進めていたように、個人調査ということになってしまう。それも、一般人を巻き込んでだ。これが上にばれたらどうなるか分からない。そんなリスクもあったが、俺は引き受けることにした。

仇を討つと誓ったから。

それから暫くして、様子を見に来た後輩に綾子のことを任せ、また後日連絡をすると彼女に連絡先を渡した。綾子を無事送り届けた後、後輩は何の話だったのかと俺に聞いてきた。


「それで、何の話だったんですか。先輩」

「あーいや、因縁の相手っつぅか、ダチとの約束を果たすための手がかりっつぅか」

「先輩のご友人ですか」

「ああ、まあ三人とも死んじまってるけどな。だから、俺が仇を討つって約束、誓ったんだよ」


いつもならここまで詳しく言わないが、少し気分が良かった俺はそう後輩にこぼした。後輩は俺のダチのことなど一切知らないし、俺が墓参りに行っていることも何も知らない。だからこそ言えたのかもしれない。

覚えているのも、彼奴らを知っているのも自分だけで十分だと思った。


(約束、どうにか果たせそうだぜ……空)


本当は、空が仇を打つと神津と明智に誓ったが、彼奴も死んじまったし、彼奴の意思を俺が受け継いでいるだけだった。神津も明智に仇なんて取らなくていいといっただろうし、明智も空に仇を取ってくれともいわなかっただろう。勿論、空も俺に言っていない。だから、これは個人的に彼奴らに誓った約束なんだ。

四年の時を経て、ようやくあの事件が動く。このチャンスを逃してなるものかと、俺は一層気を引き締めた。

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