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わたしの名はアイーダ・タリスマン。この国では、わたしの名を知る人は少ないかもしれないけれど、フランスやイギリスでは、とても有名な存在よ。
だって、わたしはこの国の王の娘にして王女……つまりお姫さまなんですもの! といっても、もうすぐ16歳になるけどね。
お父さまとお兄さまたちは、いつも忙しくて、なかなか会えないんだけど、たまに会うときは優しくしてくれるわ。お仕事で大変なはずなのに、みんな笑顔を絶やさないんだよねー。さすが王族っていう感じ? それにひきかえ、妹のマリーアンヌったら、ちょっとわがまますぎると思うのよね。お姉ちゃんのことを悪く言ったり、侍女たちにきつく当たったりするしさ。ほんっとうに腹立つ! だけど、わたしには優しいんだよねぇ~。
「アイーダ、今日もかわいいわね!」
ほらっ、こう言ってくれるもん。妹にも嫌われないようにがんばらなくちゃ! ところで、この前、不思議な夢を見たの。そこでは、なんとわたしは大人になっていたのよ! 信じられないでしょう? 最初は、自分が夢の中の登場人物だとわからなかったくらい。
それでいて、なぜか現実感があったの。空を飛ぶこともできるし、森の中で動物たちと暮らすこともできたのよ。ただひとつ残念なのは、魔法が使えなかったことだわ。もし使えるなら、きっとすごい魔法使いになれたのに……。
でも、夢の中の世界で、猫を飼っているというのはどういうことだろうか? 夢の中で、私は自分の家にいた。猫がいることはわかっていたが、顔を見ることはできなかった。ただ、背中のまるい感じや、足のつめさきっぽの色などからメスだとわかった。その猫はぼくのことを、まるで主人のように慕ってくれたが、名前はなかった。
ある日のこと、夜中にふっと目覚めると、枕元には一匹の子ネコがいた。子ネコといっても、もうかなり大きくなっていた。生後二カ月ぐらいであろうか。ぼくはそのネコを抱きあげてみたが、首輪などしていない。どこから来たんだろうと思いながら、寝床にもどった。
翌日になると、その子ネコはいなくなっていた。やはり昨夜の子は、この家から来ていたのではあるまいかと思ったりしたが、確証はない。ところがそれから数日後の夜中、また同じ場所に子ネコが現れた。そして次の日も……。私はだんだん、怖くなってきた。これは何かの前ぶれではないだろうか。そのうちあの子が家に棲みつきそうな気がしてきたからだ。しかも今度は前と違って、もう手遅れらしい。
「今度の子はね、とってもかわいいわよ。きっと気に入ると思うけど……」
妻はうれしそうに言うのだが、ぼくには何のことかさっぱりわからない。しかし妻によれば、次の猫はたいへんな美形だという。そこでぼくは妻の言葉を鵜呑みにして、大いに期待したのである。ところが現われてみて驚いたことに、その猫の姿というのはまるで猿そっくりではないか! それも顔中髭だらけで、とても人前には出せないような醜悪さであった。おまけにこの猫ときたら、どんな餌を与えてもちっとも大きくならないばかりか、いつも腹を減らしてぶくぷくうなっている始末である。それで仕方なく近所の野良犬を捕まえてきて、これを与えてみると、たちまち元気を取り戻し、むしゃぶりつくようにして食べたあと、「もっとないか?」と催促するようにこちらを見つめている。仕方ないから今度はハムやソーセージを持ってくると、これも残さず平らげた。