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⚠️本編の前に注意して下さい⚠️
今作では時系列をやや遡るため、
リスカシーンと枕営業の、
R18物に該当する表現があります。
苦手な方はどうぞ引き返して下さい。
????視点
大森さんにTASUKUさんのことを任せたもののやはり心配で、
私は自分でも彼を探すことにした。
楽屋や空き部屋、
トイレなどをみて回るが、
どこにもいなかった。
(おかしいな)
他の場所も見て回ろうとした時だった。
非常階段から藤澤さんが出てきた。
何でそんなところにいるのだろうと、
不思議に思っていると、
階段前のドアを彼が押さえて、
中からさらにTASUKUさんのギターケースを抱えた若井さんと、
その両手に真っ白な顔でぐったりした、
TASUKUさんを抱き抱えたままの大森さんが出てきた。
「えっ!?」
大森さんが私の声に反応すると叫んだ。
「救急車呼んで!
早く!!」
「は、
はいっ!」
私はすぐに救急車の手配をした。
担架で彼が運ばれていき、
付き添いが必要のため、
大森さんが同乗して病院に緊急搬送された。
あの時ちゃんとーーーー言い寄っていた相手はTASUKUさんだけではなく、
大森さんのことも話題に上がっていたと、
話せる勇気があったらこんなことにはならなかったのだろうか。
それとも最初に小鳥遊社長から逃げてきた時に、
その場で追及した方が良かったのだろうか。
私の心はそんな後悔で支配されていた。
彼が搬送されて数時間後、
若井さんと藤澤さんの元に緊急手術で、
一命を取り留めたことが、
LINEのメッセージで報告される。
ただ出血量が多かったために、
まだ目を覚させる状態ではないらしい。
彼の容態で自責の念に駆られた私は、
思わず泣いてしまったが、
二人からの「誰のせいでもないよ」と気遣うような声掛けに、
また泣きそうになるのを堪えた。
(目を覚ましたらお見舞いに行こう)
彼は念のため3日間は、
容体の経過見守りや検査のために入院することになった。
入院2日目に目を覚ましたことを人伝に聞き、
私は会いにいくことにした。
しかし一人で会う勇気まではなかった。
そこで高校時代の後輩であるマネージャー伝いで、
大森さんに相談したところついてきてくれることになった。
そして病室の前まで来たのだが、
そこには何故か怒りの形相をした優里さんが待ち構えていた。
「何しに来た?」
「星崎の様子をーーー」
「その前に話がある」
私は珍しいと思った。
話をしている時に相手が言い終わる前に、
優里さんが遮ることは今までなかったからだ。
その姿はまるでTASUKUさんを守るみたいだった。
でも誰から?
何から守ろうとしているのだろう?
ガラガラッ
「びっくりしたけど、
たっくんが無事で良かった〜」
そのタイミングで病室から深瀬さんが出てきた。
あれ⋯この二人って、彼と何か接点なんてあったのだろうか。
彼は今や海外アーティストとして有名なため、
パパラッチ対策なのか、
プライベートや仕事の交友関係など、
TASUKUさんは個人的なことを一切公表していなかった。
だからこそ余計に関係性が見えない。
「あれで無事って言えるかよ。
不謹慎すぎるぞ」
結局私たちは中ぼ強引に、
優里さんと深瀬さんにから、
完全個室の飲食店に連れて行かれた。
そこで知った事実はあまりにも卑劣なものだった。
あの日彼は優里さんにLINEを通じて、
2本の音声データとメッセージを送っていた。
スマホを操作してまずは1本目を流す。
『やっと会えたね』
最初の言葉は小鳥遊社長だった。
あれ⋯やっと会えたってことは、
二人は知り合いなのだろうか?
社長に対してあまりの鼻息を荒さに、
ゾッとするものがあった。
ただ言い寄られているだけではないものを感じた。
まるで肉体関係をも迫られているような、
独特ないかがわしい空気感の会話をする二人。
『ご用件は?』
『君を愛人にするための誘いだよ』
え?
何を言っているの?
一方的に口説かれているわけじゃなく、
枕営業だったってこと?
全く意味がわからない。
どうして彼が性被害を受けなければならないのか。
私の中で考えがまとなりきらなかった
『その誘いに僕が乗るとでも?』
『きっと乗るはずだよ?』
そう言った後にガサガサと、
何かを取り出したようなノイズが入っていた。
映像がない音声データのみで、
詳細な状況がわからない。
何を見せたのだろうか。
それを説明するように、
彼が言葉を返した。
『盗撮ですか。
なかなかいいご趣味ですね』
盗撮という言葉に衝撃を受けた。
(嘘でしょ!?)
彼が受けた被害は枕営業だけではなかった。
盗撮までされていたのだ。
私はあまりの不快感に吐き気を催しそうなほどだった。
そしてーーー
『従う気になった?
あーそうそう⋯今日は大森くんも同じ現場らしいね』
『ーーーーっ!?』
チラッと大森さんの方を見ると、
驚きだけではない、
怒りや守れなかった歯痒さなどが滲む、
複雑な顔をしていた。
きっと私が感じているものよりもはるかに強い感情のように思えた。
それだけ彼を思っていることが、
その表情から読み取るのは容易かった。
自殺未遂を犯したのは、
決して楽になるためではなかった。
彼は自分の身ではなく、
大森さん身を守るために騒ぎを起こしたのだ。
音楽に関わらず芸能業界では、
問題が起これば必ず原因究明を求められる。
それを見越した上で先手を打ったのだろう。
守り方こそめちゃくちゃだが、
彼は一人でこの問題に立ち向かっていたのだ。
『星崎?』
『ぁ⋯⋯⋯』
そうだったんだ。
あの顔面蒼白と涙目は、
社長の仕業か。
誰にも頼れなくて辛かったはずなのに、
それでも彼は大森さんの盾になることを自ら望んだのだ。
自分の命を使ってでもーーーー
簡単に決断できることではなかっただろう。
彼がどんな思いでそうしたのか、
考えただけでも涙が止まらない。
女の勘でしかないが、
彼はまだ社長に囚われたままだと思った。
(私に何ができるかなんて分からないけど、
解放してあげたい)
それだけははっきりと感じた。
『お⋯⋯⋯⋯⋯る、か⋯⋯い⋯じょ⋯⋯ぶ⋯っ!』
あの時は何と言おうとしたのか全く分からなかった。
でも今ならわかる気がした。
あの時彼はきっと、
大森さんを守るから大丈夫。
そう伝えようとしていたのではないかとーーーー
『何があったの?』
『いや何も⋯久しぶりにあったから話をしていただけですよ』
やっぱり後から取ってつけたような、
あの白々しい態度は嘘だった。
彼は社長から逃げたのではなく、
自分から大森さんへ標的が変わることを恐れて、
無事かどうかを確認しにきていたのだ。
大森さんの身に何かあれば守るためにーーー
『ふ⋯⋯⋯ぅ⋯⋯⋯⋯く』
とても一人では抱えきれる問題ではないため、
苦しげな声が彼の口から溢れた。
泣きそうになっていたのは、
彼自身の心が折れかけていたから。
社長にただ怯えているだけの理由ではなかった。
『話すことは?』
『な⋯いで、
す』
『本人がそう言っている以上後にしてもらえませんか?』
大森さんが社長をいないして、
彼を引き剥がしたため、
その行動に社長も下手に食い下がることはしなかった。
まるで何事もなかったかのように、
きた道をそのまま引き返して行く。
『大丈夫?』
心配そうな声で藤澤さんが彼に声をかける。
『はい。
すいません、
巻き込んでしまって⋯』
そのあとファーストテイク撮影のために移動する足音が聞こえた。
『とりあえず録音には気づいていないみたい。
何かあったらまた録音再開する』
1本目の音声データはそこで終わっていた。
優里さんが続け様に2本目のデータを再生する。
『やっと二人きりだねぇ。
さっきは邪魔が入ったから!』
『邪魔?
何のことかわかりませんね』
またあの鼻息の荒さが聞こえた。
本当に気持ちが悪い。
その様子を見ていた大森さんが、
私を気遣って声をかけた。
「大丈夫?
辛いなら無理して聞かなくてもいいよ」
「いえ⋯私はちゃんと知りたいです」
スタッフ以外立ち入り禁止の備品庫は、
彼が逃げ込んだ非常階段と同じくらい薄暗い場所だった。
滅多に人が来ることはない、
その場所でどれほどの目に遭わされていたのだろう。
『僕は君のことを気に入っているんだよ。
分かるだろう?』
そう言いながら彼に詰め寄るように、
躙り寄っている気配が物音から感じ取れた。
本当に聞くに耐えない内容ばかりが続く。
『⋯⋯奇遇ですね。
僕もゲイです』
「⋯⋯ぇ」
その言葉に、大森さんが小さく反応した。
社長の気に入っているという言い回しに対して、
奇遇という返答をしたことよりも、
彼がゲイだとカミングアウトしたことへの驚きなのか、
私にはどちらに反応したのか分からなかった。
『でも⋯⋯あなたをいいと思うほど、
趣味は悪くありません』
はっきり毅然とした態度で、
枕営業を拒否する姿勢を見せた。
あの時の私は精々社長を追い出すくらいしかできなかったのに、
彼は真正面から堂々と戦っていて、
不謹慎にも格好いいと思ってしまった。
『何だと!?
君が拒否するなら大森くんがどうなってもーーーーー』
『⋯⋯⋯⋯んなよ』
彼が低く唸る。
『あの人に手を出してみろ!
死にたくなるほどお前を追い詰めてやる!!』
ドスンッ
その敵意を隠しきれない暴言と共に、
彼が思いっきり社長を突き飛ばした。
カシャーン
その勢いでポケットに忍ばせていたであろう、
カッターが投げ出される音が、
やけに反響して耳にこびりついた。
今考えればあんなものまで持っているなんて、
私があの場にいなかったら、
社長は彼をどうするつもりだったのか。
明らかに危害を加えてまで、
従わせるつもりだったと気づいた。
『何しているんですか!
ここはスタッフ以外は立ち入り禁止ですよ!?』
私の声に慌てふためきながら、
社長が飛ぶようにバタバタと忙しなく、
逃げ出していく足音がした。
その後で私は彼が怪我を負われていないか、
確認するために数歩歩み寄った。
しかし私に問い詰められると思ったのか、
彼は私の目を盗み、
一瞬でカッターを持ったままいきなり走り出した。
『あれ?』
私が知っているのはここまでだが、
まだ続きがあるようで、
音声は途切れていなかった。
『はぁ⋯はぁ⋯はっ!』
キイィッ
鈍い金属音が響いて、
おそらく彼が非常階段のドアを開けたのだろう。
乱れた息を整えながらギターケースを下ろす音、
床に座り込む音、
スマホのタップ音がする。
『突然すいません⋯優里さん。
この音声データを使って大森さんを守りたいんです。
僕はどうなっても構わないから、
お願い⋯⋯お願いします。
たとえ僕が消えちゃっても、
大森さんの盾になってあげてください』
それは悲痛の叫びに聞こえた。
ここまで自己犠牲になって、
ボロボロになりながらも、
まだ誰かを守るために動ける人なんて、
そうはいない。
それだけ大事な人なのだろうと伺えた。
カチカチカチッ
カッターの刃を伸ばす音が不気味に反響した。
『ーーーいぃっ!!!』
私は思った。
大切な人を守るって何だろう?
一人で抱え込んで隠されるのはもちろん嫌だ。
でも彼は優しさが故にそうした。
その人を思っているからこそ、
巻き込まないでいられる方法を考えた。
それはその人に気持ちがなければできないこと。
あったからできた。
あったから彼は「逃げずに戦う」という選択をした。
守り方は人それぞれだと思う。
だからこそ彼の守り方を私は非難できなかった。
『優里さん、
ごめんなさい』
2本目の音声はそこで途切れて、
その後のメッセージは『馬鹿な後輩を許してください』と打たれていた。
「勿論さ⋯お前のせいじゃないってのはわかるよ。
けどこんなことになる前にどうして防げなかった?
話聞いたらあの日同じ現場にいたんだろ?」
確かに何も彼の変化に気づけなかったわけではない。
でも誰かを攻撃しないと怒りが収まらない、
優里さんの優しさも理解できた。
大森さんの様子を伺うが、
項垂れるだけで表情が見えない。
それどころか一言も喋ろうとしなかった。
爪が食い込みそうなほど、
強く握りしめた手が僅かに震えていた。
大森さんが声を絞り出すように叫ぶ。
「⋯⋯⋯⋯⋯だって、
俺だって守ってやりたかったさ!!」
自分の知らないところで、
守られていることを知った大森さんにも、
大森さんなりの苦しみが声に滲んでいた。
やっぱり誰かを守るって難しい。
守られた側もこんなに苦しめてしまうのだから。
雫騎の雑談コーナー
はい!
いかがっすか?
着地点が迷子になり長々と引っ張ってきましたが、
星崎の『保険』とはパパラッチ対策でしている、
カバンや上着のポケットなどにICレコーダーを忍び込ませて、
記録した録音データのことだったんですね。
人からの敵意には人一倍敏感な彼だからこその作戦ですな。
それでは本編です。
自殺未遂を犯した星崎は自分が死ぬことよりも、
大森さんが性被害に遭わないように、
あえて『守る』ために起こした騒動だったんですよ。
ここではね大切な人をどう守るか?
守るためには何ができるのか?
っていうことで、
守るとは何ぞやがテーマとなっております。
次回はまったりしますわ。
立て続きに何やらかんやら起こしすぎて、
俺自身がネタ切れだから。
こっから(正確には第35話くらいの予定)反撃モードで、
物語を展開していきますね。
リゼラル社の現社長を社会的に抹殺
する予定で書いてますんで、
どうぞお楽しみに。
ではでは〜