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四月の風は、まだ少し冷たくて。
だが、都内にある全寮制男子校の門をくぐった仁人の胸は、不思議と晴れやかだった。中学からの親友・佐野勇斗と共に進学したこの学校は、設備も新しく、寮も整っていて、何より男子校特有の開放感があった。
「仁人、荷物はそれで全部? 一応、あとで寮母さんに確認しにいくけど」
「うん、大丈夫。勇斗は…こっちじゃなくて、特進の寮棟だよね」
「そ。ちょっと離れてるけど、どうせまた俺の部屋来るでしょ? 」
「……うん」
そうして軽く笑い合うふたり。仁人にとって勇斗は、心から信頼できる数少ない存在だった。
ただ、彼の心の奥には、もう一つ、昔の記憶がしまわれていた。
──あれは、小学校に上がるか上がらないかの頃。
夏休みになるたび、和歌山の親戚の家に預けられていた仁人は、毎年そこで出会う同い年の男の子と遊んでいた。
──「じんちゃん! こっちこっちー!」
──「まってよ、だいちゃん!」
金色に焼けた畑、虫取り網、川遊び、アイスの当たり棒。
日が暮れるまで走り回った毎日。親戚の家の裏庭で星を見ながら、どちらからともなく口にした言葉が、今でも心の奥に残っている。
「じんちゃん、ぼくのことすき ?」
「……うん、すき。おおきくなったら、だいちゃんとけっこんしたい」
「じゃあやくそくやで? おっきくなったら、けっこんしよな」
──指切りげんまん。
ふたりとも、本気だった。
けれど数年後、親の都合でその親戚との付き合いが薄れ、仁人は和歌山を訪れることもなくなった。
あれは夢だったんじゃないか。そう思うほどに、淡く、でも愛おしい思い出。
あの頃、太智──いや、“だいちゃん”は、仁人を完全に女の子と思っていた。艶やかな髪も長く、声も高かった仁人は、見た目だけなら確かに“女の子”そのものだった。
だからこそ、仁人は“思い出”にしてきた。
…けれど、再会は、あまりにも突然だった。
結構長くなる気がしてきました。
やわしゅん出そうと思うんですけど、どこで出そうかまだ迷ってるんですよね〜。