「あれ~? 水の中からご主人様の顔が見えますです」
「水の中から? どういうことなのかな……やっぱり溺れたとか?」
「それならわたしが水の中に行きますです!!」
「ルティちゃん、落ち着いて! もう一度冷静に覗いてみてくれる?」
「分かりましたっ!」
湖底から地上に上がるにはどうしても水かきをする必要がある。カエルであるラーナは、おれを都合よく地上へ戻してはくれないらしい。
「外に行け。外で再生終わる、すぐ終わる」
忘れ去られた湖とされる所から外に出るのは構わない。だが、この子は果たしてルティたちと上手くやってくれるだろうか。
――とはいえ、もうすぐ湖面だ。
地上に浮き上がるのはいいが、どう見ても赤い髪をなびかせたルティの顔が見えている。何度も首を傾げているところを見れば泳ぐのをためらっていると見るべきか。そう考えれば、ここは急いで行かなければならない。
「はわぁっ――!? アック様がどんどんどん近付いて来ます!!」
「そ、それなら、ルティちゃんはそのまま待っていればいいんじゃないかな?」
「アック様を正面から受け止める……!」
湖底からどれくらいの距離があったのかなんて今さらのことだ。そんなラーナを後ろにつかせながら、ようやく地上に出られる。
そう思っていたが――
「あ、アック様――はぎゃぁっ!?」
地上に浮かぶと同時に何かに衝突していた。まさかと思ったが、ずっと顔をのぞかせていたのだろうか。
「な、何っ――!?」
溺れることなく地上に上がって来られたはずだった。それがまさかルティと衝突しただけで魔法が解けることになろうとは。
「わっぷ、わぷぷ!! はひぃぃぃ~」
「よせ、落ち着け! しがみつくな!!」
「アック様、アック様っ……!!」
「と、とにかく上がるぞ。暴れるなよ?」
「はいい~……」
せっかく全身を濡らさずに外に出られたのに、ルティと共にずぶ濡れになってしまった。
「アックさん、ご無事だったのですね! あれ、でも後ろにいる子は?」
「湖底で出会ったカエルの女の子だ。テイムしてるから、心配ないぞ」
「え、カエル? そ、それと……アックさん。下着姿で何を――?」
「腰衣をその子に預けているんだ。別に何がどうなったとかじゃないから」
(駄目だ、完全に不審がられている)
「……回復は必要ですか?」
「何もされてないから大丈夫。アクセリナはルティを介抱してやってくれ」
「そ、そうですね」
やはり下衣の状態に気付かれてしまった。それだけにいい加減トラウザーを返して欲しいところだ。
すると――
「”再生トラウザー”出来た。返す。アックに返す」
(ようやく返してくれた。感触からして確かに再生された感じがする)
トラウザーに触れると僅かながら魔力を感じる。素材が何なのかまでは不明だが、漆黒の獣の皮をなめしたような感触だ。
【EXレア アクアトラウザー 海獣の守り Lv.820】
アーマーやガントレットも”忘れ去られた”ものになるがそういうことか?
劣化ガチャだとばかり思っていたが特別な装備だったな。
「ところで、ラーナ。キミの他にも仲間がいるのか?」
「……仲間いない、いない。アックと水、再生された。ラーナの力、貸す」
「仲間がいない……か。名称は同じでも場所も属性も異なるって意味なのか」
力を貸すと言われたが、おれはすでに一通りの属性魔法を使うことが出来る。それもスキュラのように水属性に特化した魔法とは別の力だ。もしかすれば次第に自分だけの力で敵となる存在をどうにか出来るかもしれない。
「人間! ここにいる!! 人間、数多い!」
「――え?」
慌てる様子の無いラーナは淡々と言葉を発している。ルティたちからは何の声も上がっていないが、砦の連中に気付かれない所にいるようだ。
「……、飛んでくる」
「ちっ、矢か!? ラーナは下がれ! ここはおれだけで十分だ」
「……ラーナは、盾、盾」
「それなら、おれの仲間である彼女たちの盾となれ!」
一度見ていて理解したのか、ラーナはどこかに隠れている彼女たちの元に向かってくれた。予想以上に砦の冒険者連中は好戦的のようだ。
おれがいる場所は湖の他に数えられるほどしかない細い木が並ぶ。頭上を気にすると、水平に走る飛来した矢が何本も木に向かって突き刺さっている。どうやらこちらの出方に関係なく攻撃をしてくるようだ。初めは冒険者の抵抗かと思われたが、賊と化している可能性がある。
それなら――
「おれは冒険者のアックだ! 遠隔攻撃で毒矢を放ち続けるなら容赦なく反撃する!!」
声を荒らげるしかない。
「一介の冒険者が何用でここを通るつもりだ? 我らがSSランクと知っての反抗か?」
SSランクというとSランクパーティーだった勇者よりも上か?
この辺りの魔物が強いということは、ランクが上の冒険者がいても不思議じゃない。そんなランクの奴が襲って来るなんて、一体どこの国の連中なのだろうか。
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