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第23話 「最後の大会」
六月。
全国大会は消えた。
だが、高野連は各都道府県で独自大会を行う方針を発表した。
福岡でも、“夏季県高校野球大会”の開催が決まる。
甲子園には繋がらない。
優勝しても全国はない。
それでも――
三年生にとって、最後の大会だった。
部室。
発表を聞いた瞬間。
静かだった空気が少しだけ変わる。
「試合……できるんですね」
一年生が呟く。
三年生たちは、言葉が出なかった。
小早川啓介は、ゆっくり息を吐く。
“最後の夏”が戻ってきた。
完全な形ではない。
でも、終わりではなかった。
福間監督が前に立つ。
「甲子園はない」
誰も目を逸らさない。
「でも、お前らの三年間まで消えたわけやない」
静かな声。
「最後までやり切れ」
その言葉に、部員たちの表情が変わる。
翌日から。
柳城高校野球部は再び動き出した。
ノック。
打撃練習。
ケース確認。
止まっていた時間を取り戻すように、全員が白球を追う。
小早川の声も、以前より大きくなっていた。
「もう一本!」
「集中切らすな!」
一年生たちが驚く。
以前の小早川は、自分のことで精一杯だった。
だが今は違う。
チーム全体を見ている。
練習後。
福間監督がブルペンへ来る。
しばらく黙って小早川のキャッチングを見る。
――ズバン!!
ミットの音。
「小早川」
「はい!」
「キャプテンらしくなったな」
小早川が少し驚く。
今年。
正式に主将になっていた。
「……まだ全然です」
福間監督は小さく笑う。
「そのくらいでええ」
夕方。
部室前。
舞がユニフォームを整理していた。
「お兄ちゃん、最近ちゃんと寝てる?」
「寝てる寝てる」
「絶対嘘」
舞は呆れたように笑う。
その時。
校門の前に、一台の車が止まる。
降りてきたのは、理事長・立花修造だった。
柳城高校OB。
そして、福間監督を母校へ呼び戻した人物。
グラウンドを静かに見渡す。
「強くなったな……」
隣に立つ福間監督が答える。
「まだです」
立花理事長は笑った。
「お前は昔から厳しかな」
グラウンドでは、小早川たちが最後までノックを受けていた。
泥だらけになりながら。
声を切らさず。
立花理事長は、その姿をじっと見つめる。
「今年なら、本当に行けたかもしれんな」
少しの沈黙。
福間監督は静かに言った。
「だからこそ、最後までやらせます」
夕陽が、水郷の町を赤く染める。
甲子園はない。
だが――
柳城高校野球部の夏は、まだ終わっていなかった。
第23話 終
#高校生