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「このまま、今まで通りの四人で居るって駄目? 今日だって凄く楽しかったよ。このまま、今まで通り四人で楽しく過ごそうよ。きっと幸せだよ」
はっきりとは言わなかったが、明菜は拓馬に告白した。今まで通りだと拓馬と明菜の関係は恋人同士になる。それを続けると言う事は偽装の恋人から本当の恋人になろうと言う意味なのだ。拓馬も明菜の気持ちに薄々気付いていた。だが、彩への気持ちがある限り、それを受け止める訳にもいかず、気付かない振りをしていた。
「明菜は勘違いしているよ」
「勘違いって?」
「高校生に見えても俺の中身は二十四歳の大人なんだ。大人の男の余裕で頼もしく見えているだけで、明菜がもっと大人になれば、気持ちも醒めるよ」
「それは違う」
明菜はハッキリと否定した。
「拓馬君は高校生だったら、女の子を夜道に一人で帰すの? 一人の人を心から愛する事が出来なくなるの? 私は大人なんかじゃなくても拓馬君が好き。気持ちがすぐ顔に出るところなんて可愛くすら思うわ」
真っ直ぐな気持ちで自分を想ってくれる明菜を拓馬は愛おしいと感じた。
「未来の私は幸せ? って聞いた時に、拓馬君は言葉に詰まったでしょ? 幸せには見えなかったんだよね?」
拓馬は明菜の問い掛けに肯定も否定もせず、無言で応えた。
「その理由が私にはわかる。きっと拓馬君の事が好きだったのよ。また親友の彼氏に恋をして、打ち明けられない気持ちに苦しんでいたんだよ」
明菜は自分の考えに自信を持っていた。
「明菜……」
「最近、彩と和也君を見ていても辛くなくなった。それより四人でいる時が楽しいから……」
明菜は一生懸命に自分の気持ちを伝えようと、拓馬の目を真っすぐに見ている。
「夜、布団の中で考えるの。このまま四人で大人になって、結婚して隣に住んで、子供も生まれて……子供はうちが男の子で彩達が女の子。同級生で幼馴染。その男の子は拓馬君に似て女の子に優しいの。いつも彩の子供を守ってあげるの。そんな事考えてるだけで幸せで……笑っちゃうよね、頭がお花畑みたいで……」
拓馬はそんな事は無いと言うように無言で首を振る。
「でも、そんな幸せな妄想してると気が付くの。私は拓馬君の『彼女』じゃない。『偽りの彼女』なんだって。拓馬君が見ているのは彩なんだって……私じゃ駄目? 彩の代わりにはなれない?」
明菜は今まで抑えていた想いの全てを拓馬にぶつける。
「代わりなんて事は絶対にない。明菜は素晴らしい女の子だ。付き合うとなれば、俺はきっと恋をして夢中になるよ。……でも、俺の中にある彩と過ごした三年間の記憶は無くならない。この先明菜をどんなに好きになったとしても、同率一位にしかしてあげられないんだ……」
拓馬も誤魔化さずに、明菜の想いを正面から受け止めた。
「私はそれでも拓馬君が好き……」
明菜の瞳には迷いが無かった。
「……わかった。俺もちゃんと考える。でも、今は待ってくれ、明後日の和也を救う事に専念しなきゃ」
拓馬は真剣な目をしている明菜に、いい加減な返事はしたくなかった。考える時間が必要だった。
「……そうだね……」
望む答えを聞けなくて、明菜は肩を落とす。
「明後日までには未来の事を和也にも言う。そして、花火大会には行かないようにさせる。それが済んだら返事をするよ」
「うん、分かったよ」
仙崎ひとみ/九龍
紙吹みつ葉
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明菜は頑張って微笑んだ。明らかに拒絶されたのではない。希望は残っているんだと自分に言い聞かせて。
懸命に笑う明菜を拓馬はいじらしく思う。
――このまま抱き締めれば良いんじゃないか。
でも、寸前のところで拓馬は手が出せなかった。
――高校生の彩に対しては諦めもついたし、吹っ切れた。でも、俺の心の中にはどうしても消せない大人の彩がいる。大切な人を心に残したまま、明菜と付き合っても良いのだろうか? タイムスリップ前の俺と同じ思いを明菜にさせてしまうんじゃないだろうか。
拓馬達が観覧車を降りると、彩と和也が待っていた。彩はぎこちないながらも笑顔で、雰囲気を壊さないように気を遣っている。みんなの気持ちを考えて、拓馬も出来るだけ明るく振る舞った。
帰りの電車の中は、行きと違い会話が弾まなかった。原因は自分にあると拓馬は罪悪感を覚えた。駅からはいつものように自転車で明菜を家まで送って行く。
「今日も送ってくれてありがとう」
いつもの明菜のお礼の言葉なのに、今日は甘い響きを拓馬は感じた。拓馬に告白して以降、明菜は感情を押し殺す事が出来なくなっていた。
「じゃあ、必ず和也は花火大会に行かないように説得する。また、連絡するよ」
「うん、わかった」
潤む瞳で見つめる明菜に、拓馬は素っ気ない態度でサヨナラする。自分の気持ちが決まらない内に無用の期待を持たせるのはいけないと思ったのだ。