テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
仙崎ひとみ/九龍
紙吹みつ葉
4
643
拓馬が自宅に帰ると、待ち構えていたように携帯が鳴った。和也からの電話だ。
「もしもし、どうした? 何か忘れ物か?」
「悪いけど、話があるから今から会えないか?」
時間は午後九時前。遅いと言えば遅いが、門限がある訳じゃないので問題は無い。むしろ拓馬の方こそ和也に話があるので好都合だと思った。
「ああ、大丈夫だよ」
「じゃあ、今からそっちに行くよ。着いたら連絡する」
「ああ、分かった」
しばらくして、和也から拓馬に連絡が入り、団地下の公園で待ち合わせた。夜の公園は遊具で遊ぶ者も無く、ひっそりとしている。二人は公園の隅にあるベンチに並んで座った。
「あれからまだ家に帰ってないのか?」
「ああ、彩を家まで送って話をしていたから」
「そうか……」
「遊園地でなにがあったんだ? 彩に聞いても話してくれないし、その割に心の中でずっと引きずっているみたいなんだ」
拓馬も予想はしていたが、やはり和也の要件は遊園地の話だった。彩があれだけ拒絶反応を起こしたので、拓馬からは話題を蒸し返すのは気が引けたが、和也から話を聞いてくれたのは渡りに舟だった。
「彩には冗談だって言ったけど、これから話す事は本当なんだ。和也もそう言う心づもりで聞いてくれるか?」
拓馬の顔が真剣なので、和也も本気だと思い、黙って頷いた。
拓馬は彩の時以上に気を遣いながら丁寧に話をした。出来るだけ誤解を与えないように、和也の質問にも答えながら説明した。
「……そうか、俺は明後日に死んじゃうんだ」
和也は笑って良いのか悲しんで良いのか分からず、半笑いを浮かべた。
「おい、冗談じゃ無いんだぞ。何もしなけりゃ本当に死ぬんだぞ」
余りにも和也から危機感が伝わってこないので、拓馬は脅すような口調で念押しした。
「ごめん。頭ではわかっているつもりなんだが、気持ちが付いて行かない。一つ確認したいんだが、俺が死ぬのは『花火大会の日』なのか? それとも『花火大会の会場』なのか? どちらか分かるか?」
「悪い、『花火大会の日』だけしか分からない」
「もし『花火大会の日』だったとしたら、会場に行かなくても事故に遭うかもしれないよね」
「うん、そうだな」
「うーん」
和也はなにか考え込んだ。
「俺、やっぱり明後日は花火大会に行くよ」
「どうしてだ? 『花火大会の日』だったとしても、会場で事故に遭う確率は高いんだぞ」
「うん、それは分かってるよ。でも、彩を助けて俺が死んだって事が気になるんだ。もし、彩が危険な目に遭う事が運命だったとしたら、何か違う事すると、俺じゃなくて彩が死んでしまうかもしれないだろ」
和也は感情的になっている訳じゃなく、冷静にそう言った。
「花火大会に行けば、悪くても俺が死んで彩は無事なんだろ? だったら俺は行くよ」
「いや、お前が死んだら、彩も深く傷付くんだぞ」
「でも、それを拓馬が癒してくれたんだよね」
「あ、いやそうだけれども……」
「明菜と付き合っているのが、フェイクなら、俺が死んだ後の彩の事は拓馬に任せるよ。お前の居た世界と同じように幸せにしてあげて欲しい」
和也は他人の話をしているかのように、淡々と話している。
「駄目だ、お前を死なせる訳にはいかない」
「俺が彩の中に思い出となって残るのは嫌か?」
「そんな事言っているんじゃない。俺は友達としてお前を死なせたくないんだ」
拓馬は今、心からそう思っていた。
「ありがとう。拓馬がそんな奴だから、安心して彩の事を任せられるんだ」
感情的になった拓馬の肩を、和也が笑顔でポンと叩く。
「お前の気持ちはどうなんだよ。死んだらもう彩とは一緒に過ごせないんだぞ」
「……彩はさ、本当に真っ直ぐな女の子なんだよ。人間不信になっていた俺だけど、明菜を助ける為に頑張っている姿を見て、この娘は絶対に信じられると確信出来たんだ。その後も彩は思った通りの娘だった。一目惚れした女の子は何ものにも代えがたい女(ひと)だったんだ。彩が幸せになれるなら、俺は命も惜しくない」
「お前……」
迷いがない和也の目を見て、拓馬は言葉が出ない。
――こいつは本気で、彩が死ぬくらいなら自分の命を差し出すつもりなのか……。
「……わかった。花火大会には行こう。でも、俺はお前の頼みを聞くつもりは無いからな」
拓馬は和也の気持ちを変える事は難しいと考え、花火大会に行く事にした。
「俺から絶対に離れるな。お前は死なない。俺が守る」
拓馬の言葉を聞き、和也はクスッと笑う。
「男に言われてもあまり嬉しくないな」
「冗談で言っているんじゃ無いんだからな」
「ああ、本当に頼むよ」
こうして、拓馬は和也の花火大会参加を諦めさせる事が出来なかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!