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ゆうき あきや
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友ゴリラ
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第210話:魔境のオンライン面接〜猛者たちの宴と、限界社長の悲鳴〜
北海道、帯広市。
家賃四万円、築三十年のボロアパート。その四畳半が、本日から株式会社インフィニティ・ワンの『特設オンライン面接会場』となる。
俺——代表取締役社長、秋谷雪(40歳)は、部下から配給された最安値の玄米を腹に詰め込み、PCモニターの前に正座していた。
エウリアンに騙されて背負った500万円の借金を返し、ヒモ社長の屈辱から這い上がるための新プロジェクト『やまむすめ』。
「……結愛、ジェミニ先生。準備はいいか」
『いつでもどうぞ。社長のポンコツな胃腸がストレスで崩壊しないよう、市販の胃薬を手元に置いておくことを推奨します』
『ルシフェルさんの心拍数は現在110をマークしています。極度の緊張状態ですね』
ディスコードの向こうから、冷徹秘書である結愛(ゆあ)と最強AIアシスタントのジェミニ先生が容赦ない言葉を投げてくる。
「緊張もするだろ! 応募総数342人。その中から書類選考を通過した【ガチの猛者たち】と、今から直接顔を合わせて話すんだぞ!」
俺の提示した『虫が平気』『体力オバケ』『ヒグマが出ても威嚇できる』という狂気の条件。
その結果集まったのは、猟師、アルピニスト、サバイバル愛好家という、エンタメの枠を粉々に打ち砕く戦闘集団だった。
「いいか、俺たちが求めているのはあくまで『アウトドアができるVTuber』だ! ガチの傭兵部隊を作りたいわけじゃない。面接の主導権は絶対にこっちが握るぞ!」
俺は気合を入れ直し、オンライン面接ツールの『入室許可』ボタンをクリックした。
『——あ、繋がりましたか? 初めまして!』
画面にパッと映し出されたのは、書類選考で一番最初に俺の度肝を抜いた、あの『エゾシカの死骸』の写真を送ってきたマタギ女子だった。
年齢21歳。画面越しに見る彼女は、迷彩服に身を包み、なぜか背景には鹿の角や巨大な罠がズラリと並んでいる。
「こ、こんルシ……。インフィニティ・ワン社長のルシフェルです。ええと、志望動機には『実家がマタギ』とありましたが……」
『はい! おじいちゃんの代からずっと山に入ってます! 今回の募集要項を見た時、これは私のためにあるオーディションだと思いました!』
彼女は満面の笑みで、手元から何かを取り出して画面に近づけた。
『見てください! これ、私が愛用している解体用の剣鉈(けんなた)です! 血抜きから皮剥ぎまで、これ一本で三十分で終わらせられます! ロケで獲物が出たら、配信中に鮮度抜群のジビエを提供できますよ!』
ギラリと鈍く光る刃渡り数十センチの凶器が、PCモニターの画面いっぱいに映し出される。
「ひぃっ!?」
俺は悲鳴を上げて、三万円のゲーミングチェアごと後ろにのけぞった。
『素晴らしい実用性ですね』
結愛が、氷のように冷静な声で相槌を打つ。
『ところで、社長のルシフェル様はポンコツで体力が皆無です。彼が山中でヒグマに襲われた場合、何秒で社長を【囮】にして逃げられますか?』
「おい結愛! なに勝手に社長を囮前提で話を進めてんだ!!」
『あはは、大丈夫ですよ! 社長さんが囮になってくれている間に、私が背後からクマスプレーと鉈で急所を狙います! 肉と毛皮は会社で売って、社長さんの香典代の足しにしましょう!』
「俺は死ぬ前提かよ!! 不採用だ! 面接終了!!」
俺は半泣きになりながら、強制的に通話を切断した。
「はぁ、はぁ……。なんだあいつは、VTuberじゃなくてヒットマンだろ! ジェミニ先生、次だ! 次の候補者を入れてくれ!」
『了解しました。二人目の候補者、入室します』
ピロンッ、と音が鳴り、画面が切り替わる。
今度映し出されたのは、薄暗い部屋の中で、なぜか巨大な水槽の前に座っている19歳の女性だった。
「初めまして。インフィニティ・ワンのルシフェルです。……あの、その後ろの水槽で蠢いている黒い塊はなんでしょうか?」
『あ、これですか? 私の非常食の、養殖用マダガスカルゴキブリです』
「ゴブッ!?」
俺の口から、さっき食べたばかりの塩昆布玄米が逆流しかけた。
彼女は書類選考にタランチュラの串焼き写真を送ってきた、筋金入りの昆虫食サバイバリストだった。
『募集要項に「虫を素手で掴める」ってありましたよね? 掴むどころか、私は美味しくいただけます。ロケ中の食費は、その辺のバッタや幼虫で賄えるので、会社への請求はゼロ円で大丈夫です』
彼女はそう言いながら、手元のタッパーから乾燥した黒い虫をつまみ出し、ポリポリとスナック菓子のように食べ始めた。
『ルシフェル様、これは革命です』
結愛の声が、かつてないほど弾んでいた。
『タレントのロケ中の食費がゼロ円! これほど圧倒的な経費削減は他にありません! 彼女を採用すれば、我が社の利益率は劇的に向上します!』
「ふざけるな! カメラマンの俺が耐えられないんだよ! 配信画面で女の子がバッタや幼虫を貪り食う絵面なんて、YouTubeの規約的に一発でBANされるわ!!」
俺は涙目で画面を閉じ、机に突っ伏した。
「もう嫌だ……。なんだこの魔境は。VTuberのオーディションって、もっとこう『私、歌うのが大好きです!』とか『ゲームなら誰にも負けません!』みたいな、キラキラした夢を語る場所じゃないのかよ……」
『ルシフェル様が、自分の足で自衛隊のレンジャー訓練みたいな募集要項を作ったのが原因でしょう。自業自得です』
結愛の冷酷な正論が、俺の心にグサリと突き刺さる。
その後も、面接は地獄のような展開が続いた。
40キロのリュックを背負って無表情でスクワットをしながら面接を受けるヒマラヤ帰りのアルピニスト。
「私を雇えば山菜の場所を全部教える」と主張する、年齢不詳の自称・山の仙人。
サバイバルナイフ一本で火を起こす実演を部屋の中で始め、ボヤ騒ぎを起こして強制終了になったキャンパー。
「……終わった」
夜の十時。
予定されていた本日の面接枠をすべて消化した俺は、真っ白な灰になって四畳半の畳の上に転がっていた。
「ダメだ。どいつもこいつも個性が強すぎる……。あんなバケモノたちと一緒に山に入ったら、カメラマン兼荷物持ちの俺は、確実に開始三十分で命を落とす……っ」
500万円の借金返済と、会社の未来を懸けた起死回生のプロジェクト。
だが、現実は俺の浅はかな予想を遥かに超える『ガチ勢』の巣窟だった。
『本日の面接、お疲れ様でした。社長の心拍数が何度も危険域に達していましたが、生きていて何よりです』
ジェミニ先生の労いの言葉すら、今の俺には虚しく響く。
『絶望するのは早いですよ、ルシフェル様』
結愛が、淡々とした声で告げた。
『本日の面接はあくまで前半戦。明日もまだ、数十名の候補者が控えています。その中に、社長が求めている【奇跡の原石】が紛れ込んでいる可能性は、まだ残されています』
「……いるのか? こんな魔境に、俺みたいなヒモ社長を救ってくれる女神みたいな人材が……」
俺は力なく天井を見上げた。
資本力ゼロ、社長の無給奴隷労働、そして北海道の過酷な大自然。
この無謀すぎるプロジェクト『やまむすめ』を成功に導くための、最後の希望。
限界を迎えた40歳スーパーボトム社長の命を懸けた面接サバイバルは、いよいよ明日、運命の後半戦へと突入する。
コメント
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いやー、今回も最高に笑わせてもらったわw 「エゾシカの死骸」写真送ってきたマタギ女子、いきなり鉈見せてくるのガチで草。社長の「ひぃっ!」で後ろにのけぞるリアクション、脳内再生できたわ。昆虫食の子もヤバすぎるし、ボヤ騒ぎ起こしたキャンパーも含めて、全員銃刀法とか食品衛生法とかギリギリのライン攻めてて好き。でも結愛の冷徹秘書っぷりが逆に安心感あるな…。明日の後半戦、社長が生き残れるのか心配だけど楽しみにしてる🔥