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白山小梅
12
#借金
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* * * *
約束通り、連絡先を交換してから部屋を出ようとしたが、昴は何度も『部屋まで一緒に行く』と言い張った。
「昴くんが来たら、言い訳のしようがないから来なくていいよ」
「いいじゃん。逆に安心出来る男の証明にならない?」
「再会してすぐに手を出す男が、安心出来る男とは誰も思わないでしょ」
不服そうだが、ようやく引き下がった昴に笑顔を向けると、
「これからは友だちだから、いつでも連絡とれるよ」
と昴のスマホを指差した。
「まぁ、それもそうか」
「でしょ?」
「七香、次に帰国した時はさ、一緒にパフェでも食べに行こう」
「いいねぇ。その時までに美味しいお店をリサーチしておく」
手を振って彼の部屋を後にする。そして到着したエレベーターに乗ると、三階のボタンを押した。
壁に寄りかかって目を伏せると、昨夜の昴に与えられた記憶が鮮明に蘇ってきた。痛くなるほど舌で刺激をされ続けた胸の尖端、奥深くまで突き上げられた秘部、舌が絡み合ったキスーー思い出すだけで体の奥がキュンと締め付けられる。
部屋を出る直前まで激しく抱き合った体は、今も|火照《ほて》ったままだった。
エレベーターが三階に到着し、ドアが開いて出ようとした七香は、目の前に立つ人物を見てゴクッと唾を飲み込んだ。
「えっ……島波? なんで五階から降りてきたんだ?」
松倉が驚いたようにこちらを見ている。しかし七香は、
「これからお風呂? いってらっしゃい」
とだけ声をかけると、エレベーターから降りた。
背後でドアが閉まる音がする。
きっと不審に思っただろう。もしかしたら気付かれたかもしれない。でも七香はむしろ気持ちがスッキリしていた。自分の気持ちがようやくわかった今、その気持ちに正直になってもいいように思たのだ。そうすれば松倉も自分自身も、前に進める気がした。
なるべく音を立てないように廊下を進み、部屋の鍵も静かに開けて中に入る。
皆はまだ寝ているだろうかーー寝ていてほしいと思いながら襖を開けると、七香の思いとは裏腹に、三人は布団に寝転んだままこちらを見ていた。
「あら、おかえりー」
翔子がニヤニヤ笑いながら手招きをしたので、七香は諦めたようにため息をつくと、彼女たちの元へ歩いていく。
「た、ただいま……」
布団の上に腰を下ろした途端、
「七香、首のところにキスマークがあるよ」
と羅南に言われ、慌てて首元を両手で隠す。
「と思ったらホクロだった。っていうか、そんな反応しちゃうとバレバレなんだけど!」
「えっ、もしかして嘘⁈」
「七香が朝帰りなんかするからでしょ。心配したんだよー」
「っていうか、今の反応ではっきりしたけど」
楓の言葉は嘘ではないだろう。七香は三人に頭を下げた。
「……ちゃんと連絡すれば良かった。ごめんね」
「いやいや、情事の間に連絡は無理だよ。それより、あの恋愛がわからないって言ってた七香をその気にさせるなんて、一体何者?」
「でもさ、昔七香をフった男なわけでしょ? 今更何って感じなんだけど。よく七香も受け入れたよね」
「まさか無理矢理押し倒されだりしてない⁈」
「それはないから大丈夫。ちゃんと自分の意思で決めたことだから」
三人が七香を心配してくれていることがひしひしと伝わってきたが、このままでは昴が悪者になってしまう。それだけは避けなければーー。
「本当に?」
「本当だよ。その……彼も私に確認しながら進めてくれたし。それにたぶん……私は今も彼のことが忘れられなくて……未だにあの時の想いを引きずってるんだと思う」
口にすれば、さらにその想いに確信が持てた。
「やっぱりねぇ、なんかそんな気がしてた」
「そうなの?」
「だって一度だって好きになった人がいたんだから、人を好きになれないってことはないと思うんだよね。だから相当トラウマになることがあったのか、逆に今もその人が好きなのかのどっちかな気がしてた」
「で、後者だったわけだ」
なんでもお見通しの友人たちに何も言えずに、苦笑いを浮かべた。
「でも……その人って好きな人がいたんだよね。もうその恋は終わってたの?」
「ううん、まだ続いてた」
楓がはっとして口にした言葉に、七香は少し躊躇いながらも答える。その途端、三人の表情が険しくなった。
「えっ、それってクズじゃん! 好きな女がいるのに、七香とも関係を持ったわけ? 絶対にやめておいた方がいいって!」
「うん、わかってるよ。だからこれっきりにするつもり」
「それは……諦めるってこと?」
そんなことは、とうの昔に諦めている。彼の心はいつまで経っても早紀さんのもので、手に入らないことはわかっていた。
「うーん、そうじゃなくて……友だちになろうと思って」
「まさか、セフレーー」
「違う。そういう関係じゃない、ただの友だち。再会して思ったの。彼女との関係で、本人に自覚は無いみたいだけど、少なからず傷付いている気がしたんだよね。だから……彼の心を満たしてあげることはできないけど、応援したり気を紛らわせてあげたりは出来るかなって」
このことこそが、七香が心に誓ったことだった。何があっても彼のことを近くで支えたいと思ったのだ。
「七香、すごく好きなんだね、その人のこと」
「かもねぇ。まぁ短時間でこんなに私の心を惹きつけた人、彼しかいないし」
「七香はそれでいいの?」
「うん、それがいいの」
満面の笑みで答えた七香を見て、三人も笑顔で頷いた。
「あーあ、これは重症だわ」
「まぁでも七香がそれでいいなら、いいんじゃない?」
「それもそうだね」
その時、先ほどのエレベーターでの出来事を思い出す。
「あっ、でもさっきエレベーターで降りてくる時に、松倉に出くわしちゃった。完全に怪しまれたよねぇ」
困ったように呟いたが、皆は口をあんぐりと開けてから頭を抱えた。
「うわっ、松倉に同情するわー」
「でもこれで完全に脈なしだってわかって良かったんじゃない?」
「松倉、失恋確定か。可哀想に」
「まぁ私たちは七香の味方だからさ。何かあったら言いなよ」
「うん、ありがとう」
朝食の時に松倉に会うと、視線を逸らされた。あぁ、やっぱりバレてたんだーー申し訳ないと思いつつ、これで良かったと納得する自分もいた。