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白山小梅
12
#借金
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◇ ◇ ◇ ◇
七香が部屋からいなくなっただけなのに、あんなにも温かく感じた部屋が、一気に冷たい空気に包まれる。
カーテンを閉じているせいだと思い、窓辺に寄ってカーテンを開けたが、部屋に日差しが入り込んだだけで、空気は元に戻らなかった。
七香はまるで太陽みたいだなーー温かくて、心の空虚さを忘れさせてくれる。でも本当は自分のような人間には、触れることすらも勇気がいる存在に思えた。
きっと早紀さんに会えなかった寂しさや悲しみを、七香の温かさで補おうとしたのだろう。でなければ、昨夜の行動の意味を説明できない。
部屋にはまだ七香と燃え上がった後の残り香が漂っていて、それが消えてしまう前にもう一度大きく息を吸い込んだ。
甘かった。どこもかしこも甘かったーー五年前はまだあどけなさが残る女子高生で、触れたらばちが当たるような気さえした。そんな少女が大人になり、自分の手によって快楽の世界への扉を開いた。まだ誰も到達したことのない、彼女の奥深くの境地へ侵入していく背徳感。それはとんでもなく甘い蜜で、興奮を抑えることが出来なかった。昴は何度も何度も自分のモノを突き上げ、快楽に酔いしれながら魅惑の地に到着したのだ。
七香が初めて受け入れたのが自分だと思うだけで、優越感が高騰していく。想像するだけで勃ちそうになった時、突然部屋のドアがノックされた。
誰だろう。七香の忘れ物はなかったはずだがーーそう思いながらドアを開けると、未奈が鬼のような形相で立っていた。昴はため息をつくと、面倒くさそうに壁に寄りかかる。
「朝から何?」
すると未奈は昴の許可なく部屋に押し入り、ベッドの散乱状態を見て舌打ちをした。それからベッド脇のゴミ箱を手に取ると、中を覗いてから昴を睨みつける。
「やっぱりあの女が来たんだ!」
「……ここは俺の部屋なんだから、誰が来たっていいだろ」
「しかも何よ、このゴムの数! あんたたち、一体何回ヤったわけ⁈」
「さぁ。そのゴムの数じゃない?」
昴が言った瞬間、未奈はゴミ箱を昴に投げつけた。
「あたしとした時は、一回で『萎えたからおしまい』って言ったのよ!」
「……そうだったっけ?」
「はぁっ⁈ 覚えてないわけ? あんたはそうやって誘われたら簡単にするのに、相手のことを覚えてやしない! どうせあたしたちも、昨夜のあの女も、あんたの本命の代わりでしかないもんね! あんたなんか、地獄に堕ちればいいんだ!」
未奈はそう吐き捨てると、昴の部屋から出て行った。
未奈の言葉を聞いていた時、昴は何度か彼女の言葉を否定しそうになって、慌てて口を閉ざした。
七香が早紀さんの代わり? そんなわけないじゃないか。七香は七香だーーだがそう考えれば、自分の心に矛盾が生まれる。さっきまでは早紀の代わりに抱いたと思っていたのだから。
昴はハッとする。確かに未奈のいう通りだった。今まで関係を持った女性は向こうから誘ってきた。一夜だけの関係なら、互いに後腐れなく性欲を発散するだけ。縛りのない関係は気が楽だった。だから来る者は拒まず、去る者は追わずの精神でいたのだ。
でも昨夜はどうだった? 誘ったのは昴の方だった。しかも何回果てても萎えなくて、自分で抑えが効かないなんてことは、ここ最近はなかったはずなのに……いや、きっと早紀さんに会えなくて溜まっていたからだろうーーそう自分に納得させる。
初めての七香にこれほどまでの性欲をぶつけてしまったことを申し訳なく思うのに、身体中を包み込む心地良い満足感は眠気を誘う。
連絡先を聞いたのも七香が初めてだった。たぶん五年前にすでに始まっていたんだーー早紀を想いながら、彼女にも特別な何かを感じていたのかもしれない。あんなに楽しい時間を過ごしたのは久しぶりだったし、今も忘れられずに頭に焼きついている。
それにあの夜、七香と早紀が対峙したことを知っていた。眠いと嘘をついてベッドに入り、どこにも吐き出すことのできない苛立ちと戦っていると、突然ドアが開く音がして、二人の女性の話し声が聞こえてきたのだ。
七香は最初から終わりまで、ずっと昴の味方だったことを知っている。もちろん嬉しかった。でも早紀より大切なものがなかった昴は、七香との関係よりも早紀を選んでしまった。
あの時、七香は確実に俺に好意を寄せていたから、尚更彼女を選ぶことは出来なかったが、今ならただの友人になれる気がした。
そう、友人だ。だから連絡も取り合うし、当然互いを心配したりもする。これからは、この形こそが二人の自然な関係になっていくはずだーーそう考えると、空虚だった心に温かい風が吹き込んだ。