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「どういうことだ?」

「まだ、第三王子殿下は覚醒していません」

「でも、レオンは聖獣から人の姿に戻ったようだけど……」

「ヴァレナ様は、殿下の聖獣化を解いただけです」

「!」

兄二人の言葉にヨシュカが答えると、レオンは目を見開いてヴァレナを見た。

ヴァレナは、「第三王子を覚醒させ、巡礼に向かう」と思われていた空気を無視した。

何度もヨシュカによって死に追いやられたヴァレナだったが、このときだけは「してやったり」という気持ちが強かった。

「なぜ、覚醒をさせなかったのですか?」

「本人の意思確認をしていないからです」

不審げに目を細めたヨシュカに、ヴァレナは続ける。

「意思確認をせずにこの場で覚醒させて、第三王子殿下を連れて行くなんて……私にはできません」

(前はしたけど! 今回は言う通りになんてしないんだからね!)

ただ反対するだけでは、ヨシュカに不信感を与える。

だが「聖女らしく」、それっぽい主張をすれば、きっとヨシュカも無下にはしないはず――

ヨシュカの目が「さっきの話を忘れたのか」と言っているが、ヴァレナは毅然として続けた。

「聖獣騎士として完全に覚醒することには、メリットとデメリットがあります。それをきちんと説明した上で、受け入れてもらうべきです」

「それを説明したところで……最終的には、殿下を巡礼に連れて行くしかないのですよ?」

「っ……」

ヴァレナの視界の端で、レオンが俯くのが見えた。

だからヴァレナは、ヨシュカからレオンに向き直る。

「……最終的にはそうかもしれません。ですが意思確認もせず覚醒させるべき、という道理もありません」

言葉こそヨシュカに向けていたが、ヴァレナは俯くレオンを見ながら言い切った。

(この人が言っていることは正しい……私だって、最初はそう思ってた。でも……)

聖女の役目の結末は、死。

その結末を回避する方法がわからない今、味方は多いほうがいい。

だが、最初の人生のような「死を願われるような関係」では、誰も味方になってはくれない。

(最後は来てもらうけど、少しだけでも「ついていってもいい」と思ってもらえる関係にならないと)

――「無能だから少しは役に立て」とばかりに、兄たちに差し出されたかのような扱いを受けていた第三王子。

(今の私なら……ほんの少しだけわかる。こんな扱いのままついてきたら、投げやりにもなるよね)

巡礼の旅で、文句が多く、反抗的な態度も目立っていたレオン。

王族ゆえのわがままだと気にしていなかったことが――ヴァレナが生贄として死を迎えた直前の、レオンの態度につながったのかもしれない。

今のヴァレナには、そう思えた。

「――なら、そのメリットデメリットというのを聞いてみよう」

そう言って、エゴンが座るソファの後ろに立ったのは、ヒルデブラントだ。

「ほら、当事者なんだから座るんだ、レオン」

「お、おう……」

ソファの端に寄って座り直したエゴンに促され、レオンはその隣までやってきて腰を下ろす。

ヴァレナもソファに戻り、ヨシュカと共に座り直した。

「では、ご説明させていただきますね」

聖獣騎士は、本来聖女を守るのを目的として生まれた存在――と、文献にはあった。

「……ですので、聖獣騎士として覚醒することで、特殊な力を行使できるようになります」

最初の人生と現在の人生で読み込んだ、聖女に関する文献を思い返しながらヴァレナは説明する。

「特殊な力、というのは具体的にどんなものなんだ?」

当事者ではないヒルデブラントが興味深そうに問いかけてくる。

「それは、覚醒してみないとわかりません。宿った聖獣によって変わるようなので」

(私は知ってるけど……ここで言う必要ないよね)

「魔術師の使う魔術と違うのか?」

「そうですね……魔術師自体が今はあまり表に出てこない存在なのもあって、比較する機会がないので何とも言えません」

この世界には、独自の理論で様々な現象を起こす魔術師が存在する。

現在は、認識阻害効果の魔術で守られた魔塔に引きこもっている者がほとんどだという。

(聖獣騎士にも魔術師がいたけど……あの人のことはよくわからなかった)

覚醒の際に顔を見たはずなのだが、それ以外ではずっとフードをかぶっていたせいか、印象がぼんやりしている。

そんなことを思い出しながらヒルデブラントの質問に答えると、エゴンがヨシュカに目を向ける。

「そちらの神官殿も聖獣騎士だよね。参考までに、何ができるか教えてもらえる?」

「ヴァレナ様をお守りするためにも、聖獣騎士としての能力はなるべく表に出さないようにしております。ご容赦ください」

「ずいぶん警戒するね」

「申し訳ありません」

最初の人生でヨシュカが聖獣騎士の能力を使う場面を見てきたヴァレナは、彼の能力を知っている。

(癒しの力と……その力を反転させて、相手の体力を奪う能力だったはず)

回復にも攻撃にも回れる能力だが、それなりに消耗も激しいらしく、有事のときしか使っていなかった。

「他にも、聖獣化を自分の意思でできるようになります。文献によれば、半覚醒状態の聖獣化とは異なり、聖獣の力を最大限に使用できるようです」

「ふむ……これも、実際になってみないとわからないといった感じだな」

「……」

興味深そうにうなずくヒルデブラントに対し、当事者のレオンはずっと黙っていた。

興味がないのか、興味がない振りをして聞いているのか、ヴァレナには判断ができない。

「……それで、デメリットについてですが」

ヴァレナが切り出すと、レオンの目線が動いた。

メリットよりも、デメリットのほうが知りたかったらしい。

「王家にも聖女に関する文献があるはずなので、ご存知かもしれませんが……」

前置きをしつつ、ヴァレナは続ける。

「聖女が聖獣騎士を覚醒させるということは、聖獣騎士が聖女に従う意思表示でもあります。聖女と聖獣騎士でぶつかった場合、聖女がそれを御する力があります」

「……知ってる。強制的に行動を制限する力、だろ?」

レオンは不貞腐れたように言う。

「はい。洗脳のような、精神を操る力はありませんが……行動そのものを止めることはできます」

「そして……聖獣騎士として覚醒したら、巡礼儀式に同行してもらうことになります。今の生活を一時的に捨てることになるので、これも大きなデメリットだと思います」

「一番ヤバイのは強制力だろ。覚醒したら、お前に逆らえなくなるんだからな」

レオンが吐き捨てるように言うと、続けた。

「――ヴァレナ様」

レオンの言葉にどう答えようか考えあぐねていたところで、ヨシュカが割って入る。

「第三王子殿下は、すでに聖獣騎士についての知識はあるようです。なら、意思確認をする必要はないのでは?」

「なぜ?」

「巡礼を行わなければ、今起きている魔物の活性化を抑制できません。今こうしている間にも、魔物の脅威は国に迫っているのですよ」

「っ……」

ヨシュカの正論に、レオンが歯を食いしばるのが見えた。

「だったらさっさと――」

「――協力してもらわないといけないからこそ、納得してもらう必要があると思います」

レオンの言葉を遮り、ヴァレナはヨシュカではなくレオンを見つめた。

「聖女の強制力は……意思を操れないからこそ、意思を折る行為になります。その力で無理やり同行させたら、本当に協力が必要な場面で共倒れする可能性があります」

「……」

ヴァレナの横顔を険しい顔で見据えるヨシュカは、黙っている。

「……で、ここまで聞いたけど、どうするの? レオン」

話が途切れたからか、エゴンがレオンに話を促す。

「……」

すぐには答えないレオンだったが、エゴン、そしてヒルデブラントもそれ以上追い打ちをかけなかった。

(意外と話を聞いてくれる気はあるのね……)

最初にレオンを連れてきたときの印象とのズレに、ヴァレナが戸惑っていると――

「俺は――」

迷うような複雑な顔でレオンは口を開いたが、すぐに口を閉じる。

自分でも何を言おうとしているのか、決めあぐねていたのかもしれない。

「……少し、考えさせてほしい」

結論を先延ばしにするだけの言葉のように思えるが、ヴァレナの印象は違う。

(さっきからあまり喋らないなとは思ってたけど……最初のときと、かなり様子が違う気がする)

ヴァレナのレオンに対する印象は「口が悪くてわがまま」だった。

だが目の前にいるレオンは、不貞腐れてはいるが「話す余地」はあるように思えた。

(覚醒そのものを拒否するかもって思ってたけど……)

もちろん、拒否されても引き下がるつもりはなかったヴァレナだが――

(協力的な状態でついてきてくれる可能性が、ある気がしてきた……!)

この状況で喜ぶのもおかしな話なので、顔に出ないよう必死に抑えるヴァレナ。

すると。

「なら、しばらくは聖女と神官はうちに滞在してもらうことになるな」

「……あ」

静観していたヒルデブラントが当然のように言うのを見て、ヴァレナは色々と思い至った。

「私たちは、王都で宿を取りますのでどうかお気になさらず……!」

遠慮しようとするヴァレナだが、エゴンはレオンを見た。

「な、なんだよ」

「この弟をその気にさせるには、いつでも接触できる王宮のほうが、都合がいいんじゃない?」

「そうと決まれば、部屋を用意させる。聖女と神官はそのままここで待っててくれ」

ヒルデブラントが話を終わらせると、エゴンも立ち上がる。

「準備ができたら使いをよこすから、それまでゆっくりしててよ」

そう言い残すと、ヒルデブラントとエゴンは部屋を出ていく。

「……」

少し遅れて、レオンが立ち上がる。

そのまま背を向けて出ていくのかと思いきや――

「……」

「……?」

ソファに座っているヴァレナを見てから、早足で出て行った。

応接間に残されたヴァレナとヨシュカの間に、沈黙が落ちる。

(どうにかなった気はするけど……「役目から逃げるために巡礼を遅らせようとしているかもしれないから、殺そう!」ってなりませんように!)

死をくり返したときと違い、今回は逃げるつもりはないが、「役目を全うしようとする気がない」と思われたら、同じ流れになる可能性はある。

すぐ言い訳できるように、脳内で予行練習をしつつ――

「……あの」

ヴァレナは、つい自分からヨシュカに話しかけてしまった。

「なんですか?」

「その……怒ってないんですか?」

「なんの話ですか?」

「えっと……第三王子殿下に、覚醒するかどうかの意思確認をしたり……メリットデメリットの話をしたりした、ことです」

おずおずとヴァレナが口にすると、「ああ」と納得した様子でヨシュカが続ける。

「べつに怒ってはいませんが、不満ではありますよ。覚醒さえさせてしまえば、さっさと次の聖獣騎士の元へ向かえるのに」

「……そうですよね」

「聖女変更!」とならなかっただけマシなので、ヴァレナは曖昧に笑うしかできない。

「ただ……ヴァレナ様の言葉も一理あるとは思いました」

「……え」

一瞬何を言われたのか、ヴァレナはわからなかった。

「……そうなんですか?」

「なので、ヴァレナ様がそうすると決めたのなら、聖獣騎士である私は従うまでです」

「は、はあ……」

「ヴァレナ様の言うように、他の聖獣騎士たちが協力的なほうが、巡礼の旅で起きる問題も最小限にできるかもしれませんしね」

(この人……こんな人だったっけ?)

最初の人生でヴァレナに死ぬよう促し、おそらく聖女の結末が生贄だと知っていた人間――ヨシュカ。

最初に覚醒させた聖獣騎士で、巡礼の旅の中で様々な補助をしてきた神官。

(ああそうか。私が、何も考えずにこの人の言うことを聞いていただけだったから)

強制力を使って聖獣騎士を御すよう言われれば、その通りにした。

そこに疑問も持たなかったし、彼の言う通り巡礼そのものは順調に進んだ――ように、あの頃のヴァレナには見えていたから。

ヨシュカの言葉に従うことが、聖女巡礼を成功させることだと信じていたのかもしれない。

(でもフタを開けてみたら、確かに儀式はできたけど……私は死ぬしかなかった)

だが裏を返せば、ヨシュカはあくまで――聖女巡礼を成功させることを優先させているだけなのかもしれない。

(今の聖女は私だから……明らかにおかしなことをしなければ、この人も協力してくれて……第三王子もちゃんと旅に連れていけるかも!)

しかし、ヨシュカへの恐怖が薄れたことと、最初の一歩を踏み出せた手応えが――ヴァレナに、油断する隙を与えることになる。











第一王子・ヒルデブラントが手配した部屋で一夜を過ごしたヴァレナは、気合い充分だった。

昨晩の夕食は、ヒルデブラントとエゴンの話を聞くのがほとんどだったため、朝食ではレオンから話を聞く予定だったのだが――

ヨシュカを連れ立って食堂に向かうと、朝食に現れたのはエゴンだけだった。

彼の話によると、普段の食事は別々なことが多いらしく、エゴン自身も明日以降は一緒には取れないと言っていた。

朝食の最後に、エゴンはこう言い残した。





『レオンに会うなら、あまり人目につかないところを探すといいよ』





(最初はどうでもよさそうにしてた気がするけど……意外と、兄として第三王子を気にしてるのかな?)

そんなことを思いながら――ヴァレナは朝食後、部屋に戻らず、単独行動を取っていた。

(立ち入り禁止の場所は教えてもらったし、そこに近寄らなければ自由に出歩いていいって言われているから……ちょうどいいかな)

建物から出て、敷地内を見て回りながら歩くヴァレナは、ひとまず近くの庭園へ足を運んだ。

景観美しい植物の姿を眺めながら、ヴァレナはなんとなく考える。

(――でも第三王子は、お兄さんたちのことをよく思ってないのかな)

ヴァレナがレオンの意思確認の話をするまでは、すぐにでも追い出す勢いで巡礼の旅へ行かせようとしていた印象があった。

(どっちが王位を継いでもおかしくないって状況で……第一王子が事故死して、王位継承権は実質、第二王子のものになった)

そもそも――第三王子の付け入る隙はない、という状況だったのだろう。

(兄二人が優秀で、二人を超えられるものが特にない第三王子は、王位継承序列から脱落している……とも言われてたっけ)

その状況を考えれば、レオンが兄二人を快く思っていないのも、理解できる気がした。

だが同時に――

(だから……お兄さんたちも、自分たちがいると第三王子が話しにくいってわかってるのかな……?)

兄二人は、レオンをそこまで蔑ろにしてはいないのではないか――そんなことをヴァレナは思った。

(せっかくもらった機会だし、ちゃんと活用しなくちゃね……!)

兄二人のレオンに対する可能性を妙に嬉しく感じたヴァレナは、やる気充分でレオンを探した。







その後――ちょっとしたアクシデントを乗り越え、レオンと合流することに成功したヴァレナだったが。

「……」

(……え?)

場の空気が冷え切るのを感じた、ヴァレナは焦る。

(さ、さっきまでは、今までで一番……楽しく話せてたと思ってたのに……この空気、どうしたらいいの!?)

先ほどまでのやる気が吹き飛ぶほど、途方に暮れることになるのだった。





(次回へつづく)

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