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岩本照 side
柄にもなく、ふっかをBARに誘ってみた。
一瞬、目を見開いたが、すぐに優しい目で”いいよ”と返ってきた。
BARは思ったより人が少なかった。間接照明が落とした2つの影が、グラスの縁に揺れている。
ふっかはカウンターに肘をつき、氷が溶ける音を楽しむようにグラスを傾けて遊びながら口を開いた。
深澤「珍しいよね」
「こういうとこに誘うなんて」
何気なく放った言葉が、俺の心を動かす
岩本「…なんとなく誘ってみただけ」
深澤「ふーん」
口では笑うけど、目は何かを見透かしてるように俺を見た。
深澤「俺のことだったりして?」
本当、ふっかは鋭い。
岩本「……半分は」
そう答えると、ふっかは小さく吹き出した。
深澤「はは、やけに正直じゃん」
「でも 嫌いじゃないよ、そういうとこ」
その言葉に、胸の奥がきしんだ。
“嫌いじゃない”、 それ以上でも以下でもない距離。
俺はグラスを置いた。
ゴンッと音が大きく響く。
岩本「ふっか」
意を決したように口を開いた。
岩本「俺」
岩本「ふっかのこと好き」
飾らない声で、 気持ちを素直に出した言葉だった。
ふっかは驚いた顔をして俺を見て、ゆっくり瞬きをした。
そして、視線を落とした。
深澤「……そういう顔で言うんだ」
岩本「そういう顔?」
深澤「真っ直ぐな顔」
……
しばらく、二人の間に沈黙が流れた。
ふっかはグラスを回しながら、考えるように口を開いた。
深澤「俺さ」
「人を愛するって気持ち、よく分からないんだよね」
岩本「うん…」
深澤「色んな恋愛してきたけど、ピンとこないというか」
「最後に付き合った彼女に振られても、何も思わなかった」
「その時に俺って好きになったことないんだって気付いて」
岩本「うん…」
深澤「でもさ」
深澤は顔を上げ、岩本を見る。
深澤「照に好かれるの、嬉しいわ」
ニコッと笑う深澤に、これ以上のない高鳴りを感じた。
深澤 「付き合うとか、分かんない。ただ照が伝えてくれた”好き”に向き合ってみてもいい?」
岩本はうなずいた。
岩本「俺はずっと待つ」
「ふっかが、俺を見てくれるまで」
深澤が、少し困ったように笑う。
深澤「ほんとに一途だね」
岩本「ふっかにだけ」
今でも心臓がバクバクと音を立て、目に映る大好きな姿を認識するのに精一杯だった。
深澤「……ちょっとドキドキしたじゃん」
照れくさそうに言うふっかに早く
会計を済ませ、外に出る。
夜風がヒヤッと背中を撫でるように少し冷たい。
歩きながら自然と肩が触れる。
いつも通り離れないし、避けない。
ごく自然なことなのに、
深澤「照…」
ふっかが立ち止まった。
深澤「今日はさ」
「ここまでにしよ」
俺は黙って、ふっかを見た。
ふっかは俺の近くまで来ると、顔を近づけて言った。
深澤「でも」
「何もなかった夜にしたくないな、俺は」
ふっかの指が、俺のジャケットの袖を掴む。
力は弱いのに、離す気はない。
深澤「続きは、また…ね」
低く、落ち着いた声。
俺はふっかの頬に軽く手を触れる。
深澤が、ゆっくり目を閉じた。
寒さで冷えた唇が、そっと重なる。
一瞬ひやりとしたが、すぐに心まで熱くなる。
柔らかい唇にずっと、キスしていたいなんて贅沢かな。
ただ、熱を伝え合うだけ。
幸せなのに少し怖い。
離れると、深澤が小さく笑う。
深澤「片想いってさ」
「ここまで来たら、もう名前違う気がしない?」
悪戯っぽく笑う。
俺もほんの少しだけ口角を上げて”確かに”と答えた。
岩本「……期待していい?」
深澤「していいよ」
夜が、静かにほどけていく。
答えはまだない。
でも、同じ方向を見ている確信だけが残った。
——この夜は、始まりの一歩だった。
コメント
3件

いつもコメントありがとうございます🙇♀️ 後編も明日公開するので、是非読んでいただけると嬉しいです!

いわふか💛💜ありがとうございます🥰 これから2人が始まっていくのかなー 楽しみだな😍 ひかるはふっかに一途よね✨