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目を瞑っているはずなのに、地面から真っ逆様に回転しているかのような感覚に襲われる。完全に飲みすぎた。取引先で、旧友のヒロトとバッタリ出会い、飲みに行くまではよかった。昔話に花が咲きすぎて、気がついたらワインが一本無くなっていた。見事に泥酔状態である。終電も逃してしまい、駅からタクシーに乗せてもらったが、まともにまっすぐ歩けないからと着いてきてくれた。 「起きれるかい、家この辺で合ってる?もうすぐ着くそうだよ」
ぼんやりとした頭で、窓から見渡した後頷き、家の前で下ろしてもらった。 オートロックを開けてもらい、共用廊下から部屋の前まで手を引いて歩いてくれる。彼は、面倒見がいいんだろうな。
家の扉を開けると、灯りのない見慣れた部屋が見えた。家に着いたという安堵と共に、ヒロトへの心配が頭をよぎる。終電だったよな、帰れるのか?ていうか乗ってきたタクシーのお金払って無いな。この辺はホテルがない、またタクシーで移動するのか?お金かかるよな…
「それじゃあ…おやすみ、ちゃんと水飲んで寝るんだよ。」「ま、まって」
ヒロトの声で我に帰り、咄嗟に彼の手を掴む。喉が詰まってうまく出てこない言葉を、必死に絞り出す。
「…泊まって、いいよ、ヒロトなら」
「それは……」
彼の言葉を遮るように手を引き、抵抗なく家の中に引き込む。扉が音を立てて閉まると、狭い玄関の中で、静寂と暗闇に包まれる。顔を、見上げることができない。掴んだままの右手は、どんどん熱を帯びていく。目が暗闇に慣れる頃、彼が口火を切る。
「それは、そういう意味だと、捉えるからね。」
顔を上げると、少し恥ずかしげのある顔でこちらを見つめる彼がいた。