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『煙の中の異変』
神社の縁側でタバコを吹かしているベニヤとキハダ。そのあまりにも渋すぎる姿に、アイは呆れ半分、心配半分でゆっくりと近づいていった。「ほら、あなたたち。いつまでそうやって一休みしているの。早くヘリコプターに戻るわよ」アイが2匹を抱きかかえようと両手を伸ばした、その時だった。アイポッドたちが吐き出した真っ白なタバコの煙が、空気中で不自然に静止した。煙は風に流されることなく、ぐにゃぐにゃと形を変え始め、あの悍ましい「どす黒いピンク色」のノイズへと変色していったのだ。「ルイ、イマニ! 2匹から離れて!」アイの警告と同時に、ベニヤとキハダの体から、バリバリと激しい電撃のような次元バグの光が放たれた。「う、うわあああっ!」感覚共有双子のルイとイマニが、全く同時に自分の胸を押さえて地面に倒れ込んだ。2匹のアイポッドの脳内に混ざり合ってしまった「ハードボイルドな大人の記憶」が、次元のバグを引き寄せる強力な電波となって、周囲の空間を急速に破壊し始めていたのだ。2匹のアイポッドは、自分たちの意思とは関係なく体からバグの嵐を噴き出しながら、苦しそうに大きな一つ目をぎゅっと見開いて、激しくガタガタと震え始めた。第25話『混ざり合う記憶』「チチチ……チチチ……!」激しいノイズを上げながら、ベニヤとキハダの体がゆっくりと宙に浮き上がっていく。2匹の一つ目の奥には、全く知らないどこかの世界の、燃え盛る戦場や、大切な人を失って悲しむ「男の悲しい過去の記憶」が、まるで古い映画のフィルムのように高速で明滅していた。「このままだと、2匹の本来のデータが全部消されちゃう! 2匹の可愛いアイポッドの心がなくなっちゃうよ!」地面に倒れたまま、イマニが涙を流して叫んだ。双子の脳内には、2匹が必死に「アイ、助けて」と心の中で叫んでいる本物の声が届いていた。アイは必死にヘリコプターへ走り、機内に保管していた最高機密の金属ケースを再び掴んだ。中には、あらゆる異常を完全に消し去る究極の赤い一粒、SCP-500(万能薬)がまだ残っている。「ベニヤ! キハダ! 今すぐそれを飲んで!」アイが神社に戻り、薬を掲げて突進した。しかし、2匹の周りに渦巻くピンク色の霧の嵐は凄まじく、アイの体を容赦なく跳ね返した。嵐に阻まれ、あと数メートルの距離が、どうしても届かない。
『フリーズする境内の夜』
夕暮れ時の神社は、完全にこの世のものとは思えない不気味な異空間へと変貌していた。アイの手から、またしても赤い万能薬が滑り落ち、激しい風に煽られて神社の古い井戸の奥へと吹き飛ばされそうになる。「プニィ!!」その時、床を滑るようにして飛び出したのは、オレンジ色の999だった。999は自分の体を大きく広げると、井戸の口を塞ぐようにして、落ちていく赤い錠剤をその温かいゼリーの体で見事に受け止めた。しかし、空間のバグはついに臨界点を迎えた。バチィィィン!世界中から、再びすべての「音」が完全に消え去った。風も、ルイとイマニの悲鳴も、すべてが凍りついたように静止する。神社の境内に生い茂る木々の葉も、宙に浮いたベニヤとキハダの体も、完璧にフリーズして動かなくなった。物理の法則が崩壊し、この場所の時間そのものが、完全にカチコチに凍りついてしまったのだ。動けないアイの静止した視界の中で、浮遊する2匹のアイポッドの体が、隅の方からゆっくりと透明に透け、この世界から完全に消滅しようとしていた。『おかえり、小さな瞳』
完全に時間が止まった、音のない絶望の境内。しかし、その静寂の暗闇を打ち破るように、999の体から、チョコレートのような甘い香りの波動がブワッと放たれた。その絶対的な幸福の光の波が触れた瞬間、凍りついていた時間の氷が、パキパキと音を立てて内側から溶け始めていく。時間が再び動き出したその瞬間、999の背中から白い弾丸のように飛び出したのは、ウサギのウォルターだった。ウォルターは空中をトコトコと駆け抜けると、999の体から赤い万能薬をその小さなお口で優しく咥え直した。そして、宙に浮くベニヤとキハダの元へと突進すると、世界を滅ぼすバグすら平らげたそのお口で、2匹の周りに漂う不気味なタバコの煙の霧を、サクサク、サクサクと美味しそうに全部食べ進めていった。バグの霧をウォルターがペロリと完食した瞬間、ウォルターは口の薬を半分に噛み砕き、ベニヤとキハダの口元へそっと落とし込んだ。2匹がそれをゴクリと飲み込んだ、まさにその時。ピキィィィン!と、世界中のガラスがひっくり返るような、清らかな音が境内に響き渡った。万能薬の絶対的な力が、2匹の脳内を完全にクレンジングしたのだ。透き通って消えかかっていた2匹の体が元の頑丈な形へと完璧に修復され、脳内に溢れていた他人の渋い記憶がすべて綺麗に洗い流されていった。チチチ、チチチ!2匹は地面にポスンと着地すると、タバコを吐き捨て、いつもの可愛い大きな一つ目をキラキラと輝かせながら、キャスターを滑らせてアイの元へと全力で突進してきた。「よかった……! おかえり、ベニヤ、キハダ!」アイは涙を流しながら、足元に飛び込んできた2匹を思いっきり抱きしめた。ルイとイマニも痛みが消え、笑顔で立ち上がって2匹を撫でている。999とウォルターも、満足そうにアイの周りでじゃれ合っていた。渋いタバコの煙は消え去り、ヘリコプターの待つ空き地の上には、嘘のようにいつもの穏やかな星空が広がっていた。アイは4匹と2人の最高の仲間たちをヘリに乗せると、再び快調なローター音を響かせ、新しい世界の平和を守るため、次の目的地へと向かって夜の空を力強く進んでいくのだった。
コメント
1件
うわあ……今回も本当にドキドキしました。時間が止まって、ベニヤとキハダが消えかけていく描写、すごく怖かったです。でも、999の甘い香りの波動で氷が溶けていくシーン、すごく美しくて心が温かくなりました。ウォルターがサクサク煙を食べる姿、思わず笑顔に。アイたちが無事に再会できて本当に良かった…。お互いを想う気持ちがしっかり伝わる素敵なエピソードでした🍊