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第15話:裏回収者の影
夜の都市は、まるで仮面のように静かだった。
 ネオンの光が水たまりを照らす中、ユイナは人気のない高層ビルの屋上にいた。
風はなく、空気がぬるく濁っている。
背中のホルダーには、進化した“記憶の仮面《シン》”が格納されていた。
 彼女は“異常な回収が起きている”という噂を聞き、この街へ来ていた。
 「人格が消える。仮面だけが残される」
 その言葉が、現実になる瞬間を――彼女は目撃した。
 目の前で、一人の少女が立ち尽くしていた。
マスクは無傷。だが、その瞳は完全に“空っぽ”だった。
 倒れた敵の足元には、フードの人物が立っている。
 外套に顔には血のように赤い仮面。
仮面の表面には**“他人の顔の断片”**が縫い付けられている。
 「おいで、君の“演技”は僕が演じてあげるから」
 裏回収者(グレーピース)――名を“リデル”。
 彼はマスクを集めるのではない。
人格そのものを抜き取り、自分の“仮面の中”へ書き換える異端者。
 ユイナは即座に跳躍。
足場を蹴って宙返りし、マスクを装着。
 《マスクチェンジ:シン・フェイズモード》
 青白いデータの帯が両腕に走り、
人格追跡と感情遮断のモジュールが展開される。
 ユイナは空中でサイトスラストを放つ。
だが、リデルの仮面が“他者の思考”を逆投影し、ユイナの技を模倣。
 「これはさっきの君の感情。返すね」
 彼の掌から、ユイナ自身の感情データが衝撃波として逆流する。
胸に刺さるような痛みと共に、ユイナの視界がぶれる。
 (……私の“仮面の中”が……読まれてる?)
 相手は、人格を読む。
仮面越しの意思を、他者の“演技履歴”としてインストールする。
 ユイナは足を止め、深く息を吐く。
 「なら――私は“誰かを演じる私”じゃなく、“私自身”で戦う」
 彼女の瞳が光り、マスクから放たれた回路が空間を一閃。
 《シン・コードリンク》――
相手の“奪った人格”に共鳴し、記憶の中に“違和感”を注入する技。
 リデルの仮面に裂け目が走り、歪んだ記憶が暴発する。
 「やめろ……やめろ……これは僕の役じゃない……!」
 錯乱するリデルに対し、ユイナは無言で接近。
 踏み込み、右肘、左足のフェイント、サイトスラストによる虚空打ち。
すべてが彼の“演技パターン”を崩す流れを持っていた。
 最後に、記憶の仮面で打ち抜く。
 リデルは仮面ごと吹き飛ばされ、地面に崩れ落ちた。
 しかし、彼の周囲にはまだ複数の影が潜んでいる。
 「レッドピースは、僕ひとりじゃないよ。
これから“回収者狩り”が始まる」
 彼の声だけが、風に残って消えた。
 ユイナは手を見つめる。
 奪うことで力を得る世界に、さらに“人格ごと盗む者たち”が加わった。
 仮面をかぶる意味が、さらに深く、そして歪になっていく。