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《この世界では、大体の傷は医者が治すことが出来る。銃痕や切り傷も跡残すことなく治すことが出来る。だが稀に、治さないまままた犯罪を犯し、傷を作ると傷が重なり、治しても残ってしまう事がある。だが傷を治さずそのままにする人は中々居ない。》
無茶をしていると自覚はあった。
客船も、アーティファクトも、パシフィックも。
成功するたびに周囲は歓声を上げたが、その裏で俺は、もうどうでもいいように動いていた。
痛みは、気持ちを麻痺させてくれる。
傷は、先輩を考えないようにするための口実みたいだった。
けど、その代償は大きかった。
――銃弾が掠めた背中の痛みが、呼吸をするたびに焼け付くように走る。
崩れ落ちた時にはもう意識も途切れていた。
⸻
病院。
真っ白な部屋のベッドに横たわる俺を、868のみんなが囲んでいた。
「……マーくん、大丈夫かなぁ」
紫水が椅子の背に腕を乗せて、弱々しく呟いた。
音鳴が額を押さえて、低い声で言う。
「すっげぇ顔色悪いぞ……こんなん、笑えねぇわ」
レダーは窓際に立ったまま、黙り込んでいた。
長い沈黙の後、ぽつりと吐き出す。
「……やっぱ、ケインのこと、伝えたのが悪かったかもしれねぇな」
その言葉に二人が顔を上げる。
音鳴が眉を寄せた。
「なぁ、結局さ。ケインが彼女できたって……ホントなん?」
レダーは視線を逸らし、腕を組んだ。
「いや、噂だよ。確かなもんじゃねぇ。でも……俺ら、あの二人の関係、知っちまってるだろ。隠せねぇよ、ジョアに」
そう――みんなは知っていた。
ケインがジョアを特別に想ってることも。
ジョアがずっとケインに惹かれてることも。
レダーがケインと電話した夜。
「ジョアさんのこと、ちゃんと見ててください。無理をしてないか……お願いします」
あの静かな声を、レダーは今も覚えている。
だからこそ、余計に苦しかった。
紫水が小さく唇を噛む。
「……ケインさん、なんで……“付き合おう”って言わなかったんすかね。関係も曖昧なまま、1年も離れ離れなんて……辛くないですか?」
音鳴が、少し考えるようにしてから答えた。
「……そうやなぁ。でも、ケインは“直接会って言いたい”んちゃうか。電話や手紙で済ませる人じゃないやろ」
紫水はうつむいて、ベッドのシーツを握った。
「……この背中の傷、ずっと残るんすよね」
重たい沈黙が、部屋を包む。
その言葉に、レダーが苦しげに息を吐いた。
「……ケインに、謝んねぇとな」
ベッドの上で眠るジョアの背中には、白い包帯が巻かれていた。
その下に、決して消えない傷が刻まれている。
ジョアは病室のベッドで、まだ深い眠りについていた。
夢の中では、ケインが街を去る前の光景が映し出されている。今までの思い出が、まるでジョアの心の奥を汲み取るかのように鮮明に蘇る。
夢の中でジョアは、必死にケインの傍に近づこうとする。しかし、近づくたびに離れてしまう。どれだけ手を伸ばしても届かず、初めて自分の中で抑えてきた気持ちが溢れそうになる。
口を開けようとするが声は出ず、涙だけが止めどなく流れる。
視点が急に変わり、病室の自分自身の姿が見える。ベッドの周りには、心配そうに見守る868のメンバーたちの顔があった。
その光景を見た瞬間、ジョアは胸の奥で何かが締め付けられるように感じた。
(――俺、今まで何をしてたんだろう……)
不意に、ジョアは目を覚ます。汗と涙でびっしょりになった顔を手でぬぐい、背中の痛みを感じながらベッドに座る。
『……あの、おはようございます』
小さな声で無線に入り、か細く挨拶する。
「ジョア!!!起きた!!?」
音鳴の声が大きく飛び込む。
「ジョア、おはよう」
レダーも安心した声で続けた。
「とりあえず迎えに行くから、待ってて」
ジョアはベッドから立ち上がり、病院のシャワー室で汗を流す。熱と涙でぐっしょりになった体を洗い流したあと、レダーの迎えを待つ。
やがてレダーの車が到着し、ジョアを乗せる。
「調子はどうだ?」
助手席に座るジョアに、レダーが声をかける。
ジョアは少し迷いながらも口を開く。
『……寝てる間、夢を見たんすよね。俺、何を信じればいいか分からなかったんです。でも、ちゃんと信じ合える仲間は居るって分かりました』
「そうか」
レダーは静かに頷く。
しばらく沈黙の後、急にレダーが口を開いた。
「そういや、俺ら二人の関係、知ってるんだよね」
ジョアは驚いて目を見開く。
『え、知ってたんですか?!』
レダーは少し微笑みながら説明する。
「ケインが街を去った日、電話でお前のこと、ちゃんと見てて欲しいって頼まれたんだ。あの日から、俺らもちゃんとお前のこと気にしてる」
『そ、そうっすね……』
ジョアは小さく頷きながら、胸の奥のもやもやが少しずつ解けていくのを感じた。
レダーは続ける。
「彼女の件は、俺らも真実かどうかは分からない。でも、ケインはちゃんとお前のこと想ってると思う。信じてみるのも、ありだと思うよ」
ジョアは、深く息を吐き出す。
『……はい。分かりました』
その日から、ジョアはもう無茶をせず、仲間と自分を信じて前に進む決意を固めた。