テラーノベル
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「トラゾーおはよー!」
「おはよーぺいんと」
元気よく挨拶をしてきたのは、同じ学年で仲のいいぺいんとだった。
「今日は1人なんだな」
「うん?、うん」
確かにいつもは俺の周りには誰かしらがいるけども。
「ラッキー」
「うわっ」
肩を組まれて転びそうになる。
「バカッ、危ないだろ!」
「大丈夫大丈夫〜」
「ったく…」
「怒んなって。まぁ怒ってもトラゾーは可愛いけどな」
「またそう言う…俺のどこが可愛いんだよ」
そう言うとぺいんとは真顔になった。
「え」
「は?全部に決まってんだろ」
「えぇ…?逆ギレ…?」
「お前が自分の可愛さ自覚してねぇのが悪いんだろ」
ぐっと顔を寄せられる。
あまりの近さに、友達の距離感ではないと離れようとした。
「離れんなよ」
「ふぁ⁈」
耳元で囁かれて、変な声が出てしまった。
「ちょっ…びっくりするからやめろって…っ」
「……いや、朝からそんな声出すなっての」
「はぁ…⁇」
全く意味が分からない。
素っ頓狂な声を面白がるならまだしも咎められるとは思わなかった。
「ぺいんとってたまにおかしなこと言うよな」
「…鈍感」
「あ?鈍感?俺が?」
俺のことなのならば、それは違うぞ。
察しはいい方だと自負してる。
「……自覚させてやっからな」
「何の話だよ…ってか、もう離れろって歩きづらい」
「えー」
「えーじゃねぇし」
やいやい言ってると後ろから肩を叩かれた。
振り向くと、にっこりと優しく笑う人が立っていた。
「あ、クロノアさんおはようございます」
クロノアさんはひと学年上の3年生。
色々と俺のことを気にかけてくれる優しい先輩だ。
「おはよう、トラゾー、ぺいんと」
「おはよーございます」
「朝から仲良いね」
穏やかに笑うクロノアさんに苦笑いを返す。
「そりゃ、”いちばん”の友達っすから。てか親友?」
「…へぇ。でも親友止まりなんだね」
「…そういうクロノアさんは”優しい”先輩止まりでしょ」
「「……」」
普段の仲の良さはどこに、と言わんばかりに睨み合ってる。
「んん?ぺいんと?クロノアさん?」
「親友はどこまでいっても親友だろ」
「先輩だって、ただの先輩どまりっすよね?」
「全く脈なしの反応されてるくせに」
「それはクロノアさんもでしょ」
そんな2人に挟まれてとてつもなく気まずいというか、居心地悪くなる。
急に喧嘩始めだものだからどうしていいか分からない。
てか、何で喧嘩してんのこの人ら。
「トーラ」
「わっ!」
突然後ろから抱きつかれて顔だけ振り返る。
「ら、っだぁさん…びっくりするから急に抱きつくのはやめて下さいっていつも言ってるじゃないですか…」
「え?じゃあ、先に言うわ。抱きつくね」
「いやもう抱きついてますから」
この人もクロノアさんと同じ3年生。
クロノアさんとはクラスが違うみたいだけど、ぺいんととは腐れ縁?らしい。
らっだぁさんは俺によくちょっかいをかけてくる。
いやそれよりかは構いたがり、の方が近いかもしれない。
「はー、朝からトラに会えて今日はいい日になるなぁ」
「いや、いつも会ってるじゃないですか」
俺とらっだぁさんは同じ寮。
ぺいんととクロノアさんが同じ寮だ。
寮長のらっだぁさんと何故か同室の俺は毎日のように顔を合わせている。
「だって、トラ俺のこと置いて先に行っちゃうんだもん」
「いくら起こしても起きてくれないから諦めたんです」
「「、羨ましすぎる…」」
「はっ」
鼻で笑ったらっだぁさんに、2人はひくりと口元を歪めた。
「羨ましいだろ。悔しかったら成績最優秀取ってみろよ。もう遅いけどな」
「「ぐっ…」」
「もう!2人のこと煽らないでくださいよ」
「ホントのことだもーん」
成績順で寮に割り当てられる謎の制度のうちの学校。
「トラゾー理数系壊滅的じゃん。何でだよ」
「それ以外でほぼ首位取ったからだろ」
「らっだぁさん、それくらいにしなきゃホントに朝知りませんよ」
じっと見上げると肩を竦めてらっだぁさんが溜息をついた。
「ごめんて。可愛い後輩と同級からかっただけじゃん」
「やりすぎです」
「今度、寮のデザートやるから許して?」
「俺子供じゃないんで、そんなんじゃ絆されません」
「トラー…」
傷付いたという顔をするけどそれが演技だということは分かっている。
何度も騙されたから流石に学習した。
「というかトラゾーから離れなよらっだぁさん」
「やだ」
「トラゾーも嫌がれよ」
「疲れるからやだ」
「そこは離れたくないからやだって言ってよ」
「はい?離れたいのは離れたいですよ。…じゃあ、いい加減離してください」
「「……はっ」」
ぺいんととクロノアさんがさっきのらっだぁさんと同じように鼻で笑った。
「いつもですけど、俺なんかに構って楽しいんですかあんたら」
「「「………鈍感」」」
信じられないと言う顔で同じことを言われた。
「また鈍感って!俺鈍感じゃないですもん!」
「「「いやいやいや…」」」
手を振って全否定された。
「わけの分からんこと言ってないで行きますよ!遅刻なんてしたくないですから。…あ!しにがみさーん!」
遠くに見えた紫髪の人の元に走る。
勿論、3人は置いて。
足の速さも誰にも負けないしな。
「トラゾーさんおはようございます」
「おはようございます。しにがみさん」
この可愛らしい人は1年生のしにがみさん。
ぺいんと繋がりで仲良くなった。
プログラムとかができるすごい人だ。
「いつも大変ですね」
「へ?あぁまぁ…いつものことなんで慣れた?と言いますか。男友達に構いたい年頃なんでしょう」
そう言うと可愛らしい顔で困った表情をしながら俺を見返した。
「…あー…うーん、…まぁ…そういうことにしときましょうか」
「⁇、え違うの⁈ただのかまってちゃんでしょ、特にぺいんととらっだぁさんは」
「!!、ぶはっ!…確かにあの2人はかまちょですけど!」
「兄弟みたいな感じですよねぇ」
「あららー」
後ろの方でまだ揉めてる?3人をチラリと見たしにがみさんは、何とも言えない表情をしていた。
同情したような。
「まぁでもみんなといるの楽しいから好きですけどね」
「それ、あの人たちの前で言ってあげたら喜ぶと思いますよ?いや……言わない方がいい、か…?」
「ううん⁇」
高校生にもなって友達に好きとか言うのは確かに恥ずかしいか?
「トラゾーさん」
「はい?」
「あなたも苦労しますね」
「苦労…?」
ああは言ったけど別に苦痛には思ったことはない。
たまに鬱陶しいなと思うけど、それもそれで楽しい。
さっきのやりとりも思い出して、口元が緩む。
「…その表情は無自覚でしょうから、どうしようもないわ」
「へ?」
「3人が見たら卒倒するなって」
「え、そんな変な顔してました?」
顔を触ってしにがみさんを見る。
肩をポンと叩かれ首を横に振った。
「天然トラちゃんはそのままでいてください」
「天然?…俺、?」
たまにとてつもないドジを踏んだり、変なとこが抜けてることもあるけども。
「僕はトラゾーさんたちが楽しいならそれでいいんですけどね」
「うん?俺もそうですよ?」
3年生のクロノアさんとらっだぁさんが卒業したら、きっとこの楽しいかけがえのないものが変わってしまう。
それは寂しいなと思う。
「じゃあ、またお昼休みに!」
「はい」
そんなことを考えていたら昇降口に着いた。
下駄箱のところで別れて、自分の中履きに履き替える。
「……」
でもホントにこうやってみんなで過ごせるのはあと少し。
時間はすぐに過ぎ去ってしまう。
「らっだぁさんもクロノアさんも大学行くって言ってたな…」
「俺がどうかした?」
「ぅひゃっ!」
驚いて声が裏返った。
声のした方を振り向けば目を丸くしたクロノアさんが立っていた。
「クロノアさん…」
「ごめん、驚かすつもりじゃなかったんだけど…」
「いえ…俺こそごめんなさい、変な声聞かせちゃって」
「?、別に気にしてないよ?」
「…あの、それで俺に何か?」
「あぁそうそう。これトラゾーが探してたって言ってた本」
書店を探し回ってもどこにもなくて、諦めかけていた本だった。
「え⁈あったんですか⁈」
「たまたま見つけたんだよ」
にこっと優しく笑うクロノアさんに笑い返す。
「ありがとうございます、嬉しいです」
「いいよ俺も欲しい本あったし、ホントにたまたま見つけただけだから」
「それでも…あっ、お金出しますっ」
「いいって、可愛い後輩に何かしてあげたかっただけだから、ね?」
「…でも、」
それだと俺の気が済まない。
「俺、いつもクロノアさんによくしてもらってるんで何かお返ししたいです」
「えぇ…いいのに………あ、じゃあ今度の土曜、俺に付き合ってくれる?」
頭の中でスケジュールを思い出す。
「土曜日……分かりました!予定何もないので大丈夫です」
ぺいんとと遊ぶ予定もないし、他の人とも約束はしてない。
「よかった。じゃあまたお昼休みにね」
「はい」
クロノアさんは手を振って、自分の棟の方の階段を上がっていった。
「…俺なんかに優しくしてていいのかな」
クロノアさんなら、言い方悪いけど女の子と付き合うの簡単そうなのに。
「可愛い後輩…か」
俺は周りの人に恵まれてる。
こんなにも友達に恵まれていていいのかと思うくらい。
俺は緩みそうになる顔を抑えて受け取った本を大事に鞄の中にしまった。
──────────────
「……」
「……」
「まさかノアがこんな姑息なことしてくるとはなぁ」
「姑息?俺はトラゾーと参考書を一緒に買いに行って進路の相談に乗ってあげてただけですけど」
寮に戻ってきたのは夕方。
門限前だし、大丈夫だと思ってたら寮の玄関前でらっだぁさんが待ち構えていた。
「よく言うぜ」
「あなたの方が姑息な手段使ってるくせによく言いますね」
「俺は使えるもん使っただけだし」
「それ、俺もですから」
この睨み合う光景、いつかの朝も見たな。
「(どうして俺が挟まると喧嘩を始めるんだ?………はっ、もしかして俺って実は嫌われてる?遠回しにお前どっかいけ的なそれ?)」
それが事実ならめちゃくちゃ傷付くし悲しい。
「あ、あの…俺、お邪魔ですか?」
「「邪魔じゃない」」
「ぅお…っ」
イケメン2人に凄まれると何も言えなくなるのはホントだった。
「俺のせいでみんないつも喧嘩してませんか…?俺がいない時はみんな仲良さそうなのに…」
「それは…」
「その…」
「俺のこと、ホントは嫌いですか…?」
「そんなわけねぇだろ!俺はトラのこと好きだぞ!」
「俺もトラゾーのこと好きだよ?嫌いになるなんて天地がひっくり返ってもあり得ない」
友達に対してこんな全力で好きだと言えるこの人たちはすごいな、と頭の隅で思っていた。
「……ホントに?」
「「ホント(だよ)!」」
「よ、かった…」
ぽろっと涙が勝手に落ちていく。
「「トラ…」」
「「あー!!後輩いじめしてる!!」」
「「は⁈」」
「へ…?」
特徴的な大声に振り返るとぺいんととしにがみさんが俺らの方に走ってきながらそう言ってきた。
「トラゾーさん、大丈夫ですか?先輩にいじめられて可哀想に…」
「おいトラゾー泣かすなよ!」
「待っ…違くてっ!俺が勝手に…ッ」
「泣かせたわけじゃ…いや、泣かせた…?」
「結果的に泣かせちゃってるなら…ダメだよね…」
「泣かせないって決めてたじゃねぇか。それを破りやがって」
ぺいんとがぽろっとこぼした言葉に引っかかった。
「なん、のこと…?」
「へ⁈あ、いや…」
「(やっぱり俺、嫌われてる…?)」
引っ込みかけた涙がぼろぼろと落ちていく。
「俺には、言えない…?………!っ、クロノアさん、今日は楽しかったです、ありがとうございましたっ。…あと、みんなごめんなさい…ッ!!」
ややこしいことになりそうで、この場をもっと困らせそうで俺は一礼だけしてその場から逃げた。
そしてそこからなんとなく、みんなのことを避けるようになっていた。
寮には戻らず、一人暮らししてる友達のところに泊めてもらったりしてできるだけ顔を合わせないようにしていた。
「トラゾー、仲間外れにされて拗ねてんの?」
「そうじゃ……いや、うん。そうなのかもしんねぇ…」
「…まぁお前鈍感だし天然タラシだしな。あの人らも気が気じゃないんじゃね?」
確かに毎日のように連絡はくるけど全部無視してる。
子供みたいなことしてるのは分かってるけど、除け者にされたことには傷付いてるから。
「鈍感とか天然タラシとか…俺違うし…」
「自覚ないからそう言われんの。ほらこれでも飲め」
渡されるオレンジジュースを飲む。
いつもは甘く感じるそれは苦い。
「みんなと友達でいたいだけなのに…」
唖然とした顔の友達は頭を抱えて首を振った。
「こりゃあ苦労もするわな。…でも、自覚はしてほしくないや」
「どういう?」
「取り合いされてるけど、トラゾーはみんなのトラゾーのままでいてほしいっていう話」
「みんなの俺って…?取り合いって、なに?」
「……いや、もうお前はそのままでいてくれ。頼むから、ずっと、永遠に」
友達の言うことは分からず、また一口ジュースを飲む。
それと同時に、インターホンを連打する音とドアを叩き割ると言わんばかりの音に驚く。
「うるさっ!」
「あ、おれ終わったかも」
「は?」
そっと俺の荷物をまとめ出した友達はそれを俺に持たせた。
「なになになに⁈」
「おれも命は惜しいんだ…」
立たされて玄関まで背中押される。
「ご近所からも苦情くるから……ごめん!!」
ドアを開けた先にはぺいんととクロノアさんとらっだぁさんが鬼のような形相で立っていた。
「ひぇ…!こいつのこともう返すんで!じゃあなトラゾー!!」
玄関先に追い出された。
友達に売られる気分ってこういう感じなのかと他人事のように考えていた。
「………俺の友達の家まで押しかけてどういうつもりですか。俺、今みんなと話したくないです」
「トラゾーを泣かせたこと謝りたいんだ。ちゃんと」
「トラゾーのこと傷付けたこと謝らせてほしい」
「トラのことなんも考えずに自分達なことばっか優先して考えてたこと謝らせて」
「「「ごめんなさいっ」」」
綺麗な謝罪の角度のお辞儀をする3人にたじろぐ。
ぐっと込み上げそうになるものを飲み込む。
「………許さないです」
「「「っ」」」
「でも、……今ここで許さないまま、友達じゃなくなるのは嫌です…」
3人がハッとして顔を上げた。
「……だから、肩パン受けてくれるなら許します」
「「「ぐ、……受けます、受けさせて下さい」」」
除け者にされたことの恨みと傷付いた分の悲しみを込めてそれぞれに肩パンをした。
リズム感よく各々が悲鳴をあげていたのは面白かった。
─────────────
俺の逃走劇はすぐに終わりを迎えた。
結局、みんなが何が原因で揉めてるのかは分からずじまいで。
「結局、あの3人は何取り合ってんですか?逃げてた時に友達にも言われたんですけど」
「……あの人らには同情しますが、トラゾーさんはそのまま何も知らないでいてください」
放課後、自分の教室からグラウンドを眺めていた。
隣には頬杖をついて同じように外を眺めるしにがみさん。
「えぇ…あいつと同じこと言う…。やっぱりなんか俺だけ仲間はずれ…」
眺める先にはぺいんととクロノアさんとらっだぁさんがまと何かしら揉めていた。
「俺がいなくても、楽しそうじゃん…」
友達が自分と仲のいい友達たちと楽しそうにしてるのを見てると、やっぱ寂しい。
しゅんとするとそんな俺を見たしにがみさんが窓を開けて急に大声で叫んだ。
「ぺいんとさーん!クロノアさーん!らっだぁさーん!トラゾーさんがまた寂しそうに拗ねてますよー!!…えー!!これから逃げるトラゾーさんを捕まえられた人には今日1日この人を独り占めしていい権利をあげまーーす!!」
しにがみさんの大声にジト目をしていたぺいんとと苦笑していたクロノアさん、引いていたらっだぁさんがぴたりと石像のように固まった。
そうかと思ったら校舎に方に向かって走ってきた。
「は⁈独り占めしていい権利ってなに⁈ってかうわぁあ⁈なんかめっちゃ走ってきたんですけど⁈」
「はい、拗ねトラちゃん頑張ってくださいね!」
すごい速さで校舎に近付いて来る3人。
「うわっこっち向かってきた!!なんか顔怖いし⁈ちょちょ…もう!しにがみさんのバカ!!」
「…えートラゾーさんを好きにしていい権利も追加しまーす!!」
吸い込まれるように中に入ってきた3人。
「に゛ゃ⁈うわうわうわ!!怖っ!捕まったら何されるか分からないから逃げます!!」
足の速さで撒けると思ってるけど油断してると捕まる可能性が高い。
教室を出て、とりあえず昇降口から反対の方向に逃げる。
「トラゾーさんせいぜい捕まらないように頑張ってくださーい!!」
そんな背後でしにがみさんが楽しそうに笑いながら応援にもなってない応援をしてきた。
「しにがみさんのせいでしょうが!!もう!!俺なんか好きにしてどうすんだよー!!」
わけが分からないのに、楽しいと思って口元が緩む。
でも、やっぱり友達は多い方が楽しいもんな!
コメント
4件
てぇてぇ…✨️ いやほんと微笑ましいというか幸せ過ぎてニヤけが止まりません私の口角返してください(?) trさん…この後捕まっちまったらいっぱい可愛がられるんだろうな
へ様、リクエストありがとうございました(*'ω'*) 大変遅くなってしまい申し訳ないです。 取り合ってるというよりじゃれあってる?感じになってしまいましたね…。 ご意向に添えていなかったらすみません💦