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萩原なちち
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「いっちゃん、どうだった?」
「……玉砕もいいとこよ」
俺は力なく応え、休憩室のソファに崩れ落ちた。その隣で、作戦に協力したしゅうとも、バツが悪そうに肩を落としている。
「え~、しゅうちゃんまで連れてったのに、そんなことある?」
面白がるようなりゅうせいの声が、今俺にはトゲのように刺さる。
「マジで、ダメだった。もう心折れて死にそう……」
他人の恋なら面白半分で首を突っ込み、器用に立ち回って成就させる自信がある。なのに、いざ自分のこととなるとどうだ。今日はあろうことか、自分から嫌われに行ったようなもんだった。
「あの人、何しても効かへんねん」
しゅうとが悔しげに口を開く。
「僕が最初にいっちゃんやミレイの関係を匂わせて、焼きもちを焼かせるように煽ってみたんです。いっちゃんが気がある素振りも見せた。なのに、あの人、ぜんっぜん表情変わらへんかった……」
「それに追い詰められて、しゅうと……俺が『女の子にしか興味ない』とか言っちゃったんだよ。興味ない奴のところに、こんな一生懸命通うわけねぇだろっての」
いつきの自嘲気味な言葉に、しゅうとは深く頭を下げた。
「ほんと、僕の力不足です。もっとどういうタイプかリサーチしてから行けばよかった」
「いや、しゅうとは頑張ってくれたよ。……俺が初めから一人で行って、素直に告っとけばよかったんだ。ビビって周りくどく地盤を固めようとした結果がこれだよ」
その様子を見て、りゅうせいはついに耐えきれず吹き出した。
「うわぁ、いっちゃんマジで凹んでんじゃん!」
「笑いすぎだろ……。自分が上手くいってるからって面白がるなよ」
恨めしげに睨むが、りゅうせいの笑いは止まらない。
「でも、そんなにいい子なんだ? いっちゃんなら、もっとガンガン攻め落としそうなのに」
「いつきくん?……俺、今回は本気なんすよ。珍しいんすよ。ちゃんと芯を持ってて、それを形にしてる子って。その上に、めちゃくちゃ顔が可愛い子で……。年齢も近いし、話しやすいし。マジで尊敬できるし、笑顔も可愛いし喋り方も可愛いんすよ」
「いっちゃん、さっきからほぼ『可愛い』しか言ってないね」
呆れたように笑ういつきくんに、「だって本当なんだもん」と心の中で呟く。
可愛いければ何でもOK、というのは元々のスタンスだ。けれど、実際には男を好きになったことなんて一度もなかった。これまでは半分ギャグのように言っていたセリフが、今や自分の胸にブーメランのように突き刺さっている。
「でも、本当に女の子みたいな顔してたよね。まつ毛が濃くて、バチーンって上がってて。瞳もキラッキラでさ。あの癖っ毛も反則だし、身体だって華奢だし……。しゅうちゃんのママに見つかったら、絶対女装させられてるよ」
「……確かに。僕の可愛さを、優に超えるものを持っている気がする」
「あ、自分で『可愛い』って言っちゃうんだ」
「はぁ? 何言ってんの? 俺の天使ちゃんより可愛い子なんて、この世にいないはずなんだけど」
強気なだいきくんの言葉に、それまで黙っていたいつきくんが小さく反論する。
「……だいきぃ、ここにいるから」
コソッと横目で見せたその視線は、明らかにりゅうせいを指していた。
「……でも、絶対俺のこと好きだと思ってたんだけどなぁ」
一人で帰りながら、黙々と考えていた。
一緒に飲みに行ったあの日。緊張してご飯が喉を通らないくせに、空きっ腹に大量のシャンディガフを流し込んだ。思いの外酔いが早く回って、途中から何を話したか記憶がない。
正直、人からの好意は嬉しい。ゆうたさんが俺を見る目も、絶対に「それ」で。あの時はまだ恋愛対象とまでは考えていなかったけれど、話を聞くたびに「すげぇ」という尊敬に変わり、彼こそが俺を理想の生き方へ連れて行ってくれる人だと確信した。
まだ若いのに、いつも冷静で優しくて。時折見せる素顔がたまらなく可愛くて。人として、もっと彼のことを知りたいと思っていた。
いつもならここで諦めるけれど、今回だけはもう少し頑張りたい。
だって俺、泥酔してたくせに、ゆうたさんに家、教えているんだぜ?どんだけ酔っても他人に家を教えたことなんてなかったのに、「お家に帰りましょう?」っていうあの心地いい声に、あ、教えなきゃってすぐに反応したことだけは覚えている。
それくらい、俺の「本当の自分」がゆうたさんに心を許していた。エレベーターで目が覚めて、「あ、好きだ」って直感がした。だから一緒に、家に帰りたかったんだ。
「……いつきさん? お仕事帰りですか?」
「えっ!? ゆうたさん!?」
不意に声をかけられて飛び上がる。
「あ、一緒に駅まで行きますか?」
「はい! 喜んで!」
「ふふっ。居酒屋のお兄さんみたいですね」
あぁ、可愛い。俺の大好きなゆうたさんの笑顔だ。
というか、わざわざこっちの方向を通って……俺、ストーカーかよ。
「あの、今日はすみませんでした。あんなことになるとは思ってなくて」
「いえ、僕も大人げなくあんなこと言ってしまってすみません。しゅうとさんは冗談で和ませようとしてくださったのに、ムキになってしまって……。本当に、ごめんなさい」
俺の好きなゆうたさんの笑顔が消えてしまった。
こんなに優しくて繊細な人だって分かっていたのに。あんな回りくどいことをして、傷つけて、俺は何をやっているんだ。
「俺、ゆうたさんのことが好きです。……俺と付き合ってもらえませんか?」
「えっ!?」
いや、ムードもへったくれもない。なんでこんな道端で告白してんだよ、俺は!
「……あの、返事はいつでもいいので。無理だったら、無理でも全然。でも! できれば、無理でもお友達でいたいです。本当に……俺、そういうの関係なく、友達になれるタイプなんで」
「あ……! はい、ふふっ」
ぐわぁ……可愛い……!!
さっきまでの暗い笑顔とは全然違う。幸せオーラが出まくりじゃないか。
分かりやすくて、可愛すぎるだろ!