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萩原なちち
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「では、また明日」
「あ……明日?」
「はい。明日も、ご迷惑じゃなかったらお店に行きます。今度は一人で」
「……はい。お待ちしてます」
ゆうたさんが見えなくなるまで、大きく手を振る。
昼間はすぐに目を逸らされてしまったけれど、今は俺が見えなくなるまで手を振り返してくれた。よかった……昼間の失態、なんとか取り返せたぞ!
安堵したのも束の間。帰宅してスマホを見ると、ゆうたさんからLINEが届いていた。
『今日はありがとうございました。とても嬉しかったです。びっくりしてしまって、すぐにお返事できなくてすみません。僕は女性が好きなので、いつきさんのこと、恋愛対象には見られません。ごめんなさい』
待てよ! 俺、速攻でフラれてんじゃん!!
告白して一時間も経ってないんだぜ!?
「……ぜってぇ諦めねぇ」
指が勝手に動く。
『わかりました。まずはお友達としてお付き合いしてくださると嬉しいです。あと、起業に興味があるので、今度ゆっくり相談に乗ってもらえませんか?』
『もちろん、僕でよければ』
『では明日、閉店時間にお迎えに行きますね?』
『お誘い早すぎませんか?(笑) わかりました、お待ちしております』
よし! ゆうたさんが笑っている姿が目に浮かぶ。
俺の持ち味はスピードだ。ゆうたさんの中の俺への熱が冷めてしまう前に、勝負を決めなきゃ。一気に畳み掛けてやる。
「……こんばんは。お店、忙しかったですか?」
翌日。閉店後少ししてお店に飛び込む。
「あ、いつきさん。すみません、バタバタしてしまって」
「あ、じゃあ鍵閉めときますね」
「すみません、ありがとうございます!」
必死なのを悟られないよう、外で待とうと思っていたけれど、三十分経っても一向に彼が出てこない。看板はとっくに「CLOSE」になっている。もしかして早く帰った? 約束を忘れられた?
焦ってドアを開けると、そこには山積みの段ボールを抱えて階段を上がるゆうたさんの姿があった。
二階が、倉庫になっているのか。
「お手伝いしますよ」
スーツの上着を脱ぎ捨て、ワイシャツの袖をまくり上げる。
「うわ、服ってこんなに重いんだ……」
他にもやることは山ほどあるだろうに、これをずっと一人でやっていたのか。本当にえらいな、ゆうたさんは。
「えっ! いつきさん、ありがとうございます!」
「いえ。これ、こっちに置けばいいですか?」
「はい、本当に助かります」
俺が荷物を積んでいくのを、ゆうたさんが楽しそうに笑って見ている。
……うわ、可愛い。告白した後だから、余計に愛おしくてたまらない。
「……いつきさんって、大きいですね。僕、もうちょっと背が伸びる予定だったんですけど」
隣に並んだゆうたさんが、僕の肩あたりを見上げながらポツリと呟いた。
目の前で背伸びをして、一生懸命に目線を合わせようとしてくる。
なんなんだ、この可愛さは。……俺に、キスしてほしいのか?
「いくつあるんですか? 身長」
「170センチで止まっちゃいました。せめてあと3センチ欲しかったんですけど」
「……俺は、ちょうど抱きしめやすくていいと思います」
「あっ、いつきさん……っ」
気がつけば、ゆうたさんの腰に腕を回して、ぎゅうっと自分の方へ引き寄せていた。
だめだ。もう俺、自分を止められないかもしれない。
「……ほら、ちょうどいい。俺の腕の中にぴったりだ」
「……僕、荷物いっぱい運んだから、汗臭くて……恥ずかしいです」
「俺の方こそ、一日中外回ってたからヤバいと思います」
あー、ヤバい。違う意味で、本当にヤバい。
ゆうたさんの首筋に顔を埋める。汗の匂いと、ふんわり香る柔軟剤が混ざり合って、鼻の奥を強烈に刺激する。ずっと嗅ぎ続けていたら、理性が粉々に砕け散ってしまいそうだ。
「……昨日の返事、冗談でしょ?」
「え、いや……本当です。さ、最近、気になる人もできて」
「……それ、俺のことでしょ?」
「……違います。僕は女性が好きで、いつか、本当に好きになった人と幸せな家庭を作るのが夢で……」
「俺だって、同じです。女性しか好きになったことはないし、幸せな家庭も作りたい」
「……冗談だったんですか? 僕を好きって言ってくれたの」
俺の腕から逃れて、ゆうたさんが涙目で俺を見つめてくる。
あぁ、面倒くさい。この、拒絶しているようで縋り付いているような瞳が……たまらない。
「……俺は、初めて男の人を好きになって、正直戸惑ってます。今の今でも、どうしていいか分かってない。でも、相手が男だろうが女だろうが、先のことがどうなるかなんて誰にも分からない。ただ、好きになった人に気持ちを伝えたいし、一緒にいたいし、触れていたい。……ゆうたさんのことが本当に好き。それだけじゃ、ダメですか?」
あ、思い出した。
俺、前の彼女にこんな感じで持論をぶちまけてプロポーズして、速攻で振られたんだった。こわ。デジャヴすぎて、今さら手が震えてきたんだけど。
「……ごめんなさい。本当に、いつきさんの気持ちには……」
なんだよ! さっきまであんなに好きそうな顔してたくせに!
もう、どうしてほしいんだよ!!
「じゃあ、いいです。付き合ってくれなくても。……俺の好きなようにさせてもらうから」
「だめ、いつきさん……っ!」
ゆうたさんを壁に押し付け、無理やり唇を奪った。
抗う声を飲み込み、舌をねじ込んで口内を蹂躙する。貪るように味わっていると、かすかに鉄の味がした。……ヤバい、やりすぎた!!
「ご、ごめんなさい……! 口、痛くないですか!?」
我に返って、慌てて顔を離す。
けれど、そこには拒絶の表情なんてなかった。
ゆうたさんは、蕩けたような瞳で俺を見上げ、呟いた。
「……だめって言ったのに……反応しちゃったじゃん」