テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ミセスの初ドーム公演の一日目が終わり、僕たちのこだわりのビジュアルが、大きな話題となった。
こぞってネット記事が上がり、ファンの間では、僕のことを『女神』とまで称してくれる人たちもいた。
二日目の公演終了後、たくさんの人が楽屋へ挨拶に訪れてくれた。顔馴染みの人から、始めましての人まで、様々な挨拶がところどころで交わされている。
「藤澤涼架さん。」
僕は、突然、声をかけられた。初めましての方で、失礼ながらどなたか存じ上げなかった。僕の不安げな表情で察したのだろう、その人は名刺を差し出してきた。
「私は、写真家兼芸術家として活動しています、カゲヤマと申します。」
「あ、写真家さん、ですか、失礼いたしました。」
「いやあ、昨日あなたの記事を拝読しまして、これはぜひ観に行かなければ、と無理を言って今日来させていただきました。」
「そうだったんですね、ありがとうございます。」
「記事で拝見したよりも、何倍も素晴らしい。本当に、女神のような仕上がりですね。」
「あは、ありがとうございます、ちょっと恥ずかしいですね。」
「…うん、笑顔の方がやっぱり素敵だ。」
「そうですか?僕、笑うと台無しになるってよく大森たちにも言われてるんですけどね。嬉しいです、ありがとうございます。」
「それは酷い。私は、貴方の笑顔に惹かれて、ここに来たんですよ。どうでしょう、ぜひ、私と一緒に仕事をしていただきたいのですが。」
「お仕事、ですか?」
「ええ、写真でもいいし、藤澤さんなら、絵画でもいけそうですね。」
「あ、モデルさんってことですか?えー、どうだろ、僕にできるかな〜。」
「貴方がいいんですよ、涼架さん。」
真っ直ぐに見つめられて、ドキッとする。
「…失礼。涼架さん、とお呼びしてもよろしいですか?」
「あ、は、はい。涼ちゃんでも全然、はい。」
「はは、可愛いですね。涼架、というお名前も本当に素敵です。ぜひ、涼架さんと呼ばせてください。」
「あ、はい。」
なんだか、とても紳士的な方で、スタイルもいいし、とてもかっこいい顔立ちをしている。芸術家らしいおしゃれなファッションに、肩下まであるウェーブがかった髪を、後ろで一つに括っている。
「お仕事の事は、どなたにご相談すれば良いのかな? 」
「あ、あっちの統括マネージャーに」
「私にも、相談してください。」
横から突然声がして、そちらを見ると、元貴が立っていた。
「…どうも、初めまして、大森元貴さん。」
「初めまして。ミセスの総合プロデューサーの大森元貴です。」
「ああ…そうなんですね、プロデュースも。」
「はい。ですので、メンバーへの仕事は、全て私にも通してもらっています。藤澤へのご用件は?」
「実は、今度、私の個展が開かれましてね。そこへの作品に、涼架さんにぜひ参加していただきたくて。」
カゲヤマさんが、持参した資料を元貴へ手渡す。
「個展、ですか…。写真ですか、絵画でしょうか。」
「決めかねておりましてね。今日お会いして、あまりの素晴らしさに、ぜひ両方ともにご協力いただけたらと思うのですが…。」
「絵画のモデルは、束縛期間が長いですよね?それに、この人じっとしてられませんよ。」
「元貴…!」
僕が小声で元貴に抗議すると、元貴はジロッと僕を睨んできた。
「あはは、構いませんよ、絵画は写真を見ながらじっくりと完成させますから。写真を撮るのは一日で済むと思います。」
「…そうですか。では、マネージャーとスケジュールの相談をしましょう。」
「いえ、私一人で結構ですよ、プロデューサー。」
カゲヤマさんは、手で元貴を制して、資料を受け取ると、さっさとマネージャーの方へと歩いて行ってしまった。元貴はしばらく彼を見ていた、というより睨みつけていたと思うと、僕の方へ振り向いた。
「あのね涼ちゃん、よくわかんない人と勝手に仕事の話したらダメでしょ。」
「え、いや仕事の話っていうか…。」
元貴が、はあー、とため息をつく。
「ただでさえ、昨日今日で涼ちゃん目当ての輩が来てるってのに…ったく…。」
ブツブツと何か文句を言っているが、僕はなんだか、信用されてないような、まるで子どもにでも言い聞かせるような元貴の態度に、少し反抗心が芽生えた。
「…ミセスのプロデューサーだからって、何もかも元貴に管理してもらわなくても…。」
「え?」
「僕も、マネージャーと話してくる。僕に来たお仕事だし。」
ぷい、と踵を返して、マネージャーとカゲヤマさんの元へ急いだ。元貴に、あんな風に反抗するのは、初めてだった。相当嫌な感じだったな、元貴怒ってるだろうな。だけど、僕だってもうミセスとして、7年、8年?あれ、結成何年目だっけ。まあとにかく、一人でも立派に仕事だってこなせるんだから。
「お待たせしました。」
「ああ、涼架くん。ちょうど今、スケジュールの調整してるんだけど」
「この日はいかがですか?」
カゲヤマさんが、マネージャーの持つタブレットの、スケジュール表を指差す。それぞれの名前が、色分けされて細かい時間帯で分けられている。これは人に見られても大丈夫なように、詳しい仕事内容は書かれていないやつだ。
「元貴も若井も仕事の日ですか?」
「うん、ちょうど涼架くんだけ空いてるし、カゲヤマさんもどうしてもこの日しか難しいらしくて。どう?」
「うん、もちろん。一人でお願いされたお仕事だし、大丈夫です。」
「よかった。では、後ほど、私のアトリエの場所と、依頼内容を書面にてお送りさせていただきますね。」
「よろしくお願いします。えーでは、ご契約についてですが…。」
マネージャーたちの話が本格的になったので、僕は会釈をしてその場を離れようとした。遠くから、色々な人に話しかけられている元貴が僕を見ている。
「…マネージャー、僕のこの仕事、元貴にはいつどこで、とか言わないで。」
「え?どうして?」
「元貴のプロデュース抜きで、僕だけのお仕事としてやってみたいんだ。だからお願い。」
「んー…まあ、ミセスとしては絡んでないし、藤澤涼架としてなら、元貴くん無しでも大丈夫かな?」
「もちろん、大丈夫だから。」
「はーい。」
僕は、何にこんなに必死で反抗してるのかわからないけど、とにかく一人でも出来ることを示したかった。僕の人生に、元貴が必要なわけではないと、確認するかのように。
しばらくして、カゲヤマさんとの仕事の日がきた。統括マネージャーによると、今日は、元貴と若井はスタジオでギター録りがあるらしい。
僕は、あえてこの日を選んだ。元貴がいなくても、若井がいなくても、僕は僕だけでもやれるんだから。
カゲヤマさんのアトリエは、高級別荘地の中にあった。静かな自然の中で、一際大きなデザイナーズハウスらしいその建物は、まるでそれが一つの美術品であるかのようだった。
「お待ちしておりました、どうぞ。」
「本日は、よろしくお願いいたします。」
「よろしくお願いします。」
今日僕に付いてくれる現場マネージャーと共に、僕はアトリエへ入る。
「申し訳ありませんが、作業に集中したいので、出来れば外へ出ていて欲しいのですが…。」
カゲヤマさんが、マネージャーに向かって言う。
「いえ、こちらの規則で、タレントを置いて現場を離れるわけにはいかないんです。すみませんが、別室待機という形でお許し願えませんか。」
「そうですか…わかりました、それでお願いします。」
カゲヤマさんは、飲み物を取ってきます、と、僕たちを応接間らしき部屋に残して出て行った。
「すごいね、藤澤さん。映画のセットみたいな家だ。」
「ね、すごい素敵。僕ドキドキしてきちゃった、大丈夫かな。」
「藤澤さんなら、大丈夫ですよ。モデルさんなんて素敵じゃないですか。頑張って!」
「ありがとう、頑張るね!」
カゲヤマさんが戻ってきて、いい香りのするハーブーティーを出してくれた。
「涼架さん、緊張されてますか?どうぞ、リラックス効果のあるハーブですから。」
「いい香り…、いただきます。」
僕とマネージャーは、香りを楽しみながら、お茶をいただいた。ほう、と一息ついて、本当に少し緊張が解けたみたいだ。
「では、マネージャーさんには、こちらで待機していただいて。涼架さん、こちらへ。」
「あ、私も一度現場を確認させていただきます。」
マネージャーが立ち上がり、一緒に行こうとする。
「わかりました、こちらです。」
一際立派な扉を開けると、とても広い部屋に、ソファーが置かれ、天井から色とりどりの布が垂れ下がっている場所や、小物が置かれたテーブル、イーゼルに真っ白なキャンパスと横の丸いテーブルには数々の筆や画材が置かれていた。壁の一面が、大きなガラス窓になっていて、外からの柔らかい光がソファーを優しく照らしている。アトリエであり、撮影スタジオでもあるような、不思議な魅力のある空間だった。
「今日は、ここで涼架さんを撮影して、後ほど、マネージャーさんにも仕上がりを確認していただくという感じになります。」
「なるほど、わかりました。藤澤さん、大丈夫そう?」
「うん、ありがとう。一人で大丈夫です。」
「何か必要ならすぐ呼んでね。では、先ほどの部屋へ戻ります、失礼します。」
マネージャーが深くお辞儀をして、頑張って、と言って応接間へ戻って行った。
「どうぞ。」
背中に手を添えられ、まるでお姫様が王子様にエスコートされるように、アトリエへと入って行った。
「まずは、メイクとヘアーの方を、私の作品イメージで作らせてもらいますね。」
「あ、はい、よろしくお願いします。」
アトリエの一角に、メイク室のような区切られた部屋があった。
カゲヤマさんは、ミセスのメイクさんたち同様に、僕の顔や髪をじっくりと見つめて、道具をあれこれと変えながら、僕に彩を添えていく。
「…うん、いい出来だ。では、こちらの衣装に着替えて、アトリエへ出てきてください。」
ハンガーに吊られている服を指して、カゲヤマさんはそっと出て行った。
真っ白なその衣装は、キャンバス地を基調として、レースやビジューがふんだんにつけられた、一見するとウェディングドレスのような、でも絵を描く為のキャンバスのような、不思議な服だった。
「これで大丈夫でしょうか?」
僕が着替えを終え、おずおずとメイクコーナーから出ると、カゲヤマさんは手を打った。
「素晴らしい! 私の理想通りです! では、早速ソファーの方へ。」
衣装がかなり重量があり、裾が広がるズボンの為、なかなかに歩きにくい。フラフラとした足取りで、なんとかソファーに辿り着いた。なんだか、頭もクラクラしてくる。
「涼架さん?」
「はい…。」
夢とも現実ともわからぬ空間に、ふわふわと漂っているような感覚に陥る。
カゲヤマさんが僕の両手を取り、後ろ手に回した。と同時に、カチカチ、と音が鳴り、手首に違和感を覚えた。なんだ…?と朦朧とする意識の中で後ろに目をやると、僕の両手首が、大きめの結束バンドで留められていた。
「少々、動きを制限させてもらいますよ。まあ、もうあまり動けそうにないでしょうけど。」
「…え…?」
その言葉も、なんだか遠くから聞こえるような、全ての感覚が鈍るような、変な感じ。
「さっきのハーブティー、美味しかったですか?」
「…まさか…。」
「ふ、今頃、マネージャーさんも夢の中でしょうね。」
画材をいくつか触り、何かの用意をしながら、カゲヤマさん、いや、カゲヤマがそう呟く。
僕とマネージャーの飲み物に、何か入れられていた…?でも、なんで…。
「さあ、誰にも邪魔されず、私たちの作品を作り上げていきましょうか、藤澤涼架さん。」
カゲヤマが、絵の具らしきものが入った器を手に取り、僕を振り返る。
「貴方の物語の始まりは、実にドラマチックですね。大森元貴に、ひと目見て気に入られ、バンドに誘われた。」
カゲヤマが歩み寄ってくる。
「彼の色は、そう、紅、ですね。出会った時に、貴方は彼の感性に染められた。」
そう言って、僕に向かって紅い絵の具をぶちまけた。キャンバスになっている僕の衣装に、紅が飛び散る。
髪や顔にも、少しかかった様で、前髪からぽた、と紅い雫が落ちる。
「うん。そして、その後、もう一人の大切な彼にも出逢いますね、若井滉斗。彼もまた、今や貴方にとっては、もはや人生の一部と言ってもいい存在のようですね。」
また、別の器を取って僕の元へ近づく。僕は、身体を支える力も出ず、ぐったりとソファーにもたれかかるしかなかった。
「彼の色は、藍。深い愛の色だ。それが、徐々に貴方を包み込む。」
上から、少しずつ藍を垂らして、また僕の身体を彩る。紅に藍が重なっていく。
「ああ、しかし悲しいな。出逢いもあれば、別れもありましたね。まずは、松尾拓海くん。」
僕は、目を見開いて、カゲヤマを睨んだ。…つもりだけど、きっと力無く視線を向けただけになっているだろう。
「彼との別れは今のあなた方を形作る為には必然だった、そうなのでしょうね。彼の色は、ベースの色にしましょうか。」
黄土色のような絵の具を、僕の足元に投げる。ズボンの裾が、びしゃりと濡れた。
「さらに別れは訪れる。高野清宗、山中綾華。」
僕は、僕たちのこれまでをカゲヤマに侮辱されているように感じて、悔しくて涙を零した。そんなことはお構いなしに、僕の両肩にそれぞれ、紫とピンクを垂らしかける。
だんだんと衣装に水分が染み込み、不快な感覚が僕にまとわりつく。
「さあ、そして現在の貴方だ。貴方は今、紅に酔いしれていますね。大森元貴に、恋をしている。」
僕が力無く見上げると、カゲヤマは何度も頷く。
「わかりますよ、貴方がたをひと目見ただけで。私はそういう感覚に優れていましてね。」
そっと、僕の顔に手を添え、瞳を覗き込む。
「まあ、無理もない。あのような才能の塊を間近で見ていて、心が動かないわけがない。貴方は、あの強く儚い紅に、溺れたのですね。」
カゲヤマが、いつの間にか手にしていた赤ワインを口に含み、僕の顔を両手で包むと、上からその唇で僕の口を塞いだ。カゲヤマの口から、赤ワインが流し込まれる。僕は必死に抵抗しようとするが、口はだらしなく開くばかりで、飲み込まないようにするので精一杯だった。
「…っげほっ!うぇっ…!」
カゲヤマが顔を離した瞬間に、全てを吐き出す。気持ち悪い…。苦しむ僕の髪を掴んで、顔を無理矢理上げさせる。その瞬間、口の中に白い薔薇を捩じ込まれた。その上から、白いスカーフで猿轡の様に口を塞がれた。
「ぅぐ…っ」
「苦しいですね、叶わない恋は。貴方の想いは膨れ上がるばかりで、吐き出すこともできない。しかし、だからこそ貴方はこんなにも美しい…。」
僕が苦しみの表情で、ソファーに項垂れ、肩で息をしていると、カゲヤマはカメラを構えた。
「そう…そのまま、そのままの醜くも美しい貴方を作品に遺したい…。」
シャッターを押す指が動く前に、玄関の方から騒がしい音が聞こえてきた。ドアを叩く音が、けたたましく響く。
『カゲヤマさん!!!』
『カゲヤマさん、すみませーん!!!』
統括マネージャーと…若井…の声?
カゲヤマが、苦々しく音の方を向いて、舌を打つ。カメラを画材テーブルの上に置き、玄関の方へと歩いて行った。鍵を開けず、ドア越しに外へと声をかける。
「どちら様ですか?」
『カゲヤマさん、Mrs. GREEN APPLEの統括マネージャーの坂田です!うちの藤澤に付いているマネージャーの仲村と連絡が取れないのですが、そこにおりますでしょうか?』
「…いえ、外に出ておられますね。私は知りません。」
『ですが、こちらの位置情報では、このアトリエに仲村がいるようなのですが、中に入れていただけますでしょうか。』
「スマホでも忘れているのでしょう。私は今、作業中ですので、失礼しますよ。」
『涼ちゃん!!!!』
若井の声がする。僕は、声を上げたいけれど、口を塞がれているので、呼吸をするのもやっとだ。助けて、助けて…。
『涼ちゃん!!??いるんでしょ!!?? 大丈夫!!??返事して!!!』
「失礼ですね、貴方たち。いい加減に…。」
『警察呼びますか?よろしいですよ、呼びましょう!』
統括マネージャーがカゲヤマを牽制する。
「…お待ちください、仲村さんの忘れたスマホを探してきますよ。」
カゲヤマが、イラついた様子で、現場マネージャーの眠る部屋の方へと姿を消す。
『あ!元貴!!』
不意に、若井の声が聞こえた。
元貴…?
僕がボーッとする頭で考えた瞬間、ソファーの背後の一面の窓から、人影が伸びた。と同時に、耳をつんざくほどの衝撃とともに、窓ガラスが割れた。
「涼ちゃん!!!!」
元貴が、割れた窓から部屋の中へ駆け込んでくる。僕の姿を見て、一瞬慄き、すぐに怪我がないかだけを確かめた。
「涼ちゃん!涼ちゃん!?」
優しく身体を起こし、僕の口に嵌められたスカーフを解く。
「…ぅえっ…!」
口から、白い薔薇を吐き出すと、元貴の顔が怒りに満ちた。
「…困るよ、勝手に作品に手を出しちゃ。」
部屋の入り口から、カゲヤマが元貴に吐き捨てる。
「作品…?ふざけんな…。」
元貴が怒りに震えている。まずい、カゲヤマに手を出すかもしれない、止めないと…!でも、僕の身体はどうしても言うことを聞いてくれない。
「も……とき…。」
僕の弱い声は、届かない。元貴が、窓を割った時に使用したのであろう、大きな石を両手に持ち、カゲヤマへ向かって振りかぶった。
「元貴やめろ!!」
後ろから、今度は若井が駆け込んできて、元貴を羽交締めで止める。統括マネージャーが元貴の手から石を奪う。元貴は、若井に制止されながら、肩を大きく揺らして呼吸を乱している。
これだけの人間に入り込まれ、カゲヤマも観念した様に大きく息を吐いた。
「…この事は、お互いに不問としましょう。」
「不問だ!?ふざけんな!警察に突き出してやる!!」
「元貴くん!…涼架くんのことも考えて…。」
統括マネージャーの声に、元貴は僕を振り返る。僕の被害を白日の元に晒す訳にはいかないと、マネージャーが首を振る。
元貴は、カゲヤマに向き直り、震える声で言う。
「…スマホ出せ。あとあのカメラも。」
カゲヤマは、肩をすくめて、両方を元貴に手渡す。
「まだなにも撮影していませんよ。」
カゲヤマのそんな言葉には耳を貸さず、元貴は床に二つを置くと、先ほどの石で叩き割った。若井が、うわ、と顔を歪める。
「金輪際、涼ちゃんに関わるな。もちろんミセスにもだ。」
「…わかった。」
統括マネージャーが、応接間から現場マネージャーを支えて出てきた。彼も、足元がおぼつかず、僕と同じ状況である事は明らかだった。
「行こう、涼ちゃん。」
元貴と若井が、アトリエにある鋏で結束バンドを切ってくれ、両側から僕を支えて玄関に向かう。
「君はどちらの色を選ぶのかな。」
背後から、カゲヤマの声が響いた。僕は振り向かず、二人に支えられ、外へと歩いていった。
コメント
22件
もう最高です!!更新待ってます!!
ドラマみたい✨そしてカゲヤマが変態で狂気だ。ここまで調べあげてご本人様に披露するなんて女神に魅せられるってスゴい…。💛ちゃん、❤️さんへの気持ちを吹っ切りたかったんですよね。そう思ってる時点で全然忘れられてないけど😅 ❤️さんも💛ちゃんへの気持ちに気付いたのか確信を持ったのか。💙さんの活躍が今回控えめだったのも気になる!次回がまた楽しみです✨