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夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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西原衣都
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猫塚ルイ

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「ど、どうして京極さんがここに……?」
状況が飲み込めない羽衣子が戸惑い気味でいると乙哉がそれに答える。
「このホテル、七鳯組が管理してる場所なんだよ」
「え……?」
「何かあった時の隠れ蓑に使う場所の一つって感じかな」
乙哉の話を聞いた羽衣子は呆然とする。
まさかそんな場所があるとは思わなかったからだ。
「一応付いてきた車は撒いたけど迂闊に自宅へ戻るのは危険だからひとまずここで待機って指示が出たから連れて来たんだよ」
「…………」
そんな羽衣子を見た昴は、車の窓越しに静かに言った。
「吾妻さん、希海とこちらの車へ」
「……はい」
羽衣子は頷き、ぐったりした希海を抱き抱えながら車を降りた、その瞬間。
「……トイレぇ……」
掠れた小さな声が聞こえた。
「希海くん?」
「トイレいきたい……」
熱のせいか顔色は悪く、今にも泣きそうになっている。
それを聞いた昴はすぐに小さく息を吐いた。
「……仕方ありませんね。一旦部屋へ入りましょう」
そうして三人はホテルの裏口へ回ることになった。
表とは違い人目につかない静かな通路、従業員用らしきエレベーターへ乗り込み、そのまま最上階へ向かい、案内されたのは廊下の一番奥にある部屋だった。
羽衣子は中へ入った瞬間、少しだけ目を瞬かせる。
(……普通、だ)
部屋の中はラブホテルらしい派手さはほとんど無く、落ち着いた色味で統一されていて高級マンションの一室のような空間になっている。
「ここは、一般客が泊まる部屋じゃないんですよ」
何か言いたげな羽衣子の視線に気づいたのか、昴が説明する。
「万が一の時用に確保している部屋なので」
「そう、なんですね……」
「吾妻さんは座っていてください。希海は私がトイレに連れて行きますから」
「あ、はい」
希海を受け取り共にトイレに向かった昴の背を見送った羽衣子はキョロキョロと辺りを見回すも、説明通り一般的なホテルの客室そのもので自分が今、ラブホテルに居ることを忘れそうになる。
そして、トイレを済ませた希海は戻ってきた途端ふらふらと羽衣子へ寄りかかる。
「ねむい……」
「そうだね、眠いよね」
羽衣子が優しく頭を撫でると、希海はうとうとしながら目を擦った。
その姿を見た昴が低く言う。
「まだ安全確認が取れていないので暫くここで待機しますから、希海は寝かせておきましょう」
「……分かりました」
昴の言葉に頷きベッドの布団を捲ると、希海をそっと寝かせた羽衣子はその隣へ腰掛け小さく息を吐く。
一方昴は少し距離を取るようにソファーへ腰を下ろした。
部屋に静寂が落ち、聞こえるのは空調の音と、希海の穏やかな寝息だけ。
いくらホテルに居るからと言って当然ながら、何かが起こるわけではない。
希海も眠っているし、こんな状況で変な空気になる方がおかしい――それなのに。
(……なんで、こんなに意識しちゃうんだろ……)
羽衣子は無意識に指先を握り締めた。
同じ部屋の中、しかもベッドとソファーという距離感が妙に落ち着かない。
視線を向けないようにしていても、ソファーに座る昴の姿がどうしても気になってしまう羽衣子。
意識しないようにするほど、余計に存在を感じてしまった羽衣子は誤魔化すように眠る希海の髪をそっと撫でながら、熱くなる胸を必死に落ち着かせていた。
それから暫くして、静まり返っていた室内に小さな電子音が鳴った。
それは昴のスマートフォンで、ソファーに座っていた彼がすぐに電話に出た。
「……ホテル周辺は?」
『問題ありません。自宅周辺も確認済みです。現在のところ、不審な人物や車両の動きもないです』
「そうか」
『引き続きこちらでも警戒は続けますが、今夜は一旦大丈夫かと』
「了解。ご苦労だった」
そして通話を切った昴は小さく息を吐いた。
「……ひとまず、怪しい動きは無いらしいので、帰りましょう」
「……本当ですか?」
「ええ。ホテル周辺も自宅周辺も確認済みです」
そう言ってから昴は少しだけ表情を緩めたので、羽衣子の中の不安が消えたわけではないけれど、昴がそう言うのなら大丈夫なのだろうと安心できる自分がいた。
結局、その日は何事もなく終わり、そこから数日も特に問題無く過ぎていく。
ただ、いつまた尾行されるかも分からない状況下にあるので、自宅は別の場所に移した方が良いということで、今週末、急遽別の場所へ引越しをすることになった。
その準備に追われつつも日常を過ごし、引越し前夜の金曜日。
時刻はもうすぐ深夜を回る頃、昴は仕事の都合で帰宅が遅くなると連絡を入れてきていたので、希海を寝かしつけた羽衣子はそのままうとうとして眠ってしまっていた。
あの日以降、昴が帰って来るまでは乙哉が家に居てくれるようになっていた為、羽衣子の不安はかなり軽減されていて、普段通りの生活が出来ていた。
そして深夜、リビングのソファーでうとうとしかけた乙哉。
持っていたスマートフォンを落としかけた、その時、ガシャァンッ!!!という突然響いた轟音に、乙哉は勿論、羽衣子と希海も目を覚ます。
それは窓ガラスが砕け散る耳障りな音で、寝起きの羽衣子は一瞬、何が起きたのか理解出来ない。
「な、に……!?」
隣で希海も怯えたように目を覚まし、小さく震える。
「ういちゃ……?」
「大丈夫、大丈夫だから……!」
そう希海を落ち着かせようと羽衣子が言葉を発した直後、寝室の扉が勢いよく開いた。
「羽衣子ちゃん、希海!!」
飛び込んできたのは乙哉で、鋭い表情のまま二人の前へ立つと、即座にスマートフォンを耳へ当てる。
「昴さん、侵入された。今どこ!?」
その瞬間だった。
バタバタバタと荒々しい足音が廊下に響き、羽衣子の背筋が凍る中、寝室の入口に二人の黒づくめの男が姿を現した。
コメント
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うわ、このタイミングで窓ガラス割っての侵入……! しかも昴さんが不在の深夜に、ってのがまた嫌な感じですね。乙哉がいてくれて本当に良かったけど、黒づくめの男が二人も寝室に現れるシーンは背筋が凍りました。ラブホテルの部屋で昴さんを意識しちゃう羽衣子さんの心情も可愛くて、日常パートと緊張パートの緩急が効いてて引き込まれました。続きが気になります!