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레몬인
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そあち♡໒꒱
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なんたろ
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「へっへっへ……。名刺はやっぱり、黒を基調としたマットな質感に、金の箔押しで『代表取締役・秋谷雪』だな」
北海道、帯広市。
俺は、築三十年のボロアパートの四畳半で、三万円のゲーミングチェアに深く腰掛けながら、PCのモニター上で名刺のデザインを作成してニヤニヤと笑っていた。
VTuber界の格闘エンタメ『V-Breaking』での優勝。
爆発的に跳ね上がった売上と、それに伴い確定した来年の『絶望的な税金』。
そこからの大逆転の一手として、AIのジェミニ先生が提案したのが【法人化(会社設立)】だった。
会社を作れば、税率は頭打ちになり、経費の幅も広がる。
そして何より、消費税の免税期間というボーナスタイムすら狙えるという、まさに魔法の杖。
「あー、忙しい忙しい。社長ってのは、会社の未来を考えるだけで一日が終わっちまうぜ」
俺がすっかり有頂天になり、仮想の六本木オフィス(実態は帯広の四畳半)から夜景を見下ろす妄想に浸っていると。
『ピローン♪』
ディスコードの通話が繋がり、元コールセンターの猛者であるアシスタント、結愛(ゆあ)の氷のように冷たい声が響いた。
『ルシフェル社長。名刺のデザインに現実逃避されているところ大変申し訳ございませんが、設立手続きにおいて決定すべき最重要事項が残っております』
「なんだ結愛。社長って呼んでくれていいぞ。で、最重要事項って?」
『【役員報酬】の設定です。株式会社インフィニティ・ワンから、代表取締役であるルシフェル様個人へ、毎月いくらの給料を支払うかを決めていただきます』
「おお、給料か!」
俺は腕を組んだ。
個人事業主の時は、稼いだ金は全部自分のもの(そして全額が税金の対象)だった。
だが、法人になれば、会社のお金と個人のお金は完全に分離される。
俺は自分の会社から『給料』をもらう立場になるのだ。
「ジェミニ先生が言ってたな。『給与所得控除』が使えるから、役員報酬を適当な額に設定すれば税金が安くなるって」
『はい。役員報酬は、原則として事業年度の開始から三ヶ月以内に決定し、その後一年間は【毎月同額】で支給しなければなりません。途中で勝手に上げたり下げたりすることは、税務上厳しく制限されています』
「なるほど、一年間固定か。……よし! じゃあ、景気良く月額【八十万】くらいでどうだ!」
俺が豪快に宣言すると、結愛は一切の感情を交えずにタイピング音を響かせた。
『……承知いたしました。では、役員報酬を月額八十万円とした場合の、【社会保険料】のシミュレーション結果をお伝えいたします』
「しゃかいほけん……? ああ、健康保険と厚生年金か。まあ、個人事業主の時のクソ高い国民健康保険よりはマシなんだろ?」
俺は軽い気持ちで鼻で笑った。
個人事業主の国民健康保険料は、稼げば稼ぐほど青天井で上がり、俺の所得だと問答無用で上限額(年間百万円以上)に達してしまう。
それが法人になれば、立派な『社会保険』に入れるのだ。
『ルシフェル社長。法人を設立した場合、たとえ社長一人の会社であっても、健康保険と厚生年金への加入は【絶対の義務(強制加入)】となります』
「おう、わかってるよ。将来もらえる年金も増えるし、いいことずくめじゃねえか」
『はい。そして、社会保険料の最大の特徴は【労使折半(ろうしせっぱん)】というシステムにあります』
「労使折半?」
『保険料の半額を会社(使用者)が負担し、残りの半額を個人(労働者・役員)が給料から天引きされる形で負担する仕組みです。会社が半分払ってくれるので、個人の負担が軽くなるというメリットがございます』
「おおっ! 半分会社が払ってくれるのか! めちゃくちゃラッキーじゃん! やっぱり法人化は神だな!」
俺がバンザイをして喜んでいると。
結愛は、まるでおかしな生き物を見るかのような、静かで、冷酷なトーンで問いかけてきた。
『……ルシフェル社長。一つ、ご確認よろしいでしょうか』
「ん? なんだ?」
『株式会社インフィニティ・ワンの株主は誰ですか?』
「俺だよ。俺が資本金百万円を全額出すんだから」
『では、会社の唯一の役員であり、会社の財布(銀行口座)を実質的に握っているのは誰ですか?』
「だから、俺だろ? 代表取締役社長の、秋谷雪だ」
『……左様でございますね。では、もう一度申し上げます』
結愛の声が、地獄の底から響く死神の宣告のように低くなった。
『会社が払う半分も。個人が払う半分も。その出所は全て、【ルシフェル様が配信で稼いだ売上】です』
「…………」
『言葉のトリックに騙されないでください。一人社長の法人において【労使折半】という概念は無意味です。右のポケットから出すか、左のポケットから出すかの違いであり、事実上、【全額をご自身の稼ぎから負担】することになります』
「…………え?」
俺のバンザイしていた両腕が、ゆっくりと下ろされた。
半分会社が払ってくれる。
確かに、大きな企業に雇われているサラリーマンなら、それは事実だ。
だが、俺は『一人社長』。
会社のお金=俺が稼いだお金、である。
会社が払おうが俺が払おうが、結局は俺の事業全体のキャッシュ(現金)から消えていくことに変わりはない。
「ま、待て。ってことは……。月額八十万の役員報酬にした場合、その社会保険料の『全額』って、いくらになるんだ……?」
『健康保険料と厚生年金保険料を合わせまして、月額およそ【二十四万円】となります』
「に、にじゅう、よんまん……ッ!?」
『はい。年間にして約【二百八十万円】です。これが、役員報酬八十万円から天引きされる分と、会社の口座から引き落とされる分の『合計額』となります』
「にひゃくはちじゅうまんんんんん!?」
俺は三万円のゲーミングチェアから転げ落ち、四畳半の畳の上で絶叫した。
「国保のMAXより高えじゃねえか!! なんだそのバカみたいな金額は!! 毎月二十四万!? 俺の帯広のボロアパートの家賃の六倍だぞ!! それが息してるだけで消えるのか!?」
『はい。社会保険料には、税金のような基礎控除も青色申告特別控除も存在しません。設定した額面に対して、容赦なく約30%弱の保険料が課せられます。これが、日本の法人が直面する最大の壁、【社会保険料という名の裏ボス】です』
「裏ボス強すぎるだろ!! なんだよこれ!! 節税のために法人化したのに、社会保険料で相殺……いや、それ以上に金が飛んでいくじゃねえか!!」
俺が床をのたうち回っていると、結愛はさらに無慈悲な追撃を放ってきた。
『ルシフェル社長。絶望されるのはまだ早いです。法人というアバターを維持するための【みかじめ料】の説明が残っております』
「みかじめ料……? まだあるのかよ……っ」
『【法人住民税の均等割(きんとうわり)】です。帯広市の場合、資本金一千万円以下、従業員五十人以下の法人であれば、道民税と市民税を合わせて、年間およそ【七万円】となります』
「な、ななまん。……まあ、二百八十万に比べたら、まだ可愛く見えるな……」
俺が麻痺した金銭感覚で呟くと、結愛は冷酷な事実を叩きつけた。
『この七万円の恐ろしいところは、会社が【大赤字】であっても、休業状態であっても、法人がそこに存在している限り、毎年絶対に納めなければならないという点です』
「…………は?」
『個人事業主であれば、赤字になれば住民税は非課税になります。しかし法人は違います。利益がゼロでも、マイナスでも、「法人という人格を帯広市に置かせてもらっているショバ代」として、絶対に七万円を徴収されます』
「赤字でも……払う……?」
『はい。払えなければ、当然のことながら、市役所のケースワーカー……いえ、徴税吏員による財産の差し押さえが執行されます』
「鈴木さんッ!! 法人になっても鈴木さんからは逃げられないのかァァァ!!」
俺は両手で頭を抱え、畳に顔を押し付けた。
法人化。代表取締役社長。
その甘美な響きの裏側には、個人の時とは全く違うルールで俺の首を絞めに来る、国家の精緻な集金システムが張り巡らされていたのだ。
「社長なんてやめだあああ!! 俺はただの四畳半のおっさんなんだよ!! なんで会社なんて作ろうと思っちまったんだ!!」
『ですが、ルシフェル社長。すでに定款の認証予約は完了し、資本金の払い込みも済んでおります。後戻りはできません』
「鬼ぃぃぃ!! お前もジェミニも、なんでこの裏ボスの存在をもっと早く、デカい声で教えてくれなかったんだよォォ!!」
『税理士や専門家に相談せず、AIの甘い提案と自身の見栄だけで突っ走った経営者の自己責任かと存じます』
元クレーム処理のプロによる、完璧な正論。
インボイスの地獄から逃れるために、法人化という名のドアを開けた男。
しかし、その先に待っていたのは、社会保険料と均等割という名の、決して逃れることのできない『新たな拷問部屋』であった。
株式会社インフィニティ・ワンの社長の椅子は。
座った瞬間にケツに突き刺さる、見事な『針のむしろ』だったのである。
コメント
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うわっ、第91話読み終わった!「社会保険料の裏ボス」どころじゃないなこれ…。結愛の「労使折半のトリック」解説、マジで笑ったけど同時に震えたわ。半分って言ってもどっちも主人公の財布じゃねえか!ってオチが秀逸すぎる。そして「赤字でも法人住民税の均等割7万円は払う」ってとこで、個人事業主の時は逃げられた鈴木さん(徴税吏員)が法人化しても追ってくるって描写が哀愁あってツボった。帯広四畳半の社長室と六本木妄想のギャップ萌えも好き🔥