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しずく@病み×鬱
その夜の任務も、いつも通り鮮やかに完了したはずだった。
ターゲットを盗み出し、アジトへと撤退する間際。夜闇に紛れて移動していた6人の最後尾を歩いていたみことの背後に、音もなく「謎の影」が忍び寄る。
「──っ!?」
背後から伸びた黒い手袋が、みことの口を完全に塞いだ。悲鳴をあげる隙さえ与えられない。強力な麻酔を嗅がされ、みことの意識は急速に闇へと落ちていった。
「おい、みこと。次の角を曲がったら車が……って、おい!?」
先頭を歩いていたなつが振り返ったときには、もう遅かった。そこにみことの姿はなく、地面には彼が身につけていたインカムだけが虚しく転がっていた。
「みこと!? 嘘、どこに行っちゃったの!?」
らんが周囲を見回すが、夜の静寂が広がるばかり。いるまが即座に端末を叩き、みことのGPSを追跡する。
「クソッ、電波が遮断されてやがる。……連れ去られた。罠だ」
いるまの言葉に、こさめが顔を青くし、すちの瞳からいつもの眠気が完全に消え去った。
「……僕たちの正体を狙う奴らの仕業だね。いるまちゃん、場所の特定を急いで。ばれるとかどうでもいい。みこちゃんを助けに行くよ」
すちの低く冷徹な声が、夜の空気をピリつかせた。
不気味な地下室。
冷たい椅子に縛り付けられたみことは、激しい頭痛と共に目を覚ました。
口には頑丈な猿ぐつわ(口枷)が嵌められており、声を発することができない。声帯の振動すら封じるその拘束は、明らかにみことの『魅了の歌声(チャーム)』を警戒してのものだった。
目の前には、冷酷な笑みを浮かべた男たちと、机の上に置かれた一枚の紙とペン。
「目が覚めたか、怪盗シクスフォニアの王子様」
男がみことの髪を乱暴に掴み、顔を近づける。
「お前の声の力は知っている。だから声は出させん。仲間の正体とアジトの場所を、その紙に書け。……書くまで、じっくり可愛がってやるよ」
ドスッ、と鈍い音が地下室に響く。みことの腹部に容赦ない衝撃が走り、彼は声を殺して苦悶に顔を歪めた。
「さあ、書け」
みことはペンをもちすらすらと紙に書いた。男も「こいつらの絆はそんなものか」と嘲笑っていたが男の予想とは違うことが紙には書いてあった。そしてみことは黄金に輝く瞳で男を睨んだ。
【お前に教えることなんてない】
「てッテメぇ!!!」
(みんな……来ちゃダメだ……! これは僕たちを捕まえるための罠だから……!)
声にならない叫びが、みことの心の中で虚しく響いていた。
その頃、地下室の分厚い鉄扉の向こう側では、すでに怒涛の反撃が始まっていた。
「見つけた。ここだ」
いるまがハッキングで割り出した秘密の監禁所に、5人は正面から突入していた。
「侵入者だ! 撃て!」
現れた十数人の警備兵に対し、いつもなら気配を消すはずの怪盗団が、その牙を剥き出しにする。
「──『 そこを動くな(フリーズ) 』!!」
なつの『絶対命令』が響き、前列の兵士たちの身体が硬直する。
「──『 叫べ(スクリーム) 』!!」
間髪入れずにらんの超高音波が炸裂し、兵士たちの三半規管を破壊して次々と気絶させていく。
「こさめの仲間になに触ってんのさ……!!」
こさめが『音響操作』で敵の銃声をすべて相殺し、反撃の機会すら与えない。自分たちの正体が公になるリスクなど、今の5人には関係なかった。ただ一人、大切な仲間を取り戻すためだけに、彼らは嵐のように突き進む。
そしてついに、みことが囚われている最深部の鉄扉の前へと到達した。
扉は爆破でも壊れない特殊な防犯合金で作られており、内側から完全にロックされている。
「すち、頼んだ!」
いるまの叫びを受け、すちが静かに一歩前に出た。その瞳は、怒りで凍りついている。
「……俺のみこちゃんに、何してくれてんの」
すちは深く息を吸い込み、限界を超えた出力をその声に込めた。
「────『 塵 に 還 れ(デストロイ) 』」
絶対的な『共鳴破壊(レゾナンス)』の波動が放たれた。
ドォォォン!!!という凄まじい衝撃音と共に、強固な鉄扉がまるで紙切れのように粉々に砕け散り、部屋の中に爆風が吹き荒れる。
「な、なんだと!?」
部屋の中にいた男たちが驚愕して振り返る。
煙の中から現れたのは、怒りを纏ったすちの姿だった。
「すち……くん……」
猿ぐつわの奥で、みことの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。
「待ちくたびれた? みこちゃん」
すちは一瞬でいつもの不敵な笑みに戻ると、電光石火の速さでみことの元へと駆け寄った。
近づこうとする男たちに向かって、後ろから突入してきたなつが「『 跪け 』」と言葉を放ち、男たちをその場に強制的に平伏させる。
その隙に、すちは丁寧な手つきでみことの口枷を外し、縛られていた縄を素早く解いた。
「もう大丈夫。お疲れ様、よく耐えたね」
自由になったみことの身体を、すちが優しく抱きしめる。
「みんな……ごめん、僕のせいで……」
掠れた声で謝るみことに、背後かららんとこさめが飛びついてきた。
「謝らないでよみこと! 無事で良かった、本当に良かったぁ……!」
「みこちゃんがいないシクフォニなんて、シクフォニじゃないもん!」
いるまが男たちの通信機器を完全に破壊し、なつが「帰るぞ。いるま、車回せ」と短く告げる。
アジトへ戻る車中、すちの膝の上で毛布に包まれたみことは、ようやく安心したように小さく息を吐いた。
「すちくん、助けてくれてありがとう。みんなも……」
「ん、いいよ。でも、次は僕がピンチになったら、みこちゃんが最高に格好いい歌声で助けてね?」
すちがふにゃりと笑って、みことの頭を優しく撫でる。
大切な仲間を奪うことなど、誰にもできない。6人の怪盗団の絆は、この夜、さらに強く揺るぎないものへと変わっていった。
コメント
2件

良かった無事で💦 みんなの絆が今回も見れました。ありがとうございます!