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「先程まで死にかけていた者の台詞とは思えんな。面白い、破れるものなら破ってみるがいい!」
アザミは左手からだけではなく、右手からも刃鋼線による多重攻撃を仕掛ける。
見えない幾重もの刃鋼線がユキを襲うーーが。
ユキは見えない筈の刃鋼線を、刀と鞘で器用に捌いていた。その周りには無数の金属音と、金属と金属がぶつかり合う時に生じる火花が散らされる。
“こ、こいつ!?”
アザミはその状況に思わず目を見張った。
“目に見えぬ筈の刃鋼線を刀で捌くとはな……。目で見て捌いてる訳じゃない。僅かな音を頼りに捌いてやがる!”
刃鋼線から僅かに生じる、空気が裂かれる音。視覚ではなく聴覚で見えない刃鋼線を捌くユキの技量に、アザミは思わず感嘆していた。
“ふっ……何たる順応能力の高さか。どうやらこいつは、俺の想像以上のモノを持っているらしい”
「だがーー」
アザミの口許が吊り上がり、笑みが浮かび上がる。
「甘いわ!!」
アザミには裏の戦略があった。この刃鋼線は囮に過ぎない事を。真の狙いはーー
アザミは正面からの刃鋼線を囮に使い、ユキの四方八方から糸を張り巡らせていた。彼に気付かれない様、少しずつ。
“包囲完了。お前は正面からの刃鋼線に気を取られ過ぎたな。お前の周りには既に幾多もの刃鋼線が張り巡らせている。最早逃げ場は無い!”
アザミはタイミングを計っていた。確実に殺れるその瞬間を。
“捕らえた!”
ユキが正面からの刃鋼線を跳んで躱し、地面に着地した瞬間だった。
“ーー羅糸・獄縛陣”
アザミが四方八方に張り巡らせていた刃鋼線を、ユキに向けて放つ。
「これで終わりだ!」
アザミは勝利を確信するが如く、そう叫んだのだった。
「この時を待っていたのです」
四方八方から襲い掛かる刃鋼線を前にユキは、刀を地面へと突き刺した。
“星霜剣ーー氷仙花”
刹那、地面から氷の柱がユキの周りを包み込む様に盛り上がっていく。
「なにぃ!?」
ユキの周りを囲んだ幾多もの刃鋼線と、巨大な氷の柱がぶつかり合い、辺りに砂埃が巻き起こった。
「ちっ……」
“奴にはまだ、この力があったな”
崩れる氷の柱。その中心に居る筈のユキは、既に其処には居なかった。
「何処に行った!?」
“ーーはっ!?”
ユキは既にアザミの背後に周り込んでおり、アザミが気付いた時には、既に斬撃の途中であった。
“ちぃっ! 何時の間に!?”
アザミも瞬時に身体を捻り、右手の刃鋼線を繰り出す。
二人の攻撃が交差した瞬間だった。
「きっ……貴様ーー」
アザミの一撃はユキの頬を掠めただけに留まったが、ユキの一撃は確実にアザミを捉えていた。
アザミの首筋に赤い線が走る。
「馬鹿な……」
その線は身体と首を繋いでいたのがずれ、それと同時にアザミは後方へと倒れ込む。
アザミの首は完全に分離し、転がっていくのだった。
「ユキ!」
アミは急ぎ、力尽きたのか踞るユキの下へ駆け寄る。何とか勝利したとはいえ、多くの傷を受けているその姿が痛々しい。
「大丈夫ですよ。この位は何時もの事ですから……」
「もう、強がりばかり言って……」
彼は決しておくびにも出さないが、その痛々しい姿に思わずアミはユキを抱きしめ、肩に手を回す。
「それより、早く戻って傷の手当てをしないとね」
「ええ……」
ユキは彼女の肩を借り、二人はその場から踵を返す。
“奴が力を出す前に終わらせる事が出来た……”
ユキは何処か釈然としないながらも、その事実に安堵し歩を進める。
事実、アザミの力は刃鋼線だけでは有るまい。ユキが最初にアザミを見た時、四死刀にも通ずる力が有るだろう事は雰囲気で感じていたから。
だが、相手の力を全部出させる前に終わらせるのが、闘いに於いて最善の策で有る事は間違いない。
“だけど……この拭い様の無い違和感は一体?”
「うっ!?」
ユキは不意に歩みを止めた。彼の異変にアミも気付く。
「……ユキ?」
不安そうにアミはユキの顔を覗き込む。その口許からは、一筋の血が流れ落ちていた。
「ユキ!?」
そしてアミは確かに見た。ユキの腹部から滲む血と共に伸びる、一筋の煌めく線を。
血を伝い、はっきりと視覚出来る。それは間違いなく刃鋼線だった。
一本の刃鋼線が、ユキの背後から腹部を確実に貫いていた。
アミは崩れ落ちそうになる彼を支えながら、恐る恐る背後を見る。
「嘘……何で?」
彼女の困惑も当然。何故なら何事も無かったかの様に、右の人差し指を此方に向けたアザミが立っていたのだから。