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「河合様、こちらです。私から離れないように着いてきてくださいませ」


俺と美作は日雷に到着した。初めて乗った飛行機の感想は正直言って怖かった。思っていた以上に揺れるし、耳は変な感じになるし……


美作は景色が綺麗だから見てみろと勧めてきたけど、そんな余裕は無かった。墜落するんじゃないかという恐怖が常に付き纏い、座席からほとんど動けなかったのだ。当然だが美作は慣れているようで、飛行機が揺れても全く動じていなかった。自分の鞄から仕事の書類を取り出して目を通すほどの余裕っぷりだ。俺は自分で思っていたよりもビビリだったのかもしれない。

初めての空の旅は1時間程度の短いものだった。俺はここまで人の運転する乗り物に乗っていただけだというのに、かなりの疲労感に見舞われていた。



「それにしても、都会の空港って凄い広いなぁ。人の数もやべー……」


地元の空港とは比べものにならない規模と人の多さに圧倒された。土産屋や食事処などの店もたくさんあって目移りしてしまう。自分ひとりだったら迷子になっていたかもしれない。


「ロビー内にあるカフェでご主人様と落ち合う予定になっております。その後食事に行きましょうね」


食べたい物を考えておけと言われていたのにまだ決まっていなかった。俺は食べ物の好き嫌いはないし、何でもいいんだけどな。

相手が希望に沿うと言ってくれているのに『何でもいい』は回答として良くない。参考になればともう一度ロビー内を見渡してみる。すると、柱や壁に掲示してある映画のポスターが目に飛び込んできた。


「あっ、五十嵐悠生いがらしゆうせいだ。この映画ちょっと気になってたんだよね。試験が無事に終わったら観に行こうかな」


テレビでも番宣を何度か見たことがあった。人気ミステリー小説が原作で話題になっているタイトルだ。原作人気もさることながら、主演を勤めるのが五十嵐悠生ということもあり、制作サイドの力の入れようも窺える。


「……河合様は『五十嵐悠生』をご存知なんですね」


「あんな超人気俳優を知らないとかは流石に無いって。同級生にもファンめっちゃいるからね」


『五十嵐悠生』……実力派俳優として名を馳せており、様々なドラマや映画に出演している。老若男女幅広い層にファンがいて、この手のエンタメ系の話題に疎い俺ですら、名前と顔が一致する数少ない芸能人だ。


「もしかして、河合様もファンなんですか?」


「ファンってほど詳しくはないけど嫌いじゃないよ。イケメンだとも思うしね。美作さんはどう? 五十嵐悠生好き?」


「普通ですね。確かに彼は素晴らしい才能をお持ちなんでしょうが……私個人としては特に思い入れはありません」


「あー……そうなんスか」


五十嵐悠生について語る美作の様子に違和感を覚える。好きかと聞かれて普通だと言っておきながら言葉の端々に棘を感じるのだ。実は嫌いなのかな。俺に合わせてくれてるとか? それに……まるで知り合いの事を言っているみたいな口調なのも気になる。


「いてっ!!?」


突如、体に強い衝撃を受ける。それと同時に左肩あたりに痛みが走った。バランスを崩して転びそうなってしまったが、なんとか持ち堪える。何か大きな物体がぶつかってきたみたいだ。


「河合様!! 大丈夫ですか」


「うん、平気」


「まったく……一言くらい謝罪をするのが礼儀でしょうに……」


「ああ、あの人とぶつかったのか」


美作の視線が向いている方に注目すると、黒色のパーカーを着た男性が小走りで立ち去ろうとしている所だった。手にはピンク色のバッグを持っている。服装と合ってないな……

男はよほど急いでいるのだろう。寝坊でもしたのかもしれない。


「ぼんやり立ってた俺も悪いからさ。こんな人が多いとこで安易に立ち止まっちゃダメだね」


「ここにもしご主人様がいたらあの男……ただではすまなかったですよ」


「物騒な事言わないでよ。てか、東野さんってそんなにキレっぽい人なの? なんか意外……」


ぶつかった当事者の俺よりも美作が怒ってくれているので、逆にこちらは冷静になってしまう。人の多い場所ではよくあることだろう。そんなに気にすることでもない。


「美作さん、もういいから。東野さんと約束してるっていうカフェに行こうよ」


まだ納得のいかない顔をしている美作を宥め、待ち合わせの場所に移動しようとした。その時だ……

近くの待機椅子に座っている若い女性二人組の会話が聞こえてきた。


「あれ、おかしい。さっきまでここに置いてたのに……」


「スーツケースの中じゃない? お土産の整理してた時に一緒にしまっちゃったとか」


「うん……もう一度確認してみる」


どことなく不穏な雰囲気が漂っていたので、俺たちは移動しようとした足を一旦止めて、女性たちの様子を窺った。


「やっぱり無い……どうしよう」


「もっとちゃんと探そう。ピンクのリボン付いたバッグだよね?」


ピンクのバッグ……リボンの付いた?

女性たちの会話内容から、さっきまで手元にあった持ち物が紛失したらしいという事が分かった。俺と美作は顔を見合わせる。彼もきっと俺と同じことを考えているはずだ。


「なあ、美作さん。さっき俺にぶつかったおっさんだけど、ピンクのバッグ持ってたよね。あれってもしかして……」


「置き引きですね。妙に慌ただしい素振りでおかしいとは思ってたんですよ……あの男」


服装と持ち物が合っていないと感じたのは間違いではなかったのか。あの時、男が抱えていたバッグはここにいる女性から奪ったもの……つまり盗品かもしれないってことだ。


「どうしよう……あのバッグの中に財布とか家の鍵とかも全部入ってるのに」


女性は今にも泣き出してしまいそうだった。女性の友人もおろおろするばかり……。どうしていいか分からず、ふたり揃ってパニックになっている。


「美作さん、ちょっとここで待っててくれる? すぐ戻るから」


まだそれほど遠くには行っていないはず。今から追えば間に合うかもしれない。幸い足の速さには自信がある。


「えっ、まさか河合様……」


「そのまさか。美作さんはあのお姉さんたちに付いていてあげて。それじゃ、よろしく!!」


「河合様!!!!」


叫ぶ美作をその場に残して、俺は全速力で駆け出した。

最強無敵の仮契約!?

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