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「優太ー?おきなさーい!何時だと思ってんのー?夏休みだからってダラダラしないでよねー。」
「今起きるー……」
重い体を起こし、近くにあった目覚まし時計を見る。
「10:36……まじかよ。」
どうやら目覚ましをかけ忘れていたようだ。外ではセミたちによる大演奏会がすでに開演している。この音だけで普通の日の2倍くらい暑く感じるのはなぜ?そんなどうでもいいことを考えながら階段をおりる。
「お母さん今から買い物に行ってくるから、朝ごはん適当に食べといてね。」
「うん。」
返事はしたもののあんまりお腹が空いていないので、食べる気はなかった。とりあえず着替えて、軽く身なりを整える。そしてソファーに腰を下ろしテレビをつける。だがこの時間はどのチャンネルも旅番組で、地方の温泉やら食べ物やらを紹介していた。正直に言おう、全く興味がない。僕はため息をつき、すぐにテレビを消した。そしてしばらくぼーっとすることにした。 高校生の夏休みといったら、友達と海にいったり、カラオケに行ったりするものだろう。部活に力をいれる人も多いかもしれない。ただ僕にはそんな予定はひとつもない。なぜかって?それは僕が去年の春に父の仕事の都合で引越してきたから。あまり人と話すのは得意ではないし、明るい性格でもなかったから全く友達がいない。もちろん部活にも入っていないから朝から練習ということもない。しかしそんな僕にも趣味というものがある。 ある場所へ向かうために家を出た。
「暑っ……」
日差しがジリジリと肌を焼き付けるのがわかる。10分ほど歩くと、大きな『本』と書かれた看板が見えてくる。初めて本というものを手にしたのはいつだっただろうか。気づいたら暇があれば本を読んでいた。ここの書店は結構大きめの店で、その分本も多く置いてある。家の近くに小さな書店があるので小さい頃はそこに通っていたが、物足りずこっちに来ることの方がいつの間にか多くなっていた。店内に入ると少し違和感を覚えた。空間や空気が入れ替わるような感じがした。僕は立ち止まり、自動ドアの方に視線を向ける。
「え、なんで?」
外は雨が降っていた。驚きすぎて声を出してしまったようだ。周りの人達がこちらを見ている。そして周りの人は雨が降っている事をあまり気にしてないみたいだった。天気雨だと思うことにしてそのままいつものように小説のコーナーに向かった。しかしいつも小説のコーナーがあるスペースに何故か料理本が並んでいた。「あれ、コーナーの入れ替えでもしたのかな。」
今思えば店の雰囲気も少し変わった気がする。もう少し綺麗で新しい感じの店だったはずだが、そこまで店内をじっくり見た事がなかったのであまり深くは考えなかった。5分程店内を回ってようやく小説のコーナーを見つけた。そこで僕はまた違和感を覚えた。見たことがない本が沢山並んでいた。コーナーを一通り回って見てみたが知っている本は1冊もなかった。1冊適当にとって、最後のページを開く。
――初版2039年5月21日・第5版2041年6月18日――
訳が分からなかった。ありえなかった。
「え、今って2021年だよな…これおかしくない?」
ポケットに入れていたスマホを取りだし、カレンダーを見る。そこにはやっぱり2021年7月21日と書いてある。僕は早歩きでその場を離れ、カウンターへ向かった。
「すみません!今日って何年何月何日ですか?」
自分から聞いておいてなんだが、馬鹿な質問だと思った。
「ええと……。今日は7月21日ですね。」
「何年ですか?!」
食い気味に聞いたせいで、店員は少し驚いた。しかし、そんなことなどうでも良くなっていた。
「2041年ですけど……。」
気づいたら店を飛び出していた。そして、雨の中自分の家があったはずの場所へ走った。道の面影はあったものの、建っている周りの家は変わり、自分の家があった場所には別の家が建っていた。鳥肌がたっていくのが分かる。手足も震え始めた。少し落ち着こうと思い、あるはずのない公園のベンチに座った。雨が少し強くなったような気がした。