テラーノベル
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その日は雨だった。
大通りに面したガラス張りの窓に、いく筋もの雨粒が伝い落ちていた。
瑠璃は向かいの空席を、鼻先にボールペンを当てながらぼんやりと眺めていた。
数時間前、営業部部長が黒木のワークデスクに立ち寄り、瑠璃の方を指差した。
何事だろうと思っていると、富山支店から異動してきた男性社員の空席に奈良をあてがえという指示が出たらしい。
それを聞きつけた寿が、二つ離れた《島》で眉毛を八の字にし、眉間に皺を寄せ、口元はへの字、両腕で大きくバツというポーズをして見せた。
(……な、なに?)
次に寿は指で営業部フロアの出入り口を指差し、顎をくいくいと動かした。
どうやら廊下に来いという事らしい。
「あ、ちょっとお手洗い」
「ん、行ってらっしゃい」
瑠璃が廊下に出た途端、寿はその腕をむんずと掴んで化粧室へと押し込んだ。
周囲を見回し、念入りに誰もいないか確認してから、寿は声を潜めた。
「瑠璃、気を確かに持って!」
「う、うん」
「あんたの前の空席」
「うん」
「奈良が座るんだってよーーーーー!」
「え」
「さっき、くそタヌキが黒木に言ってた」
「タヌキ……あぁ、部長ね」
「てか、奈良よ!? あんた分かってんの!?」
「今、分かった」
寿は瑠璃の制服の胸ぐらをギュッと掴むと、顔を近づけた。
「ち、近い、近い、近い!」
「健じゃなくて、《奈良さん》よ」
「う、うん」
「島流しよ」
「う、うん」
あと三日。
あと三日で奈良が出勤してくる。
長距離恋愛が破綻した、以前の恋人がこれからは目の前の席に座る。
ボールペンを鼻先から離した瑠璃は、遠く離れた黒木の席を見た。
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