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第八話 「放課後の再会」
夜風が止まった。
月の光の下、屋上のドアの向こうに立つ影。
白いリボンが、静かに揺れていた。
「——紬。」
その声は確かに、あの時と同じ。
優しくて、でも少しだけ悲しい響き。
「……美咲、先輩……?」
影がゆっくりと近づいてくる。
その顔は、写真の中で見たままの彼女だった。
けれど——肌は少し透けていて、
風に溶けそうに儚い。
「やっと……思い出してくれたんだね。」
美咲先輩は微笑んだ。
「私、あの日……紬ちゃんを待ってたの。
でも、代わりに来たのは……“あの声”。」
「“あの声”って、誰なんですか?」
怜が一歩前に出た。
美咲先輩の瞳が、少しだけ曇る。
「学校に残された“影”。
消えた想いが集まって、人を呼ぶの。
放課後、心に“後悔”を残した人をね。」
美園が震える声で尋ねた。
「じゃあ……お姉ちゃんは、その“影”に——?」
「……引き込まれたの。
でもね、私は怖くなかった。
だって、“最後に紬ちゃんが来る”って信じてたから。」
涙が、自然にこぼれた。
「私……あの時、助けられたのに……!
扉が閉まった瞬間、何もできなかった!」
「違うよ、紬ちゃん。」
美咲先輩は静かに首を振った。
「あなたは“呼ばれた側”だったの。
でも私が——あなたの代わりになった。」
「代わり……?」
「放課後の影は、“誰かを連れて行く”かわりに、
“もう一人を残す”の。
私はそのとき、あなたを守りたかった。」
怜と美園が息をのむ。
夜の風がふっと優しく吹いた。
月の光の中で、美咲先輩の姿が少しずつ薄れていく。
「先輩、行かないで!」
思わず手を伸ばす。
でも、触れられない。
「大丈夫。もう放課後は、終わるから。」
彼女は微笑んで、
私の胸に手を当てた。
「——“声”の正体は、あなたの心よ。
ずっと、自分を責め続けていた“もうひとりの紬”。」
その瞬間、視界が白く染まった。
風の音も、足音も、すべて消えていく。
ただ、遠くで小さく響く声。
『ありがとう。もう、帰っていいんだよ。』
気づくと、私は教室にいた。
朝の光が差し込んでいる。
机の上には、一枚の白いリボン。
そしてノートの最後のページに、新しい文字。
『放課後、完結。ありがとう。』